第25話 策略

「や、やあ、待たせたね」


 アリアにからかわれていると、レイティアとシーラがやってきた。何故かレイティアは体にタオルを巻いているのだが。


「レイティアお姉ちゃん、そのタオルは?」


 気になったので聞いてみた。


「実は……恥ずかしいと言うか照れると言うか」

「は?」

「だ、だから、アキ君の前で水着になるのが恥ずかしいんだよぉ」


 もじもじもじ――

 レイティアは脚をすり合わせてモジモジしている。


(マジか……。いつも胸の谷間が見えるアーマーと短いスカートなのに、水着は恥ずかしいのか? そ、それ以前に温泉で裸を見ちゃったけど。ああっ、思い出すな俺! 邪念よ消えろ)


「そう言えば、前は水着姿を見せたいって言ってたじゃないか」

「ううっ、いざとなると急に恥ずかしくなってしまい」


 照れるレイティアが何か可愛い。


「そ、それに、ボクって身長高いし女の子らしくないかも……」


 いつになくレイティアの顔が自信無さげに見える。普段は自信満々で猪突猛進なのに。


「そんなことないぞ! レイティアお姉ちゃんは魅力的な女の子だよ。可愛いし性格も良いし、背が高いのもスタイル良くて魅力ポイントだよな。俺は好きだな」


(うむ、背が高くても低くても、胸が大きくても小さくても、人それぞれ尊重しないとな。俺は皆の個性を大切にするぜ)


「しゅ、しゅきぃ♡ はうぅ♡」

「あれっ?」

「そ、そうなんだ♡ じゃ、じゃあ、とくと見てくれ!」


 頬を染め上目遣いになったレイティアがタオルを外した。


「ど、どうかな?」

「ぶッふァああッ!」


 レイティアの水着姿も超刺激的だった。


 剣士だけあって全体的に鍛えられた健康的な肉体をしているが、十分に女の子らしく柔らかそうな体だ。

 むしろ長くて綺麗な曲線を描く脚や、パツパツに張った胸や尻などは最上級のエロスを感じさせる。


「お、おい、何だそのリアクションは?」

 グイグイグイッ!

「ち、近い……」

「アキ君、どうなんだ?」

「だ、だから、そんなエロい体でグイグイ来るな」

「エロっ、こ、コラっ! エロいとか言うなぁ♡」


 プク顔になって怒っているが、ちょっと嬉しそうな顔をするレイティアだ。

 ただ、さっきからアリアの機嫌が悪くなってしまったのか俺を睨んでいる。


「アキ君っ! レイティアちゃんばかり見てズルいわ」

 グイグイグイッ!

「アリアお姉さんも近いですって」

「ほらほらぁ♡」

「ああ、俺はどうすれば!」


 二人に挟まれている俺に、我関せずとばかりに黙っていたシーラが口を開いた。


「ホント、あんたたちって懲りずによくやるわね。はいはい、早く準備して泳ぐわよ」


「アキちゃんも一緒に泳ぎましょ」

「よし、泳ごうアキ君っ」


 やっと二人が俺から離れた。シーラのおかげだ。


「ふうっ、俺も泳ぐとするか」


 げしっ! げしっ!

 何故かシーラが俺の足を蹴っている。


「おいシーラ、何だその足は」

「はあ? あんたってホントむかつく」

「何のことだよ」

「あ、えっと、その、アタシの水着も褒めなさいよ」


 ちょっとだけ拗ねた顔でシーラが横を向く。


「シーラの水着姿……」


 一人離れていたので気付かなかったが、白いワンピースの水着が小柄なシーラに似合っている。


(よ、よく見ると可愛い。やっぱり可愛い。こう、抱っこして撫でたくなる可愛さだ。ち、小さな胸も良いものだな……)


「ごくりっ」

「ちょ、ちょっと、アタシをエロい目で見んな!」

「でも見ないと褒められないと言いますか」

「ああぁ、もうっ! やっぱ見ちゃダメ!」


 見て欲しいのか欲しくないのか、乙女心は複雑だった。


 ◆ ◇ ◆




 海で遊んだり屋台で買った料理を食べたりして過ごした俺は、疲れた体を横にしようとビーチパラソルのところに戻った。


「あれっ? さっきからシーラの姿が見えないけど」


 ふと、彼女が居ないことに気付く。


「シーラちゃん何処に行っちゃったのかしら?」

「そう言えば……さっき一人で岬の方に歩いて行くのを見たような……?」


 レイティアが岬の方を指差す。


(岬? 一人でか……)


