四分割の彼氏殺人事件~ハーレムエンドが無理なので主人公分裂エンドにしたら殺されました~

かも

プロローグと言う名の実質本編

 むかしむかし……いや別にそんな昔でもないけれど、大体令和入ってすぐくらいの日本の東京の国分寺市に、平凡で普通な男子高校生がいました。

 その男子高校生はクラスで一番カッコイイというわけでもなく、人気者でもなく、成績もそこそこ。クラスの端っこで趣味に耽るのが日常の普通の人間でした。

 因みにその男子高校生の趣味はアニメ、マンガ、ラノベ、ゲーム。所謂ジャパニーズカルチャーをこよなく愛す生粋のオタク。

 そしてそして、そのオタク趣味に理解ある幼馴染がいるという、神からのギフトとしか思えない幸せな男子高校生でもありました。


 ある日その男子高校生は、夜の道端で吸血鬼の真祖で姫というテンプレと偶々遭遇しました。

 その吸血鬼はもちろん絶世の美を標準搭載しており、そしてこれまたトラブル命の危機という名のデバフも背負っていました。まーたいへん。

 それから色々あってその吸血鬼に嚙まれた男子高校生は吸血鬼に生まれ変わり、謎の才能を開花させて吸血鬼の姫様のトラブルを解決してあげてと大活躍。

 そんでもって吸血鬼の姫様と婚約も結ぶというファインプレーをかましやがり、彼は『普通』の男子高校生から、完璧で究極な『特別』な存在、主人公に見事ジョブチェンジを果たしました。


 めでたし、めでたし……とここで終わらず物語は第二章へ。


 件の主人公ですが、吸血鬼の姫と日々ラブコメをこなしていたわけですが、ある日主人公の自宅に記憶喪失の美少女ロボットが着払いで送られてきました。

 それからなんやかんやあって、その美少女ロボットは主人公の家の住み込みメイドになりました。美少女ロボットメイド爆誕です。突然のヒロインの追加。これもテンプレですね。

 しかしある日美少女ロボットメイドが裏切り、主人公を暗殺しようとしたのです。

 なんと美少女ロボットメイドの正体は、悪の秘密結社が開発した殺戮兵器だったのです。あれまー。

 そこからすったもんだのアレコレがあり、美少女ロボットは悪の秘密結社から寿退社、からの主人公の家の住み込みメイドとして永久就職と相成りました。

 因みに美少女ロボットメイドのお給料は吸血鬼である主人公からの毎日の魔力供給キスデス。安易なエッチ要素。これもまたテンプレ、世界の意思、逃れられぬカルマ。


 さて美少女ロボットメイド編で物語完結、めでたし、めでたし……とはやはりいかず物語は第三章へ。



 本格的にラブコメをキめていた主人公ですが、ある日妹が異世界の天使達に攫われる事件が発生。

 そこでなんと妹ちゃんと主人公は血が繋がっていない義理の兄妹だったという事実も発覚。

 妹ちゃんの実のお母さんは異世界の天使のお偉いさんで、お父さんは異世界の勇者だったとか。

 そしてそんなハイスペックな妹ちゃんが異世界に攫われた原因は、異世界がピンチでマジヤバなので、大天使と勇者の血と力を受け継ぐ妹ちゃんを生贄にする必要があったんですって。野蛮ですねー。

 そんなこんなで主人公は異世界へと出向いて、妹ちゃんの問題を全部綺麗に片付けました。

 勿論異世界のマジでヤバなピンチも救っていますとも。

 なにせ主人公ですから。

 しかし妹ちゃん天使事件物語はそれで終わりませんでした。

 なんとエピローグで異世界の神様から、今度は主人公と妹ちゃんの間に産まれた子供が異世界を救う救世主になるとかどうとかの次回予告予言を頂いてしまったのです。

 ええ、そんなわけでして。

 めでたし、めでたし………………とはもう絶対行きません。

 情報を整理しましょうか。


 まずはじめに、主人公には普通の幼馴染がいて。

 それから吸血鬼の真祖でお姫様な方と婚約済みで。

 そんな主人公は毎日キス(魔力供給)で稼働する美少女ロボットメイドを雇っていて。

 おまけのおまけに主人公には異世界の神様から頂いた予言の影響で、血の繋がらない妹ちゃんと子供を作らないといけません。


 ……いっぺん死ね。

 失礼、本音が。

 因みにですが、件のヒロインの半数は独占欲強めな気質の持ち主達で、ハーレムとかするぐらいなら皆殺し♡を実践する力と動機を持った戦国武将も真っ青な最狂ヒロイン達でして。


 さて、この通り主人公の首は後先考えない多重債務者の如く、全く回らなくなってしまいました。

 いい気味です。

 だがしかし当の主人公からしたら状況は最悪。

 主人公は悩みました。

 しかしそこに天の助けが入ります。

 具体的に言うと、異世界の神様が主人公の『願い』を叶えてくれたのです。

 異世界のマジでヤバなピンチを救ってくれたお礼的な感じだそうです。太っ腹。

 そんなわけで主人公は異世界の神様に願いました。


「────みんなを幸せにしたい」


 そんなオキレイであさましく、人間めいた願望を、異世界の神に願ってしまったのです。

 願いを聞き届けた異世界の神様は、なんと主人公をに増やすというパワープレーをお披露になられあそばれました。


 誰が偽物でもなく、四人全員が本物。


 つまり一人の人間を四分割し、ヒロイン一人につき一人の主人公をあてがう。

 言うなれば主人公分裂エンド。

 そんなハーレムを超えた新時代の関係性。流石令和、未来に生きてる。

 これでやぁっとめでたし、めでたし。ハッピーエンド到達。

 そうして無事物語は終わりを迎えたのです。


 ………………しかしそれから一ヶ月後の夏休みに、事件は起きました。


「し、死んでる!?」


 なんと四人に増えた主人公の内の一人が、死んでしまったのです。




 ──さて、はじめに言っておきますが、これからはじまる『四分割の彼氏殺人事件』は決してミステリーなんかじゃありません。

 名探偵の活躍を期待していた人にはごめんなさい。

 この物語には名探偵も華麗な推理劇も存在しません。あるのは精々凡人の妄想と茶番劇。

 ……え、タイトル詐欺じゃないのかって? 

 まぁそこは寛大な心でお許しください。

 せめてタイトルだけでもミステリーっぽくしたかった、見栄っ張りな私のいつもの悪足搔きなのですよ。

 ……話が逸れました。ええ、とにかくこれからはじまる物語は……端的に言ってしまえば『後始末』の物語です。

 もしくはとある人物の長めのエピローグとでも呼べますでしょうか。

 ハッピーエンドを迎えたはずの物語のその後の……本来語られることのない、その先の物語。


 女心は複雑怪奇。


 これはそんな当たり前を忘れたが故の事故からはじまる、痛みと後始末の物語なのです。 

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