第2話
「なんてのもまあ、300年以上前の話なんだけどね」
「いいなあ、昔は。人間の見る目なんて気にしなくても戦えたんだから……」
「馬鹿言うな、昔は人間からのチャーム無し、殆ど裸一貫で厄災と戦ってたんだぞ。当たり前に、沢山のフリルが力及ばず地に堕ちて、立て続けに大厄災が堕天した」
「世界が存続しているのも奇跡みたいなものだよねぇ」
「いいか、死にたくなければつべこべ言わずに変容の腕を磨け、ディーテ」
「イィ゛……」
ディーテと呼ばれた紫髪のフリルは、しわくちゃにした顔を手で覆った。
頼りなく縮こまった翼がぴるぴる震える。
仁王立ちをし、厳しい顔でディーテを見下ろす藍色の髪のフリルと、ぷかぷか浮く雲の椅子にダラリと腰掛けながら欠伸する、黄褐色の髪のフリルに挟まれて、その間に蹲りながら。
神秘という名のヴェールに包まれ、フリルたちの熾烈な戦いが、人間たちの目に伏せられていたのも、今は昔。
約300年前に堕天した、第四の大厄災との戦いにより、多くのフリルが翼を散らした。
戦いを生き残ったのはたった11翼。
その11翼の伝説級フリルによって、厄災との戦闘……何より、人間とのかかわり方について、大きな革新が成されたのである。
「だって……こんなのまるきり搾取じゃないですか……人間さんたち好みの見た目になって、人間さんたちの目の前で戦って、お布施を煽るなんて……」
ディーテは、翼で自分の身体を包み込むように肩を丸めて、ボソボソと呟いた。しかし、藍色の髪のフリル……ネメシィは、その言い草に眦を吊り上げる。
「何を言う、私たちフリルが輝けば、厄災が倒せる。厄災が倒されれば、人間たちの生命や生活が守られる。結果的に、人間たちが金を払うことによって、自分たちを守っているだけだろう。私たちは寧ろ、奴らの娯楽にも貢献してやっている。これが奉仕でなくて何だというのだ」
話を聞いていない素振りで雲と戯れていたもう一人のフリル、サエマムも、ネメシィの言い分に同意するようにフンフンと笑った。
しかし、ディーテはなおも言い募る。この際、たまりにたまったフラストレーションを発散してやろうという、一種の自棄である。
「破産するまで私財を投じる人間さんもいると聞きました……生活を切り詰めてでもフリルのためにお金を使うなんて、本末転倒です。健全な営みとは思えません……」
「そんなこと、私たちの知ったことか」
「破産するまで貢げ、なんてさ……私たち一言も言ってないもんね。彼らが勝手にやってるだけ、違う?」
「違いませんけど……」
第四の大厄災以降、爆発的に増加した厄災の堕天。厄災によって踏み荒らされる世界に、女神は一層嘆いた。
女神の吐息から発生するフリリューゲルの数もまた、爆発的に増加。それによって、厄災とのバランスが取れるものと思いきや。
生まれたばかりのフリルなど、戦力外も良いところ。しかし、厄災は、堕天したはなから、強大な破壊をもたらす存在だ。
結果、やむなくして、伝説の11翼は、厄災との戦いを、人々の目から隠し通すことをやめた。
そもそも、戦力となったのはその11翼のみで、あとはただの烏合の衆であったことから、神秘のヴェールをおろす要員すら満足に用意できなかっただけなのであった。
しかし、それによって、伝説の11翼たちは、人間たちの周知の存在となり、熱狂的な信奉を得ることとなった。
そして、それと同時期、おあつらえ向きといったように、女神信仰を取りまとめる教会によって、フリリューゲルという存在の流布と、お布施制度が整備され始めた。
人間の崇拝によって輝きを増すフリリューゲルは、それにより、従来の数十倍、ともすれば、数百倍の翼力を発揮できるようになったのだ。
フリル史では、この一連の変革を「
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