 何か虫の知らせのような不安が俺の中で大きくなる。


「ちょっと連れ戻してくるよ。皆はここで待っててくれ」

「了解だ。シーラはお子ちゃまだからな」

「レイティアちゃん、シーラちゃんは115歳よ」


 二人を残し、俺は岬へと続く道に向かった。


 ◆ ◇ ◆




「おかしい……こんな場所に一人で行くだろうか?」


 高台にある断崖絶壁へと続く道は、あまり人の出入りも少ないのか雑草が伸びている。


 階段を上った先のがけの頂上が展望台のような場所になっていた。そこには木で作られた東屋ガゼボがあり簡素なベンチが設置された構造だ。

 その断崖に突き出た場所のベンチにシーラは座っていた。


「シーラ」


 ベンチに座る背中に声をかけると、彼女はいつもの顔で振り向いた。


「やっと来たわね、アキ!」

「えっ? やっとって……」

「は? あんたがアタシを呼び出したんでしょ」

「何のことだ……?」


 話が食い違う。俺の中の不安が大きくなった。


「俺じゃないぞ……」

「はあ? ほら、この手紙がアタシの荷物のところに置いてあったのよ。一人で岬に来いって」

「その手紙は俺じゃない……」

「えっ、でも差出人のところにあんたの名前が」


 ガガガッ!


 その瞬間だった。シーラがベンチから立ち上がると、東屋ガゼボの土台に切れ目が入り傾き始める。


 バリンッ! バリバリバリバリバリッ!

「きゃああああっ!」

「シーラ!」


 土台ごとシーラが海に向かって落ちてゆく。断崖絶壁の高さから。


「きゃああああああぁ! アキぃいいいいいいいい!」

「シーラぁあああああああああああああ!」


 シーラを掴もうと手を伸ばすが間に合わない。彼女が崖の上から海へと消えてゆく。


 ヒュゥゥゥゥーッ! ドボォーン!


 瞬時に俺は違和感を感じ取る。


 東屋ガゼボの土台に不自然な切れ込みが入っているのだ。まるで最初から海へ落とす仕掛けをしたかのように。


「がぁっはっはっはっはっは! 作戦成功だぜ!」


 その時、背後から胸糞の悪い笑い声が聞えてきた。忘れもしない元メンバーであるグリードの声だ。


「なっ! グリード!」


 顔だけ振り向くと、そこには薄笑いを浮かべたグリードとラルフの姿があった。


「ひゃっはぁああぁ! お前のせいで捕食姫プレデターの仲間は犠牲になったんだ!」

「アキ! お前が仲間を騙して海に突き落とした! そういうストーリーなんだよ」


 下卑た顔をニヤつかせてグリードとラルフが言い放つ。


「まんまとパーティーの仲を引き裂いてやったぜ! アキぃ、テメェだけ良い思いなんかさせねえ! ザコ陰キャは惨めに這いつくばってろよ!」


「ああ、そうだ! アキは負け組でないとな。俺たちより成り上がるなんてプライドが許せない。お前は仲間を裏切った最低男として終わるんだ!」


 クズだとは思っていた奴らだが、ここまでドクズだったとは。はらわたが煮えくり返りそうになる。


 こいつらは俺をハメる為にシーラに手をかけたんだ。俺がシーラを岬に連れ出して突き落とした卑怯者というデマを流す目的で。


「クソぉおおおおおお! よ、よくもシーラを!」


 今すぐ二人を八つ裂きにしてやりたいがグッと堪えた。シーラを救うのが最優先だ。


 ダンッ!

「シぃぃぃぃラぁぁぁぁああああああ!」


 俺はなりふり構わず断崖絶壁から海へとダイブした。



 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――


 落下の加速度で気が遠くなる。俺は気合を入れ自身に付与魔法をかけた。


「ぐあぁああああ! スキル【付与魔法・肉体強化】【付与魔法・防御力強化】耐えろ俺っ!」


 ドッバァアアアアアアアアアアーン!


 垂直に海面に叩き付けられる。付与魔法の強化で意識は持って行かれずに済んだ。


「がぼっ、し、シーラ! 何処だ!」


 海中に潜ると、溺れて沈んで行く小柄な体が見えた。


(シーラ! 今助けるぞ! 頼む、無事でいてくれ! シーラ! シーラ!)


 ガシッ!

 ザバッ、バシャバシャバシャ!


 シーラを抱え必死に岸まで泳ぐ。

 疲れと緊張で痙攣けいれんしそうな足腰に喝を入れ、岩場を登り安全な場所まで辿り着いた。


「早く戻らないと! だ、ダメだ。満潮で浜まで行くのは不可能だ。どうすれば」


 断崖絶壁の岬からは、険しい岸壁と岩が続き波が打ち寄せている。歩いて浜まで戻るのは不可能だろう。

 干潮になれば岸壁沿いに歩けるのかもしれないが。


「シーラ! 大丈夫か! は、早く何とかしないと! あれは……洞窟か?」


 岸壁に洞窟の入り口が見える。あそこなら一時的に波や風から逃れられるのかもしれない。

 俺は彼女を抱え洞窟へと入った。






 ――――――――――――――――


 卑劣な罠を仕掛けるグリードとラルフ!

 アキはシーラを助ける為に命がけで海に飛び込む。


 許されざる奴らを断罪する時は近い。

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