第18話 ささやかな祝勝会
有沢雪乃のオーディションの数日後、彼女のスケジュールの空いてる日を事前に聞いて俺と千鶴は喫茶店を予約していた。
この喫茶店は千鶴の知り合いが経営しているので無理を言って貸し切りにしてもらった。
そして、雪乃を連れて三人で集まりささやかなオーディション優勝の祝勝会を開いていた。
「それでは有沢さんのオーディションお疲れ様&優勝おめでとうを兼ねて――「「「かんぱーい」」」
俺たちはジュースのコップを軽く触れさせる程度の乾杯をして楽しんでいた。
「今日は俺と雛田さんのおごりだから遠慮なく食べてくれ」
俺たちのいるテーブルには、大皿に乗ったサンドイッチや飲み物、そして少し小さめのケーキが置かれている。
「はい、本当にすごい逆転劇でしたね! 歌もすごくて私、感動しちゃいました」
「あ、ありがとうございます二人とも。ふ、二人の応援のお蔭で頑張れました」
雪乃は嬉しそうだ。
「で、でも、オーディションに合格したとたん学校の皆が私に話しかけてくるようになって困ります」
「それだけ注目されているって事ですよ」
千鶴の言葉に俺も頷く。
「そうだな、他のクラスや学年の違う人達まで見に来て大変だったな」
「うぅ、私は人に見られると緊張しちゃいます……」
そう言いながらも満更でもなさそうに、お皿のサンドイッチをハムハムと食べる雪乃。
「それで、雪乃ちゃんの曲を作曲してくれた人からメッセージは貰えたんですか?」
千鶴の質問に雪乃はすぐに口に入れた食べ物を飲み込み嬉しそうに話しだす。
俺はその話にちょっとだけ視線があちらこちらに泳いだが不自然にならない様にサンドイッチをつまみ誤魔化す。
「……は、はい、合格したその日にメッセージを頂きました。わ、私に楽曲を提供してよかったって」
そう言って、雪乃はぱぁぁっと花が咲いたように明るい笑顔を浮かべた。
こんなに綺麗に笑顔を浮かべるなんて珍しい。
「よかったですね! それで、作曲者さんのお名前は確か……Noname先生でしたっけ? 本名は何と仰るのですか?」
「そ、それが私も知らないのです。社長……私の所属してるプロダクションの社長がメールでやり取りしているのだけれど、私にはメールも見せてくれないし年齢や名前なんて絶対教えないって言って言われていて。け、ケチなんです」
雪乃の言葉に千鶴は少しだけ考える様な仕草をした後、俺をチラリと見た気がした。
「そうなんですか……そういえば、小田くん」
俺は千鶴に呼ばれてサンドイッチを食べる手を止める。
「ん?」
「その、少し言いずらいのですが……サンドイッチを食べるペースが早すぎです。私と有沢さんの分がなくなっちゃいますよ!」
そう言いながら少しだけプンスカする千鶴。
「あっ、小田くん! わ、私の祝勝会なんですよ」
「わ、悪い……」
ばつの悪そうにする俺をみて、千鶴は口元に手を当てながら上品に笑う。
「ふふっ、小田くん、今日は学校にいる時から楽しみにしてソワソワしていましたもんね。有沢さんも許してあげてください。この祝勝会も小田くんの発案なんですよ。絶対、有沢さんが勝つからお店も前もって予約しようって言って張り切っちゃって2週間も前からですよ」
千鶴の言葉にまじまじと俺を見つめる雪乃。
「そ、そうなんですか? 私が勝つって信じてくれてたんだ……」
「いや、だって……森林公園で歌とダンス見せて貰ったし、あんなに頑張ってる有沢さんが優勝出来ない訳ないから。実際、その通りだったし」
何となく気恥しくなり目線をそらして頭を掻く。
「そっか……小田くんも、ひ、雛田さんもずっと私のこと応援してくれてましたもんね、ありがとうございます二人とも」
「私たちは有沢さんのファン1号と2号ですからね。これからも応援しますよ。それで、もうアイドルデビューは決まったとしてこれからテレビにもバンバン出演しちゃうんですか?」
「ば、バンバンかは分からないですけど、一応歌番組には呼ばれてるって社長が……」
「おぉ、すごいな」
「で、でも、まだデビュー曲もレコーディングしてないのに気が早いですよね」
「……羨ましいな」
千鶴のそんな呟きに思わず視線を向ける。
「羨ましい? もしかして、雛田さんもアイドルになりたいとか?」
「えっ?! そ、そうなんですか?」
俺と雪乃の質問に大げさに手を振って否定する千鶴。
「まさか、違いますよ。ただ、有名人に沢山会えそうじゃないですか」
「あぁ、そう言う意味ですか。あ、安心しました。でも、ひ、雛田さんは美人さんですから余裕でアイドルになれそうな気も……」
そう言いながら、まじまじと千鶴を見つめる雪乃。
俺も千鶴のルックスとスタイルならアイドルだけじゃなくモデルにもなれそうだと思うが、セクハラになりそうなので黙っておく。
「そんな簡単になれませんよ。それより、早くサンドイッチを食べちゃいましょう。パサパサになっちゃいますよ」
「あっ、そ、そうですね。ふ、二人も遠慮しないでどんどん食べてくださいね! 小田くん、もう一回乾杯です!」
「お金出してるのは俺と雛田さんだけどな」
「い、いいんです、今日は私が主役なんですから!」
「そうだな。それじゃ、これから先の有沢さんのますますの活躍を願って」
「「「かんぱーい」」」
楽しい祝勝会はまだ始まったばかりだ。
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