第42話 四海竜王
今日は俺の専用武器を作る為に、街の武器屋に向かっているところだ。
この街での冒険者歴が長いシーラが詳しいのとことで、店選びは彼女に任せている。
「えっと、シーラ、店はこっちで良いのか?」
「そ、そうね……」
あの不意打ちキス以来、シーラの顔を見ると照れくさい。とりあえず頭を撫でておこう。
「ほら、シーラ」
ナデナデナデ――
「あふぅ♡ って、コラぁ! 子供扱いすんなぁ」
「可愛がってるだけだよ。大人でも撫でるだろ」
「そ、それは……そうだけど」
「だよな……」
かぁぁぁぁ――
二人揃って顔を赤くする。
「ううっ♡ とんでもない弱みを握られちゃったしぃ。つけ込まれてエッチな要求されたらどうしよぉ」
「つけ込まないから!」
「これ、
「全然違うぞ、シーラ」
「シーラっ、あっ……」
「アキっ、ううっ……」
きゅん♡ きゅん♡
お互いに目が合って恥ずかしくなってしまう。
(おい、これどうすんだよ。ああっ、お姉さんたちのお仕置きが凄くてドキドキしっぱなしなのだが。もう楽になっちゃって良いのかな。って、ダメだダメだ。セクハラしまくってパーティー崩壊したら困るからな)
ドギマギしている俺に、さっきからアリア女王様の視線が怖い。
「ねえ、最近シーラちゃんと仲良いよね? もしかして……」
「ギクッ!」
「アキちゃぁん♡ 今、ギクッって言った? 言ったよね?」
「ほ、ほら、アリアお姉さんもナデナデですよ」
ナデナデナデ――
「あんっ♡ アキちゃんってば悪い子なんだからぁ♡」
一瞬でアリアが蕩けた。この技は使えそうだ。
「アリアやシーラばかりズルいぞ。ボクも撫でてくれよぉ」
当然、レイティアも黙ってはいない。
俺は三人を順に撫でながら武器屋に向かうのだった。
◆ ◇ ◆
「いらっしゃい!」
武器屋と書いた看板を掲げている店のドアを開けると、そこには髭を蓄えガッシリとした体格のオッサンがいた。
いかにも職人のような
「こんにちは」
「おう、何でも見ていってくれ」
軽く挨拶を交わしていると、そのドワーフの店主が俺の後ろにいるシーラに気付いた。
「何だ、テンペストじゃねーか。冷やかしにでも来たのか?」
「うっさいわね。客よ、客。あんたの店に来てやったんだから感謝しなさいよね」
「相変わらず口が悪いエルフじゃな」
口が悪いのはお互い様に見える。
シーラは、この店主と旧知の仲なのだろうか。
「シーラ、知り合いなのか?」
「アタシが冒険者を始めた頃からの腐れ縁よ」
「もしかして、そのレイピアも?」
「そうよ、よく分かったわね」
シーラが精巧な装飾を施したレイピアを見せる。
「これ、クラーケン退治で使った時に良い武器だと感じたんだ。切れ味もさることながら、柄や鞘の装飾も素晴らしい。腕の良い職人の彫刻だと感じるよ」
「ボウズ、若いのに分かってるじゃねーか!」
ドワーフの店主の顔がほころぶ。最初の険しい顔が嘘のようだ。
「ほら、この剣は特別な製法でな。こっちのは魔力を帯びてるんだ――」
気を良くした店主が次々に剣を見せてくる。自分の作った武具に誇りを持つ職人気質のようだ。
どれも素晴らしい作りに感じる。
だが、俺たちの用件は例の希少鉱石で剣を作ることだ。
「実は剣を作って欲しいのですよ。この鉱石を使って」
そう言って俺は、カウンターの上に鉱石を乗せる。
「こ、こりゃ凄ぇ! 幻魔鉱石なんて何処で手に入れたんじゃ。こいつは珍しいな」
「そんなに希少価値が高いんですか?」
「ああ、滅多にお目に掛かれねえぞ。ワシも見たのは数えるほどじゃな」
店主はまじまじと幻魔鉱石を眺めている。
「この幻魔鉱石を使えば良い剣ができそうじゃわい」
「本当ですか」
「ああ、使用者の魔力を吸収して強くなるレアなやつじゃ」
「それは凄い」
しかし気になるのはお値段の方だ。
「それで……どうですか、製作費は?」
「そうじゃなぁ、この鉱石を使うには特殊な製法が必要でな……金貨300枚と言うところか」
「き、金貨300枚っ!」
かなりの高額だ。上位クラスボスモンスターの討伐報酬が飛びそうなくらいに。
(いくら皆がお礼で武器をプレゼントしてくれると言っても、金貨300枚も使うのは気が引けるな)
どうしようかと考えていると、店主が俺の顔を覗き込んできた。
「ん? おぬし、もしかしてアキ・ランデルか?」
「はい、そうですけど」
「おおっ! おぬしがアキか! 仲間を助ける為に命がけで海に飛び込んだという」
俺の噂が広がっているようだ。ちょっと恥ずかしい。
「感謝するぞい。そこのテンペストを救ってくれたのじゃからな。そいつは生意気なエルフじゃが、居なくなったら寂しいもんじゃ。おぬしがアキなら金貨150枚にまけてやるわい」
「えっ、良いのですか?」
「良いってことよ! おぬしの男意気に惚れた。がははっ! 珍しい材料で腕が鳴るってもんよ。ワシに任せとけ、最高の剣を作ってやるわい!」
あのグリードたちとの一件には怒りしかなかったが、おかげで俺や
レイティアたちと出会ってから、ツイてなかった俺の人生に光が射してきた気がする。
「そう言えば、そこの嬢ちゃんの青い剣だが、ちょっと見せてくれねえかい?」
ふと店主がレイティアの腰に下げている剣に目を付けた。何か気になるのだろう。
レイティアは剣を抜くとカウンターの上に載せる。
「これかい? どうぞ」
「こりゃ凄い魔力を感じるぞ……」
剣に顔を近付けた店主が、食い入るように見つめている。
「そういえば……俺が試合で使った時に、何か特殊な力を感じたんだよな。ナイトオブ何とかって声が聞えたような?」
「それ剣の名前かな? ボクの家に伝わる剣らしいけど、詳しいことは分からないんだよね」
ガタッ!
俺とレイティアの会話を聞いていた店主が、ガバッと目を見開いた。
「こ、これは……いや、そんなはずは……。じゃが、間違いない……しかし……」
「何かわかったのですか?」
「あ、ああ、これは強い魔力を帯びたドラゴンの
「高位種族?」
「たぶん上位竜じゃ。ま、まさか竜王……青竜王ゲリュオン……ま、まさかな」
店主はブツブツと独り言のように話しながら剣を見つめている。
(青竜王ゲリュオン? 何処かで聞いたような……。あっ、四海竜王の一角か。まさか青竜王の剣とかじゃないよな)
この世界には四柱の竜王が存在する。
最強種である竜族の中でも格段に強い存在。その力は天地を砕き海を割るとも言われていた。
魔王でさえ直接の対立を避けていた程の存在である。
その名の通り、大陸の四方を守り世界のバランスを保っている。どの国にも属しておらず、ただそこに存在しているだけだ。
その名を、東海青竜王ゲリュオン、南海赤竜王テュフォン、西海白竜王ヴリドラ、北海黒竜王エキドナと言う。
「ま、まさか、凄いレアな……」
「がはは、まさかじゃな。そんな超レアアイテムが存在するなど有り得んわい」
「ですよね、レイティアだし」
俺と店主の話に、レイティアは頬を膨らませてしまう。
「むうっ、アキ君っ! ボクを何だと思ってるんだい」
「レイティアは可愛いボクっ娘だろ」
「かか、かわっ♡ こ、こらぁ、お姉ちゃんだぞ!」
「はいはい、レイティアお姉ちゃん」
店主に剣の製造を任せ、俺はプク顔のレイティアと店を出た。
「もうっ、やっぱりレイティアちゃんと仲良いよね?」
「アリアお姉さん、寝てないし付き合ってないですから」
「もうっ、お仕置ぃ♡」
「はいはい」
当然、嫉妬が激しくなったアリアに密着されながら。
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