儚くも魅せる人生
水音 流々
2体の友情
「問題ないかな」
目覚めると僕は人間に見下ろされていた。黒い眼球がキョロキョロと動いている。まるで何かを探しているようだ。ふと周りを見渡すと半球体の入れ物に入れられており、僕と同じ格好をしている者たちがいた。体は黒くて丸い。手足も生えていない。パチンコ玉より二回りほど大きい。押しくらまんじゅうのようにお互いの体をピッタリと横の者にくっ付けている。まさに身動きが取れない状態だ。半球体の中央には何かの導線が出ていた。
「これから何が起こるか分かりますか」
「うわぁ」
状況を理解するのに精いっぱいだった僕は、隣の者にいきなり話しかけられて変な声が出てしまった。何が起こるかは全く分からない。目覚めたらこの状態だったからだ。
「全く分かりません。あなたは恐くないんですか」
「私は恐くないですよ。むしろ今回の命は仲間がいるので心強いです」
どうやら僕と違って、隣にいる者は前世が狼だったらしい。生まれて二年目で親元を離れ、狩りをしていたときに虎に襲われた。助けを求めたが誰にも声が届かず、その場で息が絶えたという悲しい人生を送っていた。それに比べて僕の前世の記憶はない。僕を仲間と思ってもらえただけで嬉しかった。
「これもご縁ですし僕と友達になってください」
「はい、喜んで」
よく分からない環境の中で友達ができた。
「次は割った火薬を玉殻の中央に入れるんだ」
人間同士が真剣な眼差しでやり取りをしていた。どうやら僕らがいる半球体の入れ物は玉殻というらしい。
そして次の瞬間、僕たちがいる玉殻の中に火薬が押し込まれた。直接火薬を触れるわけではなく、紙を隔てて投入された。
「パタン」
今目の前で起こったことを整理しようとしていたところ、突然視界が真っ暗になった。閉じ込められたようだ。どうやら僕たちがいる玉殻と、もう一つの玉殻を合わせて一つの球体を作ったようだと、玉殻の端っこにいた者が叫んだ。
「助けてくれ」
ある者はこう叫んでいたが、この後一生視界が明るくなることはなかった。
球体の外では色々な音がしていたが、自らの目でその動きを捉えることはできない。
「もしかしたら我々は短い命なのかもしれません」
友達の表情は険しい。
「それでも僕らにできることを全うしましょう」
「ふふっ」
初めて男らしいことを言った僕に友達が微笑んだ。
「ガタンゴトン」
車の揺れで起きた。いつの間にか眠っていた。どこかに運ばれているようだ。球体の外は段々と賑やかになってきた。
「もう最期の予感がします」
「うわぁ」
ずっと眠っていると思っていた友達がいきなり口を開いたのでつい驚いてしまった。
「これ二回目ですよ。驚かないでください」
友達は不貞腐れていた。
「ここから解放されたら君と一緒に自由になりたかったなぁ」
「私もです」
「準備ができたら飛ばせ」
球体の外が騒がしくなってきた。近くで爆音が鳴り響いた。どうやら本当に最期らしい。火薬臭くもなってきた。
「バチバチバチ、ヒュ~ド~ン」
大勢の人間が集まる河川敷で、僕たちは夜空に花を咲かせた。
これで僕は友達と一緒に自由になれた。
儚くも魅せる人生 水音 流々 @mizune_ruru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
夏の毎日日記🏝/天伊あめ
★12 エッセイ・ノンフィクション 完結済 25話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます