第64話 反撃開始!

 ゲリュオンの話はこうだ。


 何やら北海黒竜王エキドナの動きが怪しい。魔王と一緒に何かしているようなのだと。


 本来であれば竜王と魔王は一定の距離をとっていたはず。そもそも前魔王とは仲が悪く、百年前に終結した魔族と人族の大戦争にも、竜王は一切関与していない。


 しかし、最近新たに就任したとされる新魔王と黒竜王エキドナが、急速に関係が近付いている。

 そこで俺たちにエキドナの動静を調査し、ゲリュオンからの言伝を託したいという訳だ。



「まあ、そういう訳で頼んだぞ。貴様らの問題が片付いてからで良い。あと、危険だから娘は置いて行け」


 サラッとレイティアだけ守ろうとするゲリュオンだ。やはり親バカかもしれない。

 ただ、レイティアは親に反発するのだが。


「ボクはアキ君と一緒に行くよ。お父さんが反対すればするほど意志は固くなるから。結婚に反対したら駆け落ちするからね!」


(んんっ? け、結婚? 駆け落ち?)


「おい、レイティア? 駆け落ちって何のことだ?」

「ボクとアキ君の結婚に決まってるだろ」

「誰と誰が?」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!

 レイティアが俺に抱きついてきた。


「アキくぅ~ん! それわざとやってるの? わざとだよね? 本気で怒っちゃうよ♡」


 レイティアの威圧感が急上昇する。こんなところは竜王譲りか。


「あぁ~きぃ~ちゃぁ~ん!」

「ひぃいいっ!」


 突如、アリアから凄まじい魔力を感じた。

 レイティアに負けじと俺に抱きついてくる。


「ねえ? レイティアちゃんと結婚するの? 私は? 私とも結婚するって約束したよね? もう逃げられないんだよ? レイティアちゃんと駆け落ちなんかしたら呪っちゃうよ。アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃん♡」


「こ、怖っ! やっぱり怖っ!」


 アリアの迫力に圧され気味の俺だが、それだけで済むはずもなく……。後ろからシーラが飛び掛かってきた。


「アキっ! あんたまたそうやって! アタシを無視すんなしぃ!」

「おい、シーラ、苦しいって!」

「アタシに優しくしないとお仕置きよっ!」

「お仕置き女子多過ぎだろっ!」


 目の前でイチャイチャを見せつけられたゲリュオンの顔が、見る見るうちに険しくなる。

 もしかして、もしかしなくても、義理の父親の前で他の女とイチャコラしているのだから当然かもしれないが。



 そんな最悪の初対面を終了して、俺たちは再びグロスフォードに戻ることになった。

 行きは四人だったが帰りは五人だ。


「くっ、この私がエロ鬼畜でゲリュオン様に盾突く破天荒男と一緒のパーティーだと……。だが、男はこやつくらい鬼畜で破天荒の方が……。これは何としても子種を」


 その五人目、臨時加入のジールがブツブツとつぶやいている。変なワードが出ているようだがスルーしておこう。


「じゃあ行こうか」

「うん、アキ君っ」


 一緒に神殿を出ようとしたレイティアだが、ふと立ち止まって身を翻す。


 タッタッタッ――


 小走りでゲリュオンのもとに行くと、躊躇ためらいがちに話し始めた。


「あの……その……お父さん」

「な、なんだ、娘よ……」


 ぎこちない父と娘の会話だ。


「お父さん、人族を恨まないで。確かに辺境伯や伯爵夫人は悪い人だけど、人族にも良い人はたくさんいるんだ。アキ君みたいにね」


「うっ……」


「それに、ママ……お母さんは、お父さんと愛し合いボクを生んだのを後悔していなかった。病気になって死んじゃったけど、お父さんとの思い出やボクと一緒だった日々は幸せだったと思う。だから人族を恨まないで」


「おおぉっ、うおぉおおっ! レイティア……。分かった、そなたが申すのなら許そう。人族を……」


 ゲリュオンの目に涙が浮かんだ。


「レイティア……良い名だ。私の愛しき娘よ。雰囲気もイレーネによく似ておる。その腰にある青い剣……それは私とレイティアを繋ぐ絆だ」


「絆?」


「ああ、その青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンは私の鱗で作った剣だ。それは、私に連なる者に絶大な力を授けるだろう。必ず役に立つはずだ」


 レイティアはまじまじと剣を見つめている。


「忘れるなよ。父はいつでも娘を想っておるのだとな」


「うん、分かった。ありがとう。あっ、そうだ、でもアキ君との結婚は絶対だからね! 邪魔したら、いくらお父さんでも許さないから! それだけっ」


 ガァアアアアアアアアアアアアアアアーン!


 やっと母のことを言えたのか、レイティアの顔が晴れやかだ。ただ、結婚の話までされたゲリュオンの方はショックで膝をついているのだが。


「結婚は決定事項だったのか……?」


 徐々に外堀を埋められているような状況に、俺は体の中にゾクゾクとする震えが走った。


 ◆ ◇ ◆




 闇夜に紛れた俺たちは、ある施設の前に来ていた。


 表向きは貴族の屋敷のような体を成しているが、古ぼけた高い壁が寂れて放置されたような印象を受ける。

 周囲を張り巡らした壁により、外からは中の様子は見えないようだ。


 竜族からもたらされた情報によると、この建物の地下が奴隷売買に使われているらしい。


「ここに間違いないんだな?」


 一緒に連れてきたジールに確認を取る。


「ああ、ここに間違いない。竜族の情報を舐めるなよ」

「どうやって調べてるんだ?」

「ふふっ、我ら竜族には忍者が居るのでな」

「そんな話は初耳だぞ」


 ちょっと眉唾物だが今はどうでも良い。先ずは奴隷として集められた少女の解放が優先だ。


「よし、手筈てはず通り行こう」


 作戦はこうだ。


 アリアとシーラが魔法で遠距離攻撃。壁を破壊し、人気ひとけのない中庭などを爆破し騒ぎを起こす。

 その騒ぎに乗じて、俺とレイティアとジールが突入し、奴隷少女たちを確保する。


「よし、やろう。辺境伯に反抗したお尋ね者では終われない。俺たちは奴らが犯罪に手を染めている証拠を突き止め断罪する。そして、大手を振って王都に戻るんだ」


「「「おおーっ!」」」


 俺の言葉に皆が拳を突き上げる。ちょっと声が大きくて、俺は周囲を気にするのだが。


「なんだか忍者になったみたいでドキドキするね」


 レイティアは女忍者になったつもりでヤル気満々だ。もしかして忍者は竜族に人気なのだろうか。


「ちょっと不安になってきたぞ……」

「何でさぁー!」

「何でもだよ」

「上手く行ったらご褒美もらうからねっ! アキ君が一晩中抱っこしてナデナデとか……ううっ」


 ご褒美を要求するレイティアが、途中から恥ずかしさで顔を隠してしまう。


「恥ずかしいなら言うなよ。まあ、上手く行ったらご褒美するけど」


 ピキィィィィーン!


 アリアの方から変な音が聞こえたが気にしてはいけない。きっと、ご褒美と言って凄いド変態プレイを要求しそうな気がする。


「よし、作戦開始だ!」

【付与魔法・肉体強化極大】

【付与魔法・魔力強化極大】

【付与魔法・防御力強化極大】

【付与魔法・魔法防御力強化大】

「とりあえず防御力は上げたぞ、行こう!」


 俺の合図でアリアとシーラの魔法が炸裂した。


地獄の業火ヘルファイア!」

神罰の雷ジャッジメントサンダー!」


 ドゴォオオオオオオオオオオ!

 ズババババババババ! ズガァアアアアアアーン!


 二人の魔法で高い壁が吹き飛び、堅牢な建物の一部が破壊された。見張りをしていた男が悲鳴を上げる。


「ひぃいいいいいいっ! な、何だ! 何が起きたぁああああああ!」


 目の前で起きた大魔法を目にして腰を抜かしている。


「よし、突入するぞ!」

「「「おーっ!」」」


 俺たちの反撃が始まった。


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