第39話 おにいちゃまにプリンをもっていく

 みんなでプリンの試食会をしたあと。

 

 ぼくはシルヴェストルお兄様に、訪問したい旨を連絡した。そして許可が下りて、今日訪ねていけることとなった。


 ぼくはアランとステラを連れて、シルヴェストルお兄様の部屋へと向かった。

 カミーユは「プリンのりょーさんたいせーを早くととのええて」と言ってさっさと帰した。

 プリンの入った冷えた容器を、ぼくは手に持っている。シルヴェストルお兄様に食べてもらうのだ。


「おにいちゃま!」


 お兄様の部屋に辿り着きステラに扉を開けてもらうと、ぼくは室内に飛び込んだ。

 

「よく来たな、リュカ」


 シルヴェストルお兄様は長椅子で読書をしていて、本から顔を上げると笑顔を向けてくれたのだった。

 ぼくもぱあっと笑顔になった。


「おにいちゃま、あたらしいスイーツだよ!」


 布で包んだプリンの容器を、ローテーブルの上に置いた。


「ほう、またスイーツを作っていたのか。知らなかったな」

「たべてたべて!」


 ステラが素早く準備を整え、プリンの容器がお皿の上に置かれ、スプーンが用意された。


 シルヴェストルお兄様はスプーンを手に取り、プリンを口に運んだ。


「これは、初めての食感だな……! こんな食べ物があるとは!」

 

 プリンのぷるぷるな感触に、お兄様は目を輝かせている。やった、気に入ってもらえた。


「これは美味い」


 にこにこ顔でお兄様はプリンを食べている。

 スイーツに舌鼓を打っている瞬間は、普通の子供だね。


「おにいちゃま、ぼくにもひとくちちょーだい?」

「いいぞ、ほらあーん」


 シルヴェストルお兄様の横に行き、ぼくは口を大きく開けた。

 スプーンからプリンを一口分もらえた。うーん、やっぱり甘くて美味しい!

 ほっぺを押さえてもぐもぐした。


「ああ、美味だったな。オレのリュカはやっぱり天才だ!」


 食べ終わったあとは、お兄様が頭をなでなでしてくれた。気持ちよくてうっとりしてしまう。

 

「ところで、さっきからそこのアランがなにかを言いたそうにしているな。オレは寛大だから聞いてやるぞ」


 シルヴェストルお兄様は紅茶のカップを傾けながら、突然アランに話を差し向けた。

 名前を呼ばれたアランは、ビクリと震えた。


「その……先日の発言を謝罪したいのです。王室費を無駄遣いしているなんて事実無根なことを口にして、主に向かって苛立ちを露わにするなんて。許されざる行いでした」

 

 アランの表情はほとんど変わらないが、本気で申し訳なく思っていることは声音から伝わってくる。

 

「そうか、許そう。オレは気にしていない。思えばオレも、アランに甘えてしまっていたところがあったかもしれない」


 シルヴェストルお兄様はこともなげに返事したけれど、実際にはショックを受けていたのをぼくは知っている。

 平気なふりができるなんて、お兄様は大人だなあ。


「それから、オレはリュカ殿下に仕えることになりました。シルヴェストル殿下に確認を取らず、勝手に決断してしまって大変申し訳なく思っております」

 

「ふむ……それは違うな」


 お兄様はカップを静かに置いた。


「はい?」


 何を否定されたのかわからず、アランは目をぱちくりとさせている。


「オレが頼んで、アランにリュカの護衛騎士になってもらったのだ。そうだろう? 失言をしたから辞任しただなんて、アランの経歴に傷がつくだろう。狡賢ずるがしこく生きねばな?」


 シルヴェストルお兄様は、悪い顔でニヤリと笑った。

 アランの経歴に傷をつけないために、お兄様が頼んで主人が変わったことにすると言っているのだ。

 お兄様、なんてカッコいいのだろう! ますます大好きになってしまいそうだ。


「シルヴェストル殿下……!」


 アランも感じ入ったのか、拳をぎゅっと握り締めている。


「命がけでリュカを守れよ。お前にならばリュカを任せられる」

「はい、必ずや……!」


 アランは本当に命をかけそうな勢いで返事した。


「オレの新しい側仕えと護衛については、お母様に頼んでなんとかしてもらうつもりだ。もっと早くそうしていればよかったんだ」

「なんとかしてもらえるなら、よかったね」


 お兄様の護衛が補充されるなら、アランを取っちゃったことはさほど気にしなくてよさそうだ。


 こうしてぼくは、頼りになる護衛を手に入れたのだった。

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