第22話 おやくそく触手攻め

 多少トラブルは有ったものの、混浴を回避した俺は明日のクエストに備え眠る準備をする。


 俺に裸を見られたレイティアとアリアは、風呂を出てからは布団にもぐり悶々としているようだ。

 顔まで布団をかけて何やらブツブツとつぶやいている。


「くあぁん♡ アキ君に見られちゃった♡ どどど、どうしよう……。これ、もう責任取ってもらうしかないよね♡」

 きゅんっ♡ きゅんっ♡ きゅんっ♡

「ああっ♡ アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃぁ~ん♡ もう私ダメかもぉ♡ 蕩けちゃうよぉ♡」

 きゅんっ♡ きゅんっ♡ きゅんっ♡

 きゅぅぅぅぅーん♡


 レイティアとアリアから危険な雰囲気が漂っている。裸を見られたのが予想外に恥ずかしかったのか。まあ、大人しくなったから良しとしよう。


「ふうっ、良い湯だったわ。やっぱり湯上りは牛のお乳ミルクに限るわね」


 ただ、シーラだけはいつも通りだ。腰に手を当てミルクを飲んでいる。

 そんな彼女が俺の視線に気付いた。


「ちょっと、なに見てんのよ! ま、まさか」


 そう言って浴衣の胸を隠す仕草をする。


「おい、誰も胸は見てないぞ」

「うそっ、ジロジロ見てたわよ」

「見てたのはミルクだ」


 ハッ!


「もしかして、あんた『ミルク飲んでも胸は大きくならねえぞ』とか思ってるんじゃ?」

「お、思ってないから!」

「やっぱり小さな胸が……」


 シーラは胸のことになるとムキになるようだ。


「胸はどっちでも良いから。それより明日の討伐クエストだよ」

「そうね、まっ、アタシの魔法でドカーンっとやっつけてやるわよ」

「期待してるぜ」


 他の二人が不安だが、明日に備えて俺は布団に入った。


 ◆ ◇ ◆




 翌日、クラーケンが住み着いたという港に出向き、漁業関係者から状況を聞いた。


「あの巨大イカのせいで商売あがったりですぜ」

「漁にも出られやしねえし、観光業も……」

「特に若いお姉ちゃんがね……」

「でも、王都から強い冒険者さんが来ると聞いて喜んでいたんですぜ」


 日焼けした腕が逞しい漁師たちが口々に言う。


「それでクラーケンが出現するポイントとかタイミングは有るのですか?」


 俺が質問すると、漁師たちが苦笑いを浮かべた。


「ほれ、そこのお嬢ちゃんたちが砂浜を歩いてれば出てくるはずですぜ」

「は?」


 その返答に、ますます触手的大事件が起きそうな不安が高まった。


 ◆ ◇ ◆




「と、言う訳で……レイティア、おとり役を頼む」

「何でボクなのさぁああ!」


 クラーケンをおびき寄せる囮役にされたレイティアがごねる。


「だって、アリアとシーラは魔法で迎撃しなきゃならないし、接近戦の得意なレイティアなら任せられると思ってな」


「で、でも……ボクが触手でイケナイコトされちゃったら……」


 レイティアが太ももを擦り合わせてモジモジする。


「これはレイティアにしかできない仕事なんだ」

「ぼ、ボクにしか……」

「そうだ、終わったら何でもするから」

「ななななな、何でもだとぉおおっ♡」


 レイティアのテンションが上がった。


「ほ、本当に何でも良いのかい?」

「ああ、俺にできるものならな」

「や、やったぁあ!」


(何でも料理を作るって言っただけなのに、レイティアったらそんなに喜んでくれるのか。ははっ、食いしん坊だな。可愛いやつめ)


 元気になったレイティアが勢い勇んで波打ち際へと向かう。


「こらぁああ! クラーケン出てこいやぁああ!」


 海に向かってレイティアが叫んでいるが、本当にこんなんで出てくるのだろうか。

 港で聞いた話では、クラーケンは若い女を狙うらしいので、美人で可愛いレイティアが打って付けの役割な気がするのだが。



「ねえっ、アキちゃん」


 水平線を眺めていると、アリアが体を寄せてきた。


「どうかしましたか? アリアお姉さん」

「もちろん私にも何でもしてくれるのよね?」

「それは当然です。俺はメンバーを平等にしますから」

「ええっ! 平等に愛しちゃうの……」


(んっ? 今アリアが変なことを言った気がするけど……。気のせいかな)


「そ、そうなんだ。アキちゃんって欲張りなのね……。本当は私だけを愛して欲しいけど……。でも、レイティアちゃんもいるし……」


 深刻そうな顔をしたアリアがブツブツと独り言をしている。こういう時の彼女の瞳はゾクゾクする。女王様のような迫力があって怖いのだ。


「えっと、またアリアが挙動不審に……。これも禁断症状なのか?」


 ポンッ!

 いつの間にか隣に来ていたシーラが、俺の肩に手を置いた。


「アキ、あんたも罪な男ね」

「はっ、何のことだ?」

「あの子たちってエロいけど、実はけっこう純情なのよ」

「それって……どういうことだ?」

「まあ、修羅場にならないよう気をつけなさいよね」


 シーラが怖いことを言う。修羅場はヤバい。やはりメンバーには平等に接しないと。



 ズドドドドドドドドドドドドドド!

 ザッパァアアアアアアアアァァァァーン!


 その時、突然海が割れ波が押し寄せた。

 割れた海の中から、巨大な影が立ち上る。


「出たぞ! 間違いない、あれがクラーケンだ!」


 海から空に向けて立ち上がった影は、群青色ウルトラマリンブルーをした不気味でヌメヌメの軟体巨獣だ。そこから無数の触手が四方八方に伸びている。


「てあぁああ! とうっ!」

「レイティア! バフをかけるから一旦戻るんだ!」


 前方で触手と格闘しているレイティアに声をかける。


「待ってくれ! 少しでも触手を減らさないと。とやぁああっ!」


 ブンブンと剣を振るうレイティアだが、焦っているのか攻撃が当たっていない。


「レイティア、落ち着いて! 前にやった時を思い出すんだ。って、聞いてないか……」


 前に俺が背中を抱いてやった時は上手く当てられたのに、一人にするとポンコツ感が出てしまう。


「アリア、シーラ、魔法で援護を!」

「了解よ! 任せなさい!」

「分かったわ!」


 シーラが逸早く攻撃態勢に入った。


「くらいなさい! 雷槍サンダースピア!」

 ズバババッ! バチッ!


 シーラの放った電撃魔法はクラーケンの表皮に青白いプラズマを走らせただけで消えてしまう。


「えっ、アタシの魔法で無傷なの?」


 シーラが驚きの表情を浮かべる。

 続いて撃ったアリアの火炎魔法も、クラーケンにはダメージを負わせられない。


「これは……やはり魔法耐性が強いのか」


 俺の言葉を受け、シーラが大魔法の詠唱に入ろうとする。


「ちょっと待てシーラ、デカいのを撃つとレイティアに当たるぞ」

「どうすんのよっ!」


 一旦レイティアを下げようと思った矢先に、彼女の体は触手に捕らえられてしまう。


「うわぁああああ! やめろぉ! 触手が! 体に絡みつくぅ!」


 ヌメヌメした触手に捕まったレイティアが、大触手から生えた無数の触手に体中をまさぐられている。


「ああぁ! 気持ち悪いっ! 助けてアキ君っ!」


 グチュッ! ニュルニュル! ニュチョ! グジュルッ! ニチュニチュ!


「こらぁああああ! 俺の・・レイティアに何してくれてんだぁああああ!」


「えっ、『俺の・・』ってアキちゃん?」

「本音が漏れてるわよ、アキ」


 何か問題発言した気もするが関係無い。大切なレイティアが触手攻めに遭っているのだ。許せるわけがない。


 俺はクラーケンを八つ裂きのバーベキューにすると誓った。






 ――――――――――――――――


 許さん、クラーケンめ! ちょっとそこ代われ!(おいっ!)

 レイティアが捕まってしまい大問題です。


 そして、暗躍する奴らの動向も気になるところ。


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