第24話 レベルアップ

「でやぁああああああああ! 俺の大切なひとに手を出した敵は八つ裂きだああああ!」


 ズッシャァァァァ!


 真っ二つになったクラーケンの中に残るコアにレイピアを突き入れた。

 巨大モンスターの魔力の源であるコアを破壊され、クラーケンは崩れ落ち消滅してゆく。


「やった、完全にとどめを刺したぞ」


 その瞬間、俺の中でレベルアップする感覚があった。


『レベルがアップしました。レベル21からレベル36になります』


 ステータスが書き換えられアビリティとパラメーターが大幅に上昇する。


「えっ! レベルアップだと……? あっ、モンスターを倒したからか」


 余りにも久しぶりのレベルアップで茫然ぼうぜんとしてしまった。攻撃スキルの無い俺は直接敵にダメージを与える機会が少ないからだ。


「一気に15も上がったのか。大型のボスモンスターで経験値も桁違いだったのかな?」


 強くなったのを喜びながら皆のところに戻ると、予想外にハイテンションの皆がそこに居た。


「きゃああ♡ た、大切な女ってボクのコトだよね♡ どど、どうしよう。照れるぅ♡」

「はあぁああぁん♡ 大切な女って言われちゃったぁ♡ これOKってことよね♡ もう止まらないかもぉ♡」

「えっ、ええっ! アキがカッコいいですって!? ちょ、ちょっと待って、アタシも変になってるのかしら」


 それぞれ三人が一斉に捲し立てていて、よく聞き取れない。


「おい、モンスターも倒したし、後は――――」

 グラッ!


 ダメージが蓄積していたのが眩暈めまいがした。


「アキ君っ!」


 レイティアが俺を抱きとめる。ムッチリとした彼女の体が心地良い。


「大丈夫だよ。レイティア」

「だ、大丈夫じゃないぞ。こんなにボロボロじゃないか」


 クラーケンの触手による打撃を受けたのだからダメージは当然だ。むしろ、この程度で済んだのは飛躍的に上がったステータスやバフのおかげだろう。


 ギュッ!

「アキちゃん、無理しちゃダメよ」


 反対側からアリアにも抱きかかえられる。柔らかな体と体温を感じてドキッとしてしまう。


「アリアお姉さん、一人で歩けますから」

「ダメよ。アキちゃんは私が看病します」


 アリアの看病という言葉に、レイティアが反応する。


「ぼ、ボクも看病するぞっ! 付きっ切りでな」

「私だって付きっ切りで看病するから。裸で」

「ははは、裸はダメだぁ! エッチだぞアリア」

「人肌で温めるのが効果あるのよ。レイティアちゃん」

「そ、そうなのか……」


 そんな訳あるかとツッコみたいところだが、急に意識が遠くなりレイティアの肩に担がれたまま俺は運ばれて行った。

 彼女の胸に顔を埋め甘い香りに包まれながら。


(これ……この感じ、前にもあったような……)


 ◆ ◇ ◆




 宿に戻った俺を待ち受けていたのは、過保護になったお姉さんたちの甘やかしだった。


「ほら、アキ君、お水飲むかい? あーんして」

「アキちゃん♡ 体を拭くわね。脱いで脱いでぇ」


 レイティアが水差しを俺の口に入れようとし、アリアは服を脱がそうとする。


「お、おい、もうポーションを飲んだから大丈夫だって。俺の作ったポーションは、ある程度の怪我なら治せるから」


「そんなこと言わずにさ。ここはお姉ちゃんに甘えるんだぞっ。ほらほら、疲れてるだろ? 肩を揉んであげるよ」


 レイティアが俺の肩を揉み始めた。

 それを見たアリアが口を尖らせる。


「ね、ねえぇ、アキちゃん。溜まってるでしょ、ココも揉んであげるわねっ♡」


「ちょ、ちょっと! アリアお姉さん、そこは禁止ですって」


 アリアが口では言えないような場所を揉もうとしたので止めた。


「ちぇっ、アキちゃんってガード堅いんだからぁ。いいもんっ、足を揉むから」


「あああ……ここは天国か……」


 美少女二人に肩と足をマッサージされて天にも昇りそうな気分だ。


「まったく、だらしがない顔してるわね。戦ってる時はカッコよかったのに……。って、なに言わせてんのよ!」


 離れて見ていたシーラが怒り出した。意味が分からない。


「ははっ、戦ってる時は必死だったからな。興奮して何を言ってたのかよく覚えてないよ。でも、全員無事に戻れたのだから良かった」


 俺の言葉でシーラがジト目になる。


「あんた……色々と問題発言してたのも覚えてないの?」

「何のことだ?」

「はあっ、これだからこの男は……。修羅場になっても知らないわよ」

「は?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 急にレイティアとアリアの威圧感が増す。それに乗じてマッサージしている手にも力が入った。


 グイグイグイグイ!


