第1章

第1話 落ちこぼれのアイドル候補生①

「何か面白いテレビ番組でもやってないかな……」


 無事に受験を終え高校の入学式の前夜、俺はテレビの電源を入れてからリモコンを操作しチャンネルを変えて面白そうな番組を探す。

 そして、ある番組がテレビに映し出されたところでリモコンを操作する手を止める。

 テレビから軽快な音楽と明るい司会者の声が流れ出す。


『それでは第13回、新人アイドル公開オーディションを開催します』


 どうやら、女性アイドルを目指す8人の女の子たちによるオーディション番組の様だ。優勝した子を番組スポンサーが全面的にバックアップしていくらしい。


 女の子が順番に登場してきて軽く自己紹介をする。

 今の時代、グループで活動するアイドルが多い中、やはりソロでデビューを目指すだけはある。可愛らしい女の子ばかりだった。

 何となく片手でスマホを操作しながら番組を流し見していると、いつの間にか8人目の少女がテレビの中で自己紹介を始める。


『あ、あ、あり、わりさ、有沢ありさわ、ゆ、ゆき、ゆき雪乃ゆきの……で、です。と、年は15歳です、あ、あい、アイドルになって……わ、私でも、か、輝けると、しょ、しょしょ証明するためにここにきました。……アイドルになって沢山の人を笑顔にしたり、げ、元気づけたりしたいです。……え、えへっ』


 彼女はカメラに手は振っていたが目線は向けないで、ぎこちなく引きつった笑みを浮かべた。


 とても可愛らしい女の子だと思った。ステージのライトに照らされて輝いて見える美しい髪に体つきはやや華奢きゃしゃだが画面越しでも分かるきめ細やかで白い肌。今まで登場した女の子たちも可愛かったがこの有沢雪乃という少女は群を抜いて容姿が整っていた。

 アイドルらしいフリルの付いた衣装を身にまとい、やや短めのスカートが恥ずかしいのか少し気にする仕草をしている。

 少し緊張しているのか言葉はつっかえつっかえで、カメラに視線を向けないその仕草からかその抜群の容姿とは裏腹に自分に自信が無さそうな印象を受けた。


『雪乃ちゃん、とても緊張してるみたいですね。笑顔が少し怖いよー』


 番組の司会が雪乃のフォローだろうか、冗談めかしてツッコミを入れる。


『……っ?! す、すみません、え、笑顔は少し苦手で』


 司会者に話しかけられたせいかビクッと体が跳ねた。


『いや、少しと言うか何と言うか……そもそもアイドル志望が笑顔苦手じゃダメでしょ!』


『『あはははははっ』』


 司会のツッコミに会場に笑いがおこる。

 しかし、雪乃と言う少女だけは少し青い顔をしながらぎこちない愛想笑いをしていた。

 かなり癖の強い少女のようだがそれでも、人を自然と引き付ける魅力のある子だと感じた。


 俺はいつのまにか、スマホを操作するのも忘れて彼女に目が釘付けになっている事に気が付いた。


「有沢……雪乃、面白い子だな……それに可愛いし」


 思わずそう呟いていた。

 そして、少女たちの自己紹介が終わりオーディションがスタートする。

 審査内容はダンス、演技力、歌唱力、そして将来性だった。


 8人全員が一生懸命、演技や歌を披露していく。

 全員のレベルが高くてとても面白い番組だった。

 そして、有沢雪乃が歌を披露する番になった。


 自信の無さそうな態度とは裏腹に歌が始まると声量は中々あり、その歌い出しに俺の心臓がドキリと大きく跳ねる。何故なら、余りにも綺麗な歌声だったからだ。

 しかし、それは一瞬の出来事。

 オーディションに出ている少女たち全員と比べても有沢雪乃の歌唱の技術はそれほど高くなく、それに声と曲もマッチしていない。


 彼女はそれでも青白い顔をしながら必死に頑張って歌っている。頑張ってはいるが……。


「頑張れ……」


 思わず俺の口からその言葉が漏れていた。

 そして、有沢雪乃の歌の点数が発表される。点数は10点満点中の5点……。

 その点数を見た瞬間、俺は声をあげてしまう。


「伸びないか……。確かに技術はまだまだだった。でも、あれ程綺麗な歌声だったんだ。もう少し加点してくれたって……」


 しかし、俺がテレビの前で何を言った所で何も変わらない。

 