第52話 呪いの手錠と恋人のキス

「はーい、報酬はこちらでーす」


【討伐報酬(レイド討伐数割り振り)金貨213枚】

【ボス討伐報酬 金貨220枚】


 グロスフォードの冒険者ギルドに戻った俺たちは、受付嬢から報酬を受け取っていた。

 皆の活躍もあり、レイド戦での討伐数もぶっちぎりでトップのようだ。割り振り金額が他のパーティーより圧倒的に多い。


 報酬を受け取りギルドを出ようとしていると、ギルド長らしき人から声をかけられた。


「あんたらが都から来たS級冒険者パーティーか」


 褐色の肌に鍛えられた肉体、そして鋭い眼光の男だ。間違いなくギルド長といった見た目をしている。

 代表して俺が前に出た。


「はい、そうですが」

「スタンピードのボスを倒したそうだな。それもかなり強い奴を」

「ええ、かなりの強敵でした」


 ギルド長がマジマジと俺を見つめている。


「見た目は……あまり強そうに見えねえが、内なる力を秘めているのか?」

「ははは、まあ俺は支援役サポーターですから」

「しかし、聞いた話によると怪力のミノタウロスを正面から食い止めたらしいじゃねーか」


 ギルド長が不思議がるのも仕方がない。何しろ俺はバフがテンコ盛りなだけの、見た目は一般人なのだから。


「まあ良いや。それよりあんたらに領主様から重要な話があるそうなんだ。直々に話を聞きたいから城に来いとのお達しがあってね」


(来たっ! これを狙っていたんだ。領主アレクシスと直接話ができれば、スタンピードの原因や竜族とのいざこざの理由が分かるかもしれないぞ)


「領主様からですか。やけに情報が早いですね」

「ああ、何か新しい動きがあれば、すぐに連絡するようにと領主様からの命令でな」

「そうでしたか」

「あんたらがスタンピードのボスを倒したんだ。褒美が出るかもしれねえぜ」


 事はスムーズに進み、俺たち閃光姫ライトニングプリンセスはグロスフォード辺境伯アレクシスに謁見することになった。

 城に行くのは翌日とのことで、俺たちは一旦宿屋へと戻ることとなる。


 ◆ ◇ ◆




「早く早くっ! 早く出してっ、もう待ちきれないよ♡」

「あんっ♡ アキちゃんのアレが欲しいのぉ♡」

「ううっ、アタシまでこんなになっちゃうなんて。もう我慢できないしぃ♡」


 誤解してはいけない。皆は俺の料理が欲しいと言っているだけだ。決して如何わしい意味ではない。


 宿屋に戻った彼女たちが、俺の夕食を待っているところだ。


「あの、お姉さん方……変な言い方はやめてください。それ、俺じゃなかったら誤解しちゃいますよ。男は狼なんですからね」


 俺の言葉で全員がジト目になった。


「は? アキ君って天然なのかな?」

「アキちゃぁん、変なこと言ってると足で躾けるわよ」

「まったくアキったら、これだから……」


 皆の視線が痛い。俺は、皆の熱を帯びた目で見つめられながらスキルで料理を作った。


「はい、今夜のメニューはオコノミヤキです。キャベツと豚肉をメインに小麦粉で混ぜて焼いたものですよ。上に青のりと干した魚のチップ、そして甘じょっぱいソースをかけた料理です」


 グロスフォードの名物料理である練った小麦粉の平焼きから着想を得たオリジナルだ。アドミナの魚介を使用しトッピングしてある。

 好みで色々と具を入れることを想定し、オコノミヤキと名付けた。


「あふっ♡ アキ君のがボクの体に染み渡るぅ♡」

「ああぁん♡ アキちゃんのアレがすごぉい♡」

「くぅ、くやしぃ♡ アタシまでこんなになっちゃうなんて」


 誤解してはいけない。オコノミヤキを食べているだけだ。




 その夜、宿屋のベッドで寝ている俺の上に、誰かが乗っている感覚がして目を覚ました。

 相変わらず家ではベッドを買ってもらえないのだが、旅先ではベッドにありつけるのだ。ただ、同室なので添い寝されるのは同じなのだが。


(また添い寝かな……。レイティアは酔わせて寝かせたから、この甘い匂いはアリアお姉さんだろうか……?)


 そんな予想をしながら目を開くと、そこには予想を遥かに超えたドロドロのヤンデレお姉さんがいた。


「うわっ! っん、うぐっ――」

「しっ! アキちゃん、静かに」


 こくこく――


 アリアの目がマジなので大人しく従った。


「あっ♡ アキちゃん♡ お願いっ、もう我慢できないの」

「もしかして、また禁断症状ですか?」

「うん……キス……」

「わ、分かりました。ち、近い……」


 ほぼゼロ距離でアリアがささやいている。甘く蕩けるような声と魅惑的な瞳のコラボで悩殺されそうだ。


「お願い……アキちゃん♡」

「き、キスだけですよ」

「うんっ♡」


 アリアの顔が迫る。魔族なのに天使の羽のようなくちびるだ。


「んっ♡ ちゅっ♡ アキちゃぁん♡」

 カシャ! カシャ!


 両手に違和感を覚え顔を上げると、俺の手がアリアと手錠で繋がっていた。


「えっ、ええっ!」

「アキちゃん、呪いの手錠……着けちゃった」

「ええええっ!」

「大丈夫ぅ♡ 朝になれば外れるからぁ」


 大丈夫じゃない。こんなの健全な男子にはキツ過ぎる。


「ほら、キスしよっ♡ ちゅっ♡」

「ううっ……んっ」

「私の目を見て♡ 見つめ合いながらキスしよっ♡」

「でも……」

「安心して、淫魔サキュバススキルは使わないから」


 濃厚なフェロモンが出ているように魅惑的なアリアだが、その身に備わる淫魔サキュバススキルは今まで一度も使っていない。

 何度か催淫されそうになったが、あれは単にアリアがエロいだけだ。


「アキちゃんはスキルじゃなく、本当の私を好きになって欲しいから」

「アリア……」

「ほら、ちゅっ♡」

「んっ……」


 アリアの瞳に吸い込まれそうだ。

 なんて綺麗な目をしているのだろう。


「アキちゃん、好き……って言って欲しい」

「で、でも……」

「お願い。言ってくれるだけで良いの」

「う、うん」


(これ、良いのか? まるで恋人みたいな……。でも……)


「アキちゃん、私のコト嫌い?」

「ち、違う。す、好きだよ」

「嬉しいっ♡♡ 私も好きっ♡ 大好き♡」


 きゅん♡ きゅん♡


「ちゅっ♡ んっ♡ ほらぁ、アキちゃん♡」

「すす、好き……」

「ああぁん♡ しゅきぃ♡ アキちゃんだいしゅきぃ♡」

「あ、アリア……好きだ……」

「しゅきしゅきぃ♡ ちゅっ♡ らいしゅきぃ♡」


(あああ……アリアのくちびるが……。本当に恋人みたいだ。俺は……アリアを……)


「アキちゃん、見つめ合ったままキスぅ♡」

「う、うん……」

「アキちゃん大好きぃ♡ 絶対目を離さないでねっ♡ ちゅっ♡」

「んんんん~っ」


 ずっと見つめ合ったままキスをした。まるで恋人同士のように。俺は夢のような世界に浸り、心地良さで全てが溶けてしまいそうになってしまう。


「アキちゃん大好き♡」

「アリア……俺も大好きだ」


 ズキュゥゥゥゥーン!


『スキル【専業主夫】に嫁属性【魔族の加護Ⅲ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【付与魔法・肉体強化極大】

【付与魔法・魔力強化極大】

【付与魔法・防御力強化極大】

【付与魔法・魔法防御力強化大】

【特級魔法・魔族の叡智・強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼ

【感度百倍】


 キスをしたまま突然の覚醒だ。まさかの三段階覚醒。信じられないような力が発現した。

 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが軒並み上昇する。これまでにない凄まじい上昇だ。


「んっ! す、凄っ! うっ」

「ほら、アキちゃん♡ 朝までキスぅ♡ ちゅっ♡」

「んんんん~~~~っ!」


 体を突き抜けるような凄まじい感覚の覚醒をしているというのに、アリアのキスが止まらない。

 俺は、跳ね上がりそうな体を無理やり押さえつけられながら、アリアの熱烈的なキスを受け続けるのだった。


 ついでに言っておくが、オヤクソクの怪しいスキルは見なかったことにした。






 ――――――――――――――――


 アリアお姉さん……やり過ぎです。

 キスだけですよ!


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