「痛っ! 痛タタタタタタタ! お、おい、レイティア、強過ぎないか?」

「へえ、覚えてないんだ? ボクの乙女心をもてあそんだ罪は重いよ」

「な、何のことだ。落ち着けレイティア」

「お姉ちゃんだぞっ! まったく」


 グイグイグイグイ!

 足を揉んでいるアリアの手にも力が入る。


「ちょ、ちょっと、アリアお姉さんまで」

「アキちゃぁぁん、ホント悪い子なんだからぁ」

「アリアさん? 目が怖いですって!」

「この鈍感男にはキツいお仕置が必要かしらね」

「ひぃいいいいっ!」


 アリアの目が鋭くなる。こうなった時の彼女は女王様のような迫力で背筋がゾクゾクしてしまう。


「お仕置としてアキちゃんは私と裸で添い寝でーす♡」

「ま、まて、服を脱ぐな!」

「ダメでーす♡ 人肌で温めるのは看病でーす♡」

「ああぁ! こんなの我慢できない」


 服を脱いだアリアに触発されたのか、レイティアまで覚悟の決まったような顔になる。


「ぼ、ボクも……。脱ぐしかないのか……」

「レイティアまで何やってんだ!」

「こ、これはだね……。そ、そう既成事実を!」

「ぐぁああああ! もう限界だ!」


 そんなこんなで、俺は荒ぶる二人の女子に挟まれ、お仕置きと言う名の看病を受け続けた。もちろん一線を越えないよう我慢し続けて。


 ◆ ◇ ◆




 討伐クエストを終えた俺たちは、残る滞在をバカンスに使うこととなった。まさに皆が望んでいた通り南の島旅行計画だ。


「くっ、昨日あんなに密着されて興奮も収まってないというのに、今度は水着姿を見せられるなんて。お、落ち着け俺! 間違いを犯したらパーティー崩壊だぞ……」


 自分にそう言い聞かせて気合を入れる。


 一足先にビーチへと行き、着替えている彼女たちを待っているところだ。

 アドミナの観光業であるビーチの方といえば、クラーケンが退治されたことで賑わいを取り戻している。もう出店まで並んでいた。


「ううっ、しかし何で俺のパーティーメンバーは可愛い子ばかりなんだ……。女子だけのパーティーということもあり覚悟はしていたのだが……」


 昨今では冒険者界隈でもセクハラ問題が取り沙汰されるのだ。彼女たちの魅力に負けエッチなことでもしようものなら、俺はセクハラ男子の汚名を着せられてしまうだろう。


 レンタルしたビーチパラソルの下で待っていると、後ろから声がかけられた。甘く透き通るような心地よいアリアの声だ。


「アキちゃん、新しい水着なんだけど、どうかしら?」


 振り向いた俺に衝撃が走る。ビキニ姿のアリアが魅力的過ぎるのだ。


(あああ! アリアさん! 布面積が少なすぎやしませんか!? それ隠れてないから! 横乳とか下乳とか……)


 俺の動揺を知ってか知らずか、アリアは胸を揺らしグイっと体を寄せてくる。

 俺の心臓の鼓動が数段速くなった。


「どうしたのかなぁ? アキちゃん、私の水着を褒めてくれないのぉ?」

「あっ、あの、凄い……」

「すごい? それでぇ」

「う、美しくて直視できません」

「うふふっ♡ そうなんだぁ♡」


 ちょっぴりイジワルな目をしたアリアがグイグイくる。昨日のお仕置で味を占めたのだろう。


「今日は逃がさないぞっ、アキちゃん♡」


 アリアの目が俺をロックオンして離さない。

 まだ水着回は始まったばかりなのに、俺の自制心が限界突破しそうになってしまった。






 ――――――――――――――――


 破壊力抜群のアリアお姉さん。ますます距離が近くなったレイティアお姉ちゃん。そして――――

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