05-41.最強の機動兵器



『この合金が貴方の夢を、私たちの夢を実現させる鍵になりました』

『ロゼッタがそれを手にしてるのを見てな。拝借して調べてみたら驚きの連続だった。加工には苦労したが、それに見合った対価が得られた』


 聞けば、あの合金をカレンさんとクララさんが共同で研究し、MKモビルナイトを形成する素材に適しているという結論に至ったみたいだ。それは半ば不可能だと思われていた理想のMKモビルナイトを開発するにあたって偶然にも最も必要な物だった。

 

 爆発的な出力を叩き出すメインジェネレーターを構成する材料。それから生まれる驚異的な加速にも耐え得る剛性、攻撃から身を守る装甲、機体の骨とも言えるフレームまでも構成している。


「この機体の全てをその素材で?」

『ああ。あいや、一部にPKメタルを組み込んであるぞ。安心しろ、設計図通りだと言っただろ』

「そんなところまで。調達方法は……聞かない方がいいですね」

『ふふっ、助かります』


 僕がカレンさんにそう問うとクララさんが悪戯が見つかった子どものように笑った。

 察するに新型試作機、“エーデルワイス”や“シャムロック”を開発している部署から拝借したんだろう。 

 PKメタルは現在の戦争方法すら覆してしまう程の発見だ。そんな物を社内でとはいえ簡単に横流ししてしまうなんて。僕は全く困らないが、アークティック社という会社は本当にえぐい事を裏でしてるんだな。

 

 でもそもそもこの“モーニング・グローリー”は〝本当は存在しない機体〟。アークティック社では製造していないことになっているんだろうな。兵器製造には公的な許可が要る。そもそも“ソメイヨシノ”のようなの組織に武器、兵器を提供してる事自体がアウトなんだから。

 

 でも、僕が好き勝手に描いたあの設計図の全てがこの機体には反映されているというのか。とても信じられない。少なくとも僕が居た1周目の世界の技術ですら実現は不可能だ。

 たったひとつの素材ひとつで全ての問題をクリアにしてしまうなんて……。偶然たどり着いたとはいえ、生み出した僕自身が一番驚いている。

 いや、その素材に着眼し研究を進めてくれたカレンさんとその成果をもとにMKモビルナイトに反映させたクララさんたちのおかげなんだけど。


『しかし【ミスリル合金】を生み出したのは貴方です、コータくん。貴方の閃き無くしては“モーニング・グローリー”完成はなし得なかった』

「【ミスリル合金】?」

『はい。ルナティック合金とスタークリスタルを掛け合わせて出来た金属を我々はそう呼んでいます。軽く、強く、加工しやすい……そう、それはまるで魔法のような金属です』


 なるほど、物語に出てくる魔法の金属ミスリルの名を付けたのか。

 でも本当に図面通りのスペックなら大袈裟ではない名前だと僕は思った。


『そして何よりスタークリスタルの特徴を……いや、これ以上の説明は不要か』

「全て設計図通りなら」


 話をしている間に発進準備が整った。それを察したカレンさんが言葉を切った。

 全て設計図通りなら大丈夫。マニュアルを開くまでもない、全部頭に入ってる。


『行って来い、コータ』

『お気をつけて』

「はい、行って来ます……あ」

『?』


 ワイプ内の2人が揃って首を傾げる。僕はそんな2人に短く、でも心を込めて言った。


「ありがとうございました」

『……ああ!』

『ふふっ、とても楽しかったです』


 僕の理想だけを詰め込んだ夢の設計図。

 それは本当なら到底実現は不可能で、完成には数年、数十年かかるかも知れないとすら思っていた。それをたった一年足らずで完成させられたのは紛れもなく彼女らの努力の結果だと思う。

 ギリギリになってしまったなんて2人は言ったけどとんでもない。あの絶望的な状況からの打開が出来る。この機体、“モーニング・グローリー”なら必ず。


「行くぞ」

『アイ・アイ・サー』


 僕の合図でコンテナが開口されて光が差し込む。眼下には青い地球。その彼方にリオがいる。時間はない。今この瞬間にもリオは戦っている。平和で幸せに暮らせる未来のために。僕たちの未来のために。だから僕も行くんだ。

 僕をかばって死んでしまった幼馴染の彼女を救うために。みんなで作り上げたこの最強装備の機動兵器で今度こそ絶対に守り抜く。


「出力最大。全速力で降下する」

『アイ・アイ・サー』

「返事はラジャでいい」

了解ラジャ。出力最大』


 AIがそう応えると瞬く間にメインジェネレーターの出力が上昇し瞬間的に最大値に達した。その出力そのものの値も驚きだけど、ジェネレーターのポテンシャルが高い。高出力かつ俊敏。注文通り、でも期待以上の性能だ。


「すごい……」

『お褒めに預かり光栄です、マスター』

「さぁ行こう。大事な人が待ってるんだ」

了解ラジャ


 僕はその返事を聞くより早く機体を空中に投げ出した。



 

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