第14話 捜索クエスト

 今日は全員で冒険者ギルドに向かっている。先日稼いだ報酬で借金は返せるものの、家賃までは払えないと知り、急遽クエストを受けることになったのだ。


 ただ、パーティーメンバーはお金ではなく添い寝の問題で揉めているのだが。


「むうぅぅっ! アキ君、先日のシーラに引き続き、今度はアリアと添い寝するなんて……」


 朝からずっとレイティアが怒ったままだ。俺のスキルがレベルアップしたことや魔族の加護のことを説明したいのだが、今はそれどころではない。


「よし、今夜はボクと添い寝だぞっ! じっくりねっとり」

「ねっとりは勘弁してくれ」

「なんでさーっ! アリアとはねっとりしてただろ」


 俺は何度も同じ説明をする。


「だからそれはサキュバスの禁断症状をですね……」

「実はボクもアキ君と添い寝しないと禁断症状が」

「そんなの聞いたことないぞ」

「ううっ、もう知らないっ!」


 レイティアが拗ねてしまった。


 普段は凛々しい女騎士みたいな顔をしているので、頬を膨らませてプリプリする顔が可愛かったり面白かったり。

 レイティアの顔を見ていたら、つい吹き出してしまった。


「ぷっ、ふふっ」

「お、おい、笑うな」

「ははっ、怒っているレイティアも可愛いな」

「か、かわっ、ううっ……」


 レイティアが真っ赤になってしまった。


(あれっ? 面白いって意味で可愛いって言ったのに。もしかして……。マズい、女子に可愛いとか言ったらセクハラになったりしないだろうか?)


「アキ君のばぁーか」

 ぐりっ! ぐりっ!


 恥ずかしそうな顔になったレイティアが、俺の脇腹を肘でグリグリしてくる。


(マズい! やっぱり怒ってる? ここはセクハラにならないよう釈明しておかないと)


「あ、あのな、レイティアお姉ちゃんは美人だしスタイルも良いし、誰もが可愛いと言うはずなんだ。でも、俺が言っているのは容姿のことじゃなく、レイティアの性格とか中身が可愛いって意味でな」


「はうぅぅ~っ♡ もう許してぇ。そんなの言われたり焦らされたりして、もうボクはおかしくなっちゃいそうだよぉ」


(あれっ? 余計にこじれた気がする……。女心がよく分からなくなってきたぞ)


 そんなやり取りをレイティアとしていると、後ろからアリアの威圧感が急上昇した。


「ねえ、アキちゃん。やっぱりレイティアちゃんと仲良いよね? もしかして付き合ってるの? キスしたの? 寝たの? ねえっ、ねえっ?」


「ししし、してないから! 何もないから。落ち着きましょう、アリアお姉さん」


 パーティーの人間関係も難しいと感じたところで、シーラから冷静な一言を浴びた


「あんたたち、懲りないわね」


 ◆ ◇ ◆




 冒険者ギルドに到着し掲示板でクエストを探していると、再びクエスト報酬が引き上げられている依頼を見つけた。


「あれっ、このジャイアントトロル討伐クエスト……報酬が三割増しだって。もしかして、また誰かが失敗したのかな?」


 俺が取った依頼表をレイティアが覗き込んできた。


「どれどれ、ジャイアントトロルか。これは強くて報酬も良くてオススメじゃないか」


 相変わらずレイティアの顔が近い。


「ジャイアントトロルは強敵だぞ。巨大な体でパワーも耐久力も桁外れな上に、再生能力も有るからな。再生能力を上回るダメージを与えないと倒せないぞ」


「問題無いっ! アキ君と一緒ならトロルでもジャイアントでも倒せる気がするぞっ! それに、こういう強いモンスターを倒せば、ボクたち閃光姫ライトニングプリンセスのランクも上がるじゃないか」


 現在、閃光姫ライトニングプリンセスの冒険者ランクはC級である。

 これだけ強いメンバーが揃っているのだから、本来はS級でも良いはずだ。今までどれだけ失敗続きだったのか。


「そうだな。レイティアの剣技が当たれば……。あと、アリアとシーラの魔法も強いから何とかなるかな」


「決まりだなっ! よし、このクエストにしよう」


 喜び勇んでレイティアが受付に依頼表を持って行くが、何やら受付嬢は忙しく他の対応に追われているようだ。


「何かあったんですか?」


 俺が受付嬢に声をかけると、とんでもない答えが返ってきた。


「た、大変なんです。ジャイアントトロル討伐に行ったパーティーが戻って来ないんです。迷宮で迷ってしまったのか……それとも……」


 受付嬢が目を伏せる。


「それは……大変だな……」


 冒険者には危険がつきものである。高額報酬を目当てに実力以上の強いモンスターに挑み亡くなる者が後を絶たないのだ。


 俺が感傷に浸っていると、受付嬢が依頼表を確認した。


「あっ、貴方たちがジャイアントトロル討伐クエストを受注するのですか? だったら、この捜索クエストも一緒にどうですか?」


「捜索クエスト?」


 受付嬢が、もう一枚の依頼表を渡してきた。


「はい、行方不明になったパーティーの捜索と救助です。同じ場所ですし報酬も多いですよ。救助に成功したら報奨金も出るそうなので」


「良いじゃない! これでお金もガッポリよ」


 俺の脇からシーラがヒョコっと出てきた。


「そうだな。どうせ同じ場所に行くんだ。人助けにもなるし受けるか」

「そうこなくっちゃ!」


 思わぬ高報酬クエストに浮かれていた俺だが、次に発せられた受付嬢の言葉で我に返る。


「では、行方不明になったパーティー煌く剣戟シャイニングソードの捜索をお願いします」


 ◆ ◇ ◆




 もう関わり合いたくないのに何故か絡み合う運命に、俺はうんざりした気持ちになってしまった。


「またアイツらかよ。何でグリードたちは毎回クエスト失敗してるんだ。もう顔も見たくないのだが……」


 正直どうでも良いし助けてやる義理も無いのだが、このまま見捨てるのも寝覚めが悪い。


「ボクもゴブリードなんか助けるのは癪だけどね。でも、これも金のため……借金返済と家賃のため……」


 ちょっとだけ悪い顔でレイティアが言う。どうやらゴブリードで名前が定着してしまったようだ。


「良いじゃない。恩を売っとけば。ガッポリ金を払ってもらいましょうよ」


 小さな体で伸びをしながらシーラがつぶやく。確かに彼女の言う通りかもしれない。


「そうだな。グリードに会ったら『俺は貴様を助けに来たのではない! 行方不明者を想う人々の心が俺を突き動かしたのだ!』とでも言ってやるか」


「はぁああぁん♡ アキちゃん素敵ぃ♡」

 きゅぅぅぅぅーん♡


 アリアの顔がヤバいくらいに火照っている。また禁断症状が出たのだろうか。


「冗談で言ったのに……」


 そんなこんなで俺たちはジャイアントトロルの住み着いたという北のダンジョンに向かった。

 添い寝したがるレイティアと発情しているアリアが危険だが、きっとクエストが終わる頃にはスッキリしているはずだ。

 たぶん――――






 ――――――――――――――――


 嫌々ならがグリードたちの捜索クエストに行くアキ。しかし、恩を仇で返す奴らの悪意を知らないのだった。

 悪い奴らにはキッチリ片を付けるのでご安心を。

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