第65話 奴隷密売組織壊滅作戦
ドゴォォォォーン! ズガガガーン! ゴバァアアアアッ! ドッガーン!
この世の終わりみたいな業火と迅雷が辺り一面に降り注ぎ、壁や建物など建造物が破壊されてゆく。
まさに災害級魔法だ。
「ええぇっと……前より更に攻撃力が上がっているような?」
目の前で繰り広げられる惨状を見た俺はつぶやいた。
「アキちゃんのバフのおかげねっ♡」
「そうよ、アキは最高の
嬉々とした顔で魔法を撃ちまくるアリアとシーラが言う。これではどちらが悪者か分からないぞ。
「うーん、俺は防御力を上げただけで攻撃力にバフをかけていないのだが。まあ、皆もクエストをこなしてレベルがあがってるのかな」
俺は二人に指示を出してから中に入る。
「二人はここで待機してくれ。中から関係者が逃げてきたら捕縛だ」
「分かったわ! 任せない!」
「縛るのなら得意よっ! アキちゃん♡」
アリアが『縛るの得意』とか言うと別の意味に聞こえてしまう。怖いので聞かなかったことにしよう。
まあ、シーラが一緒だから大丈夫か。
ドガッン! ガランガランッ!
ジールが崩れた入り口の残骸を腕力で放り投げ、そこから内部に突入した。
「な、なんだテメェらは!」
「クソッ! やっちまえ!」
奴隷密売組織の構成員が襲い掛かってきた。
ダンッ! ガシッ! ズバッ!
俺はジールに先んじて奴らを倒してゆく。覚醒によりステータスが急上昇した今の俺ならば、普通の人間程度なら素手で十分だ。
「おい、何故私の邪魔をする」
剣を抜いているジールが不満げな顔をした。前を塞ぐように俺が動いているので、邪魔だと思ったのだろう。
「ジールが戦ったら一撃で肉片にしそうだからな」
「悪党ならブッコロしても構わんだろ」
乱暴な物言いのジールに釘をさしておく。
「後々、こいつらには辺境伯が元締めだと口を割らせて証人になってもらうんだよ。ブッコロしたら余計にお尋ね者になっちゃうだろ。
俺の皮肉でジールの顔が真っ赤になった。
(ふっ、俺は同じ過ちを繰り返さないぜ! 他の女に優しくして面倒なことになったら困るからな。ここは、わざと皮肉でも言って嫌われておこう)
「くっ、くそっ、この私を恐れないばかりか……バカにするとか……。もう、どうなっても知らんぞ……」
「怒らせるとどうなるんだよ?」
「くぅっ、誰もが恐れる上位竜で
「なっ、逆効果だと……」
前から怪しいとは思っていたが、この女は変態では? 一見男勝りの怖い女に見えるが、その実ドMかもしれない。
むぐぅぅぅぅーっ!
レイティアから凄まじい視線を感じる。
「アキ君っ! それ、わざとボクを嫉妬させようとしてるのかな!? いい加減にしないと怒っちゃうよ!」
ぐぬぬぅ!
「ま、待てレイティア。わざとじゃないから」
「もうっ♡ 焦らしてばかりで悪いアキ君だよ」
「何のことだ」
「あと、お姉ちゃんだぞっ!」
俺とレイティアがイチャイチャし始めて、ジールがガックリと肩を落とした。
「あああ、この男は……また見せつけおってからに」
このドM女騎士は放置プレイして先に進む。これ以上は危険だ。
ザワザワザワザワザワザワザワ――
地下室の通路を進むと、そこには鉄格子の付いた粗末な部屋がいくつもあった。
鉄格子越しに、まだ幼い少女たちが手を伸ばしているのが見える。どれも年端も行かない魔族や獣人族の子供たちだ。
「た、助けてぇ」
「ママに会いたいよぉ」
「お家に帰してぇ」
少女たちの縋るような声を聞き、俺は悲しみと共に強烈な怒りが込み上げてきた。
「なっ! こ、こんな、酷い……。幼い子供を親から引きはがし、無理やり連れ去ったのかよ! こ、こんなの絶対に許せないぞ!」
世界には奴隷制度の存在する国も多い。しかし、それでも最低限の契約や法があってのものだろう。
しかし、ここに閉じ込まれている少女たちは、法も生きる権利も全て無視して拉致しただけに見える。
鬼畜にも劣る所業だ。
「待ってろ、今すぐ助け出してやるからな」
ガチャガチャ!
俺が鉄格子を開けようとしていると、通路の奥からフル装備の戦士が現れた。
コツッ、コツッ、コツッ!
シャキィィーン!
その男は俺の前で止まり剣を抜く。
「貴様らが指名手配の冒険者だな! アレクシス様に逆らう愚か者は、この俺が全員まとめて始末してやる!」
「誰だお前は!」
「ふははははっ! 俺か、俺はアレクシス様の第一の部下であり最強の騎士団長! 強い剣士スキルを持つ戦士よ! そして、この奴隷密売所を取り仕切る男だ! この幼い少女たちの悲鳴こそ、最高の音色を奏でる天上の音楽であるな! そう、この俺の名は――」
「うるせぇええええ! このクズがぁ!」
ドゴォォォォォォーン!
俺のパンチで男が吹っ飛び、石造りの壁にめり込んだ。プレートアーマーが俺の拳の形にひしゃげている。
ついイラっとして殴ってしまったが、重装備をしていたので致命傷は免れたようだ。
「さ、最後まで喋らせろぉ……ガクッ」
男が壁にめり込んだまま気絶した。
「あっ、つい熱くなってしまった。これはしょうがないよな。子供を泣かせる悪い奴は許せない」
一部始終を見ていたレイティアの目が輝いている。
「アキ君カッコいい♡ 最強の騎士団長を一撃なんだ」
「そんな褒めるなよ。照れるだろ。はははっ」
「はわわぁ♡ アキ君って、やっぱりしゅごいぃいっ♡」
そして何故かジールまで目を輝かせている。
「くふぅ♡ 何という乱暴で粗雑で力強い一撃か……。そ、そんな強さで私の初めてを奪われたら……。もう想像だけでおかしくなりそうだぞ」
この女は永遠に放置プレイしておこう。これ以上ジールに構うと、本当にレイティアが怒りそうだ。
「よし、手分けして子供たちを救出するぞ!」
鉄格子を壊して子供たちを保護してゆく。
「おい、こっちに来てくれ!」
ジールが俺を呼んでいる。何かあったのだろうか。
「どうした?」
「この子が……」
ジールが指差した先には粗末な布の上に寝かされた少女が居た。ネコミミが付いた獣人族の子供だ。
怪我をしているのか、やつれていて顔色も悪い。
「大丈夫か?」
「ひゅーひゅー……」
女の子の前で膝をつき声をかけてみたが、苦しそうに息をしているだけだ。
「その子、酷い怪我をしているの」
「ずっと苦しそうにして……熱もあって」
「看守の人に治してって頼んだのに、何もしてくれなかったの」
同室の子が口々に言う。
ペラッ!
傷口を確認しようと服を捲る。
「うっ……」
思わず俺は目を背けた。
傷口が化膿し酷い状態だ。肉体が腐りかけている。
「酷い……こんなのってないよ。アキ君……」
後ろから見ていたレイティアもくちびるを震わせている。
(これは通常のヒールでは治せないかもしれない。でも、俺の
「よし、【支援魔法・
シュワァァァァ――
少女の傷口は塞がってゆくのだが、腐った部分から体に毒が回っているのか症状が改善しない。
「ひゅーひゅー、ううっ……あああぁ」
(どうする?
俺は新たに取得したスキルを思い出した。
「これを試してみよう。
少女の息が弱まってゆく。迷っている場合ではない。
俺は少女の体に手をかざした。
「よし、これで頼む、【支援魔法・
シュワァァァァ!
少女の顔色が、見る見るうちに良くなってゆく。苦しそうに途切れ途切れだった息も穏やかになった。
「あ、あり……がとう、お兄ちゃん」
「ああ、もう大丈夫だぞ」
「うん……」
少女が笑顔になり、周囲の子供たちも歓声を上げた。
「良かったぁ!」
「やったぁー!」
「ありがとう!」
全員を救助した俺たちは、魔法攻撃で大騒ぎになっている地上へと出た。
組織の構成員は全員捕縛し転がされているようだ。
「よし、アリアとシーラが敵を引き付けている内に逃げるぞ」
俺は子供たちを連れ、夜の闇に紛れながら移動を開始した。
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