ダンジョンの隠し部屋には、壁尻がいた。~謎の魔物『壁尻さん』と僕ののんびりダンジョン探索紀行~

あまみや 要

十一月は出会いの季節!?

第1話 『壁尻さん』

カクヨムコン参加作品です。

毎日18時投稿予定です。

よろしくお願いします。

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 ダンジョンの隠し部屋には、壁尻がいた。





 初めてのダンジョン探索で、休憩しようと壁に寄りかかったらその壁がダミーで、ダミー壁の先の通路は隠し部屋に繋がってて、部屋に入ると正面の壁に壁尻さんが埋まってた。イマココ。


 お尻がぷるんと壁から突き出ている。


 人が壁にめり込んでるのかと思ったけど、リラックスした様子でぷるぷるとゆれてるお尻を見るに違うっぽい。


「もしかして、魔物?」


 僕の言葉に壁尻さんはぷるんと大きく揺れた。


 もしかして、肯定してるのかな?


「えっと、戦った方がいいのかな?」


 独り言のつもりで呟くと壁尻さんがぶるるるんと激しく揺れ出した。


 否定してるの?


「戦うのはイヤ?」


 ぷるん。


 やっぱり意思疎通できてるみたい。


 戦うつもりが無いみたいでちょっと安心したけど、どうしよう。


 隠し部屋の中を見渡してみる。


 何もない小さな部屋。壁尻さんのいる正面の壁の足元にぽつんと小さな宝箱が置かれているだけ。


 あの宝箱開けたいな。


 開けた途端に壁尻さんが襲ってきたりしないよね?


「あ、そうだ。テイムがあった」


 すっかり忘れてた。


 僕のジョブはメインが魔法使いでサブがテイマーだ。


 あんなお尻だけの魔物の話なんて聞いたことがないし、もしかしたらめちゃくちゃ強いレアモンスターかもしれない。


 テイムしたいな。


 いいかな?


「ねえ、壁尻さん。テイムしていい?」


 それまでぷるぷると不規則に揺れていた壁尻さんはじっと固まって、小さくぷるんと肯定の意を返した。


「いいんだね?」


 ぷるん。


「じゃあいくよ。≪テイム≫」


 初めてのテイムだったけど、壁尻さんが受け入れてくれたから一発成功だ。


 壁尻さんのお尻の左側に僕のテイム紋が刻まれている。


 初めて見た僕のテイム紋は薄い本に出てくる淫紋みたいなハート形に矢が刺さってるデザインで、なんかちょっとエッチだ。


「えっと、ステータスオープン」


 早速壁尻さんのステータスを確認してみる。



===========


マスター:沢山孝太郎

名前 :(未設定)

種族 :******


===========



 あれ? 種族のところが読めなくなってる。


 テイムしたのに種族がわからないなんて話聞いたことないんだけど。


 壁尻さん、君何者なの?


 壁尻さんは僕の困惑なんか無視してぷるぷると揺れている。


 うん、今考えてもしょうがないな。


 わかんないことは保留、保留。 


「名前はどうしよっかな」


 突発的なテイムだったから名前の候補とか全然考えてなかった。


 そういえば壁尻さんってオス? メス?


「うわっ! ごめんごめんごめん!」


 性別確認のために下から覗きこんだらブルンブルンと抗議された。


 うん、ごめん。言葉が通じるんだから聞けばよかったよね。


 でもちゃんと確認できました。


 ついてなかったので壁尻さんは女の子です。


「えっと、花子? 幸子? 梅子? 妙子?」


 どれもイヤみたいだ。


 洋風の方がいいのかな?


「じゃあエリザベス? マチルダ? キャサリン? ナンシー? マーガレット? あ、マーガレットがいいの?」


 ぷるん。


 お気に召したみたいだね。


「じゃあマーガレットで。普段は壁尻さんって呼ぶけどね」


 そう言うと、ショックを受けた見たいに固まってしまった。


「よく考えてごらん? 僕みたいな陰キャがお尻をマーガレットって呼んで撫でてたら気持ち悪くない? 通報されちゃうよ」


 小さく、ぷるん。


「だけどね、壁尻さんって呼んでたらそういう魔物なんだって分かってもらえると思うんだ」


 ぷるん。


「だからあだ名みたいなものだよ」


 ぷるん。


 納得してくれたみたいだ。


 まあ嘘なんだけどね。


 お尻を連れ歩いてる時点で通報されちゃうし。


 だから僕はこの子を人目にさらすつもりは無いからマーガレットって呼んでも問題ないんだよね。


 でも壁尻さんって語感がなんか気に入っちゃったし。


「これからよろしくね、壁尻さん」


 ぷるん。


 撫でると嬉しそうにぷるぷる揺れる。かわいい。


 壁尻さんのお肌はシルクのように滑らかで、押すと低反発マットレスみたいに柔らかくて程よい弾力を感じる。


 ずっと触っていたくなる手触りだ。


 すりすり。つんつん。なでなで。もにゅもにゅ。


 無言でお尻を撫で続ける僕ってちょっと変態っぽいよね。


 うん。やめよう。


「そういえば壁尻さんは動ける?」


 動けなかったらどうしよう。置いて帰るわけにもいかないし。


 そう思ってたら壁が水面みたいに揺れて壁尻さんがぬるっと動き出した。


 すごい。


 サメ映画に出てくる背びれだけ海面に突き出して泳ぐサメみたいだ。


「地面には降りれる?」


 ぬるっとした動きで地面に降りてきた。


 僕の足元でドヤ尻でぷるぷる揺れている。


「壁尻さんはすごいなぁ」


 褒めてあげると僕の足にすりすりしてる。


 子犬みたいだ。かわいい。


 持ち上げてみようと引っ張ってみたけど地面からは離れられないみたいだ。


 泥で出来た手の魔物、マッドハンドもこんな性質だった気がする。


「壁尻さん、この中入れる?」


 僕はリュックを下ろして、取り出し口を地面に接着させた。


 壁尻さんはぬるっとリュックの中に入った。


 よし、これなら運搬もばっちりだ。


「それじゃあ今日は帰ろうか」


 リュックを背負いなおして立ち上がる。


 壁尻さんとの出会いが衝撃的すぎて今日はこれ以上探索する気になれないや。


 初めての探索で、成果も少ないけど帰ってしまおう。


「あ、宝箱」


 すっかり忘れていた宝箱を開ける。


 中に入っているのは小さな魔石一つきりだった。


 隠し部屋の宝箱だからいい中身を期待したのに。


 世の中そんなにうまくいかないよね。残念。




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≪作者からのお願い≫


拙作をお読みいただきありがとうございます。


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