第28話 試合申し込み

 王都リーズフィールドに戻った俺たちを出迎えたのは、予想通り悪い噂だった。きっと、一足先に戻ったグリードたちが噂を流したのだろう。


「あれ? お前ら捕食姫プレデターは仲間割れしたんじゃなかったのか?」

「聞いたぜ。何でもアキがエルフの嬢ちゃんを海に突き落としたとか」


 冒険者ギルドに入ると、ゴジップネタが好きそうなオヤジたちが集まってきた。

 皆、口々に噂話の真相を聞き出そうとする。


(クソッ! グリードめ、どこまでも卑劣な奴だな。もうデマを流してるのかよ。ここは全て嘘だと説明しておかないと)


「おい、俺とシーラが仲良く一緒にいるのだからデマだって分かるだろ」


 そう話した俺は、横にいるシーラの肩を抱く。


「あっ♡ アキ」

「シーラ、俺たちは仲良しだよな」

「な、なか……はうぅ♡ もう好きにしなさいよ」


 シーラが両手で顔を隠している。耳が真っ赤だ。


「どうかしたのか?」

「ば、ばかぁ♡ もう知らないっ」


 今朝からずっとシーラの様子がおかしい。まだ本調子ではないのだろうか。

 そして同じくレイティアとアリアまで様子がおかしいのだ。シーラとの添い寝がバレてからずっと。


 ゾワゾワゾワゾワゾワ――


「ふーん……アキ君ってシーラちゃんと仲良いのね。何かイケナイコトしちゃったのかな? どうなの? 付き合ってるの? キスしたの? 寝たの?」


 アリアの嫉妬が激しくなっている。笑顔なのに目が怖い。


「アキ君っ! ボクも添い寝したいよ。シーラばかりズルいぞ。次はボクだよねっ?」


 レイティアがグイグイ来る。いつものように顔が近い。


「ちょっと待ってくれ、あれはシーラを安心させようとしてだな……」


 そんなやり取りを四人でしていると、周囲の冒険者たちが呆れた顔になってしまった。


「おい、仲間割れしてねえじゃねーか」

「イチャイチャしやがって。腹立つぜ」

「兄ちゃん、捕食姫プレデターの三人と同時だなんて、あんた凄ぇ男なんだな」


 ポンポン!


 オッサンたちが俺の肩をポンと叩く。


「何のことだ?」


「そりゃ夜の生活だよ」

「兄ちゃん凄いモノを持ってんのか?」

「性欲絶倫かよ」


 もうデマのことは忘れてしまったのか、俺とメンバーとの下ネタに話が移ってしまった。

 デマは解消されたかもしれないが、新たなゴシップネタを投下してしまったかもしれない。


「おかしい……事実を伝えようとしただけなのに。俺はパーティーメンバーと不適切な関係にはなってないぞ。なあ、そうだろ皆?」


 そう問いかけるが、皆はそっぽを向いてしまう。


「アキ君ってイジワルだよね。ばぁか♡」

「アキちゃん、後でお仕置ね♡」

「もう知らないっ! アタシの心をこんなに乱して」


 グリグリグリ――

 三人から脇腹をグリグリされた。



 そんなコントのようなやりとりをしていると、俺を現実に引き戻すような罵詈雑言が聞えてくる。


「ガハハッ! アキの野郎の顔ったら笑えるぜ! まあ、あの高さの崖から落ちて無事とは思えねえ。きっと大怪我で再起不能だな」


 不快な声を響かせながらグリードが入ってきた。隣にラルフも居る。


「グリードぉおおおおおおっ!」


 俺の中で怒りが爆発した。


「おい、デマを流すのをやめろ! 俺もシーラも無事だ。お前の嘘は否定されたぞ」


「なっ! 何でテメェが…………」


 俺の顔を見たグリードが絶句した。元パーティーでザコ扱いだった俺が、こうして無事戻って来たのが信じられないのだろう。


「て、テメェ、何故ここに居る! 崖から落ちて……」

「グリード、お前を倒す為に戻って来たんだ。暗い海地獄の底からな」

「なっ、何だと! 調子のってんじゃねーぞ! ザコが!」


 グリードは相変わらずだ。こんな男と同じパーティーを組んでいたのが、今となっては汚点でしかない。


「グリード、お前は俺の大切な仲間を傷つけた。それだけは絶対に許せない」

「んぁああぁん! っんだとゴラッ! やんのか!?」

「ああ、お望み通り戦ってやるよ。ギルドの試合という場でな」


 俺が試合と口にしたことで、グリードの下卑げびた顔がにやける。


「ほほぉ、俺様とやろうってのかよ。ザコのアキがよぉ」

「ああ、キッチリ決着を付けようじゃないか。そこのラフルも一緒にな」

「がっはっはっはっは! ボコボコのグチャグチャにしてやんよ!」

「負けた方は王都から追放、二度と戻らないというルールはどうだ?」

「良いぜ! こりゃ笑えるぜ! アキから言い出すとはよ」


 グリードが乗ってきた。計画通りだ。

 奴らは俺のスキルが覚醒してステータスが驚異的に上がったのを知らない。今の俺なら十分に勝算は有るはずだ。


「なら決まりだな。正式な試合としてギルドに申し込むぜ」


 俺が試合の申請をしていると、グリードの横で成り行きを見守っていたラルフが口を開いた。見下したような顔で。


「ふふっ、良いのかアキ、正式な試合のルールで決めたのなら絶対だ。お前は二度と王都には入ることができない。自分から王都を出て行くとは馬鹿な男だ」


「ラルフ、まだどちらが勝つか分からないだろ。次に会うのは闘技場だ。俺は絶対に負けない!」


 受付嬢に申請書を渡し、これで俺たちの試合が決定した。



 グリードとラルフは勝利を確信しているのか、余裕の表情でギルドを出て行こうとしている。

 俺はその背中に声をかけた。


「そういえば、サラの姿が見えないが、どうかしたのか?」

「あ? 知らねえよ、あんな女! 最近は見かけねえな。酒浸りだし、何処ぞで飲んでんだろ」

「そうか、まあ良い。敵とはいえ女を殴るのは気が引けるからな」

「ああぁん! テメェ勝ったつもりかよ! 逃げんじゃねーぞ!」


 バタンッ!


 こうして俺とグリード、ラルフとの試合が決定した。俺は二人を相手に立て続けに戦うことになる。

 だが、今の俺には負ける気など全く感じない。スキルやステータスが上がったことよりも、パーティーメンバー三人の存在が大きかった。


「よし、帰ろうか?」


 俺が皆に声をかけると、呆然としていた三人がハッと我に返る。


「ちょっとアキちゃん! 危険よ! やっぱりお姉さんがあいつら殺すから」


 アリアが物騒なことを言い出した。


「アキ君が心配なんだ。怪我でもしたらボクはどうしたら……。ああ、もうずっと一緒にいたいのに」


 レイティアがグイグイ来る。俺を離さないつもりか。


「も、もうっ、心配させないでよね。あんたに何かあったら、アタシが責任感じちゃうじゃない。ばかっ」


 バカとか言いながらもシーラの顔は本気で心配しているようだ。


「大丈夫だよ。今の俺なら負けない。皆の加護が付いてるからな。さあ帰ろうか」


 試合の申請とクラーケン討伐の報酬を得た俺たちは、閃光姫ライトニングプリンセスの拠点へと家路を急いだ。


 ◆ ◇ ◆




「今夜のご飯ができたぞ。お姉ちゃんたち」


 俺が皆を呼ぶと、待ってましたとばかりに目を輝かせて集まってくる。ワンコみたいだ。


「もうお腹ペコペコだよ、アキ君っ!」

「ああぁん♡ アキちゃんのご飯好きぃ」

「あんたたち落ち着きなさいよ」


 グイグイグイグイ――


 何故か三人が俺に密着してくる。ソファーに座った俺の右側にレイティア、左側にアリア、そして脚の間にシーラだ。


「お、おい、何でそこに座るんだ?」


 普段から距離が近い二人は良いとして、いつもは対面のソファーに座っていたはすのシーラまで近いのはおかしい。


「う、うっさいわね。アタシの勝手でしょ。ここが座りやすいのよ」

「しかし股の間に座られると色々マズいと言いますか……」

「はあ? 触るんじゃないわよ。エッチなのは禁止なんだからね」


 密着してくるシーラだが、言葉は前と同じ生意気な感じだ。


(はっ! もしかして、まだ怖い思いをしているのか? そうだよな、崖から落ちて溺れたんだから。ここは俺が安心させるしかないか)


「シーラ、俺が付いてるぞ」

 ギュッ!

「ふあぁぁん♡」


 シーラの耳が真っ赤になった。


「あ、ああ、あんたねぇ、急に何すんのよぉ」

「ほら、食べようか」

「もうっ、強引なのヤバいぃ♡」


 俺はシーラを抱きしめながら料理の説明を始めた。






 ――――――――――――――――


 シーラが心配なので安心させようとしているだけなのに、何故かどんどんおかしな方向へ。

 そして、元メンバーとの戦いは近い。


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