第27話 エルフの加護

 今夜は様々な思いが脳裏をよぎり眠れない。


 旅館の同じ部屋でレイティアたちの微か寝息が聞こえる。いつもグイグイ来る彼女たちだが、今夜ばかりは大人しく眠っているようだ。


(グリードとラルフ……まさか、ここアドミナまで追いかけてくるなんて……。ギルドで俺たちが限定クエストに行った話を聞いたのだろうか……)


 奴らのことを思い出すと怒りが込み上げてくる。


(グリード……。前の俺なら戦闘スキルも皆無で、戦ったとしても勝てなかっただろう。だが、今は違う。スキル覚醒で加護を受けステータスも桁違いに上がった。今ならきっと……)


 ギルドでは私闘を禁じている。だが、試合という形式なら戦うことも可能だ。


(そうだ、仲間を守る為には戦わないと。悪意や暴力に屈してはダメだ。いつまでも舐められ理不尽を押し付けられてしまう。俺は昔の俺じゃない。俺を仲間だと言ってくれた皆に報いねば)


 仲間という言葉で過去の記憶が甦る。


『がっはっはっは! 仲間? テメーを仲間なんて思ったこたぁ一度もねえんだよ! 利用されてたのが分からなかったのか?』

『アキは用済みだ。アキ、お前のことを何て言うか知ってるか? 寄生って言うんだ! 俺たち強い者のおこぼれを貰っているのがお前だ』


(クソッ! 今思い出してもムカつくぜ。だが、俺をバカにするだけじゃなくシーラにまで手を出すとは。俺を受け入れてくれた人に危害を加えるのだけは絶対に許せない!)


 成り行きで加入した今のパーティーだが、俺は仲間を大切にすると決めた。だから俺が守るのだ。



 ガサガサガサ――


 ふと物音に気付き横に目を向けると、暗闇の向こうに人の気配を感じた。


(誰だ? もしかしてレイティアか? 最近ますます挙動不審だからな。水着を見せたいと言ったり、急に恥ずかしがって見せられないと言ったり)


 暗闇に目が慣れてくると、そこには小柄な体に長い耳の姿が浮かび上がって見えた。


「シーラ」

「しっ!」


 シーラが俺の口に人差し指を当てた。


「どうしたんだ? こんな夜中に」

「ちょ、ちょっと話があって……」


 シーラは、そう言って俺の布団に潜り込んできた。


「お、おい」

「布団の中で話すわよ。皆に聞こえちゃうから」


 同じ布団に入って寄り添う。シーラの体温を感じながら。


 やけに今夜のシーラは積極的だ。距離感がバグっているレイティアやアリアとは違って、いつもはツンツンしているはずなのに。


「話って何だ?」

「そ、その……あの……」


 上目遣いで俺を見ては、恥ずかしそうに視線を逸らす。


「あ、あ、ありがと」

「えっ?」

「だから、アタシを助けてくれたから」

「そんなの当然じゃないか。シーラは大切な仲間だぞ」

「ううっ♡ なに言ってんのよ。照れるでしょ」


 ポカポカ!

 照れ隠しなのか、シーラが俺の腹をポカポカする。


「そ、それでね……き、キス……したんでしょ?」

「ききき、キスぅ?」

「しっ! 声が大きい」

「あ、ああ」

「したんでしょ?」

「人工呼吸のことか?」


 あの時はシーラを助けようと必死だった。改めてキスと言われると、俺まで恥ずかしくなってしまう。


「あれは、その、そうだな。人工呼吸はノーカンということで」

「アタシは初めてだったのよ。せ、責任……取りなさいよ」

「俺だって初めてだぞ」


 お互いに沈黙になる。


「へ、へぇ、あんた初めてだったんだ。お子ちゃまね」

「シーラも初めてだったんだろ」

「う、うっさいわね♡ アタシは良いのよ」

「はいはい」

「えへへぇ♡ アキも初めてだったんだ♡」


 いつもツンツンしているシーラがニヤニヤしている。


「とにかくありがと。あんたは命の恩人よ。そ、そうね、感謝のしるしとして、一つだけアキの願いを叶えてやるわよ。何でも言いなさい」


「なっ! 何でも……だと」


「か、勘違いするんじゃないわよ! エッチなことはダメなんだからね。どうせアタシの胸を揉ませろとか、わきをペロペロさせろとかなんでしょ」


 シーラの口から変な性癖が出る。わきは舐めるものとは一部の変態紳士からは聞くが、本当にする人がいるのだろうか。


「な、何よその目は?」

「えっと、腋をペロペロされたいのか?」


 かぁぁぁぁ――


「ちょ、ちょっと、誤解しないでよね。あんたがアタシの胸やわきをチラチラ見てるからでしょ。全部知ってるんだからね」


「くっ、小さな胸フェチの次はわきフェチにされてしまった。まあ、確かにシーラのわきはツルツルすべすべで気になるのだが」


「やっぱ見てたじゃん! えっち」


 シーラの調子が戻ってきた。そう、この感じなのだ。彼女が元気なのは嬉しい。


「と、とにかく、そういうこと。まだちゃんとお礼を言ってなかったし」

「うん、シーラが無事で本当に良かったよ」

「んっ…………」


 話は終わり沈黙になる。だが、シーラが俺から離れようとしない。小さな手で俺の体をギュッとしてきた。


「シーラ……?」

「こ、こっち見んな♡」

「えっ?」

「ううぅ♡ もうちょっとこのままで」


 ぎゅっ! ぎゅっ!


「お、おい、シーラ?」

「う、うっさいわね。洞窟では裸で抱き合ったりキスしたりしたくせに」

「そ、それは」

「今夜はアキと添い寝したい気持ちなのよ」

「えっと……」

「そ、そうだ、あんたのお願いは添い寝ってことでどうよ」


(シーラ……やっぱりまだ怖いのかな。あんな目に遭ったのだから当然だよな。今夜は俺が一緒に寝て安心させよう)


「分かった、一緒に寝てくれ。シーラ、俺が一緒だからな。安心してくれ」

「はうぅぅ♡ す、すきぃ♡」

「何か言ったか?」

「なな、なんでもないし」


 俺はシーラの体をギュッと抱きしめながら眠った。


 ◆ ◇ ◆




 チュンチュンチュン――――


 小鳥のさえずりと共に俺は目を覚ました。眠れないと思っていたのに、シーラの小さな体は抱き枕みたいで熟睡できる。

 つるぺたエルフ最高かもしれない。


「ふぁああぁ♡ アキぃ」

 ギュゥゥゥゥ!


 俺に抱っこされているシーラが可愛い寝言を言った。


「ななな、何だこのカワイイ生き物は! おいシーラ、朝だぞ。起きろぉぉ」


 朝から大ピンチだ。このままでは俺がロリコンだと思われてしまう。


 その時、俺の趣味が貧乳やツルツルわきフェチになる前に、体の中でスキルがレベルアップする感覚があった。


『スキル【専業主夫】に嫁属性【エルフ族の加護】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【支援魔法・生命力回復】

【支援魔法・状態異常回復】

【自動展開魔法・幸運値上昇】

【テクニシャン】


 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが軒並み上昇する。


「えっ、ええっ! またスキル覚醒なのか!? 今回はエルフ族の加護か……。これで魔族と竜族とエルフの加護を得たのか。ステータスも以前とは桁違いだ」


 支援魔法も増え強くなったのは嬉しいが、前回と同じく最後の一つが気になる。


「テクニシャン……これ絶対エッチなのだよな。見なかったことにしよう」


 もうオヤクソクだが、俺は怪しいスキルを見なかったことにした。当然ながら、他のメンバーに添い寝を見られたのもオヤクソクである。


 ますますレイティアが挙動不審になり、アリアの嫉妬がヤバくなった。


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