第72話 一気に王都へ

 サヴォワ王国の王都まで進軍することを決めたフランツは、王国内の街道上を馬に乗って駆けていた。フランツが率いるのは少数精鋭の部隊で、草原に展開していた全軍からかなり数を減らしている。


 王都までの移動時間や補給物資についてを考慮し、ザイフェルト公爵を捕えるために必要最低限の人数に絞った部隊だ。


 そのメンバーにはもちろんイザークと、そしてエーリヒも選ばれている。エーリヒは部隊後方に下がっていて、先頭から少し後ろを走るのがフランツとイザークだ。


「この部隊の存在を、ザイフェルト公爵側は察知していると思うか?」


 二人は馬で素早く駆けながらも、息を乱さずに会話を交わす余裕があった。そんな二人に周囲の騎士は尊敬の眼差しを浮かべている。


「いえ、まだ報告も届いていないでしょう。そもそもあの草原に、まともな騎士がいたとは考えにくいです。報告に向かってる者がいるかどうかも定かではありません」

「確かにそうだな……ここまでの道中でも、我々の姿はあまり目立っていないようだった」


(内戦直後というのが、私たちにとって有利に働いているのだろう。サヴォワ王国に住む民たちは、この部隊を内戦のために動く自国の部隊だと認識している節がある)


「問題は内戦によって、どこまでザイフェルト公爵側の戦力が減っているかだな」

「そうですね……王都の城壁は一部破壊されているとの情報を得ていますので、王都内への侵入は容易いでしょう。問題はザイフェルト公爵がいるであろう王宮内ですね」

「できる限り損害なくザイフェルト公爵を捕えたいな」


(ザイフェルト公爵にどれほどの求心力があるのか、そこに左右されるだろう。こちらとしては公爵一人を捕虜として捕えられるのならば、そのまま休戦するので問題ない)


「とにかく今は、早く王都に向おう。このままのペースならば、予定通り明日の昼過ぎには着きそうか?」

「はい。今夜が一番の山場です。夜襲にだけは最大限の警戒を」

「もちろんだ」


 

 それからフランツたちは無事に野営をしながら夜を越え、翌日の昼過ぎには王都近くに到着した。少し遠くからでも分かるほどにサヴォワ王国の王都には内戦の爪痕が残っていて、城壁は予想以上に崩されている。


「こんなに壊してしまっては、これから統治するのも大変でしょうに……」


 イザークが呆れた声音で呟いたのがフランツの耳に入った。


(ザイフェルト公爵は、あまり賢いタイプではなさそうだな。これならばヴォルシュナー公爵との繋がりに関して、すぐに証言が得られそうだ)


「私たちとしては僥倖だ。このまま王都内に侵入し、素早くザイフェルト公爵を捕える。――皆、目標は敵の将であるザイフェルト公ただ一人! 余計な戦闘は避けて目的を完遂せよ!」

「はっ!」


 フランツの言葉に完璧に揃った返事をした騎士たちは、一斉にサヴォワ王国の王都に向かって馬を駆けた。


 そんなフランツたちの軍勢に、崩れた外壁に配備されている下っ端らしき者たちは気づいたようだが、まとめ役がいないのか碌な抵抗もなく、王都に入ることに成功する。


(……これほどまでに無防備とは。ザイフェルト公はサヴォワ王家を討ったことで、他には敵がいないとでも思っているのか? これだとシュトール帝国以外の国々も、サヴォワ王国を乗っ取るために動き出しそうだ)


 サヴォワ王国は帝国と広く国境を接しているが、それ以外にも複数の国と国境を接している。それらの国々とは和平を結んでいる国もあれば、小競り合いが頻繁に続いている国もあるというのが現状だ。


 小競り合いが起きている国など、絶好の機会だと襲ってくる可能性が高く、和平を結んでいる国とて完全な信頼を置くことなどできない。


(ザイフェルト公爵は、国の長として適さないな)


 今まで得てきた情報、そして目の前に広がる酷い王都の様子を冷静に観察したフランツは、そう断じた。


「イザーク、サヴォワ王国が滅びる可能性も視野に入れて動くぞ」


 フランツにそう伝えられたイザークは、王都の様子に視線を向けながらしっかりと頷く。


「かしこまりました。他国の介入も視野に入れます」

「ああ、それが良いだろう」


 そんな話をしているうちに、碌な抵抗がないままフランツたちの部隊は王宮内に足を踏み入れた。しかしさすがに王宮内の警備は固めているらしく、突然現れたフランツたちに混乱しながらも、必死の抵抗を見せる。


「は、早く騎士を集めよ……!」

「絶対に敵を宮殿内に入れるでないぞ!」


 指揮官らしき人物の叫び声がフランツたちにまで届き、本格的な戦闘が開始された。

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