第68話 4対10000
夜が明けてから俺たちは動き始めた。
「じゃあ、行こうか」
行こうかと言ってみたが、散歩にでも行こうかと言った感じだ。証拠も揃ったので、直接城に忍び込んで領主を捕らえる予定である。
「スキルも格段に強化されたし大丈夫だと思う。なるべく戦闘は避けたいしな。まさか正規軍が出てくるはすは無いと思うが。ははは」
たかが数人の冒険者に辺境伯が大軍を差し向けるとは思えない。
「そうね、軍は出てこないわよね。まあ、出てきたらアタシの魔法でドカーンだし」
シーラが怖いことを言っている。
「軍が出て来ても問題無いわ。アキちゃんの敵は私が殲滅するから♡」
アリアの顔がマジだ。冗談だと思いたいが、奴隷密売所を攻撃した時も、わりと本気でぶっ壊していたのでマジかもしれない。
「ボクも頑張るからねっ! アリアには負けてられないから」
レイティアは大丈夫だろう。ノーコンなので当たらないと思う。
「よし、レイティアとアリアとシーラは俺と城へ、ジールはこの孤児院で待機だ」
「おい、何で私だけ待機なのだ!」
一人だけ待機にされたジールが不服そうな顔をする。
「心配なんだ。何かあったら困るだろ」
「うっ、し、心配してくれるのか……?」
「当然だろ。怪我でもしたらどうするんだ」
「くっ、お前……。わ、分かった……」
(分かってくれたか、ジール。もしかしたら、俺たちが留守の間に孤児院が襲われるかもしれないからな。子供たちが心配だ)
「し、しかし……飴と鞭で私を揺さぶるとは……」
「ん?」
「ふっ、竜族は少子化なのだ。たとえ姫様の男でも子種は別……」
「何を言っているんだ、ジール?」
ジールが意味不明なことを言っているがスルーしておこう。きっとドM的な何かだ。
◆ ◇ ◆
城の近くまで来たものの、俺たちの予想は大きく外れていた。
「ちょっと、アキっ! 話が違うじゃない」
シーラが文句を言うのも当然だ。
城にはもの凄い大軍が終結していた。
「うーん、ざっと一万はいそうだ。これは忍び込むのは無理そうだな」
どう見ても正規軍だ。いくら大きな権限が与えられた辺境伯とはいえ、一介の冒険者パーティーを捕まえるのに正規軍を動かすなど許されるのか。
「うん、燃やそう♡」
「燃やしちゃダメっ!」
アリアの腕を止める。冗談だと思いたい。
「辺境伯が悪事を働いているのが証明されても、正規軍を全滅させたら王都に帰れないだろ」
「もう、冗談よ。アキちゃん♡」
アリアの冗談はさておき、作戦を考えねば。
(正面から攻めるのは無理か。正規軍には手練れの騎士と魔法師団が存在するはずだ。ここは搦め手で……)
ちょうどその時、城に向かう荷馬車が通りかかった。荷台には山のような野菜や果物が載っている。
「あの荷馬車に紛れ込もう。荷台に隠れていれば城まで連れて行ってくれるはずだ」
シーラが訝し気な顔をする。
「そんなオヤクソクな作戦に敵が引っかかるかしら?」
「案外こういうのが上手く行くもんだぞ」
レイティアとアリアは乗り気だ。
「やっぱり忍者みたいだね」
「アキちゃんとキャベツ畑でくんずほぐれつ……♡」
それはそれで不安になるのだが。
結局実行に移すことに決定した。
死角となる後ろから馬車に近付き、一気に荷台に入り込む戦法だ。
「念のためバフを掛けておこう。素早さも上げないとならないしな」
【付与魔法・肉体強化極大】
【付与魔法・魔力強化極大】
【付与魔法・防御力強化極大】
【付与魔法・魔法防御力強化大】
【付与魔法・攻撃力上昇極大】
【付与魔法・素早さ上昇極大】
「これなら大丈夫だろ」
三段階覚醒した俺のバフは桁違いだ。
皆も驚きを隠せない。
「ちょっと、アキっ! これ無敵じゃない!?」
「まるでゴーレムのような防御力なんだけど」
「はぁんっ♡ アキちゃんとキャベツ畑ぇ♡」
アリアだけトリップしているようだが。
「よし、行こう!」
スジャッ!
バフで極限まで上げたスピードで荷馬車に入り込んだ。ちょっと狭いが密着しながらギリギリ四人が隠れるのに成功した。
ガラガラガラガラ――
「待て! 怪しい者が居ないか確認だ」
荷馬車が城門の前に止まると、守備している門番が荷台を調べようと幌を捲った。
ここまでは想定済みだ。
「荷物は野菜と果物か……」
「へい、採れたてキャベツと果物でごぜえます」
ゴソゴソゴソ――
門番の兵士が荷物を確認するが、俺たちを見つけられない。それもそのはず、前もって野菜を掻き分け中に潜っているのだから。
(領主に献上する食材だから粗雑に扱うはずはないはずだ。このまま隠れていれば……)
「あっ♡ アキちゃん……ダメっ♡」
このまま息を潜めていようとしているのに、何故かアリアの息が荒い。変な声まで漏らしている。
「アリアお姉さん、静かに」
「ダメよぉ♡ アキちゃんに抱きしめられて我慢できないのぉ♡」
「ええええ……」
野菜の中で密着しているのが裏目に出たようだ。アリアの性欲を刺激して禁断症状まっしぐらだ。
しかもレイティアまでおかしくなってしまう。
「はうっ♡ アキ君の硬いのが……」
「レイティア、それは俺の
ついでに冷静だったシーラまで問題発言だ。
「ちょっとアキ……アタシの胸を触るなぁ」
「狭いんだから無理言うなよ」
ゴソゴソゴソ! ガタガタガタ!
荷台から女の甘い吐息やら変な声が漏れ出してしまい、門番兵士に気付かれたようだ。
「おい、誰だ荷台でエッチしている不届き者は!」
「俺たち門番が仕事してるのに、公共の場所で隠れてエッチとか許せねぇ!」
(ごごごごご誤解だぁああああ! エッチしてないから! 隠れているだけなのに! 何故バレたんだぁああああ!)
「野菜の中が怪しいぞ!」
「ああ、槍で突いてみるか!」
(マズい! 大切な彼女たちを槍で突くだと! そんなの許せねえ!)
ガラガラガラガラ!
もう隠れているのは無理だ。俺は野菜の中から飛び出した。
「お、俺の大切な
いつものことながら熱くなってしまう。皆に危険が及ぶと我を忘れる性分は変えられない。
「よし、もうやるしかない」
そこで俺は閃いた。むしろ正面から大騒ぎした方が都合が良いのではと。王都まで騒ぎが伝われば、必ず国王が介入するはずだ。
「俺が特級魔法で変身する。皆をプロテクションで守りながら中央突破だ。城内に突入し辺境伯を捕まえれば城は落ちるはずだろ」
俺の案に、皆は黙ったまま顔を見合わせている。
何か変なことを言っただろうか?
「アキ……あんた意外と過激ね」
「アキ君って、真面目な顔して大胆なんだよね」
「それ、アキちゃんって、そういうとこあるわ♡ エッチの時は豹変しそう♡」
ベッドでの話に飛躍している。
「そ、そんなに変な話か? むしろ一気に中央突破すれば、相手は同士討ちを避ける為に攻撃できなくなるだろ」
皆の顔が赤くなる。
「アキ君って、一気に行く派なんだ……」
「いやぁん♡ 激しぃ♡」
「アタシ……体が持つかしら」
「おい、一旦エッチから離れろ」
もう迷っている猶予はない。俺は特級魔法を使った。
(前回は使用後に急激なステータス低下と疲れが出た。でも、今は危機を脱するのが先決だ)
【特級魔法・エルフ族の叡智・
シュパァァァァーン!
『警告! 警告! スキル【専業主夫】特級魔法・エルフ族の叡智を使用。
【特級魔法・竜族の叡智・
グググググググググッ!
俺の体に力が漲ってくる。爆発しそうな程に。
『警告! 警告! スキル【専業主夫】特級魔法・竜族の叡智を使用。
【特級魔法・魔族の叡智・
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ガキッ! ガキッ! ガキッ!
濃密な魔素が俺の体を包み、異形の甲冑を形成する。
『警告! 警告! スキル【専業主夫】特級魔法・魔族の叡智を使用。
三連続特級魔法を使用だ。
俺は気付いていなかった。やり過ぎてしまうことに。その結果が、どのような結果をもたらすのか知らないまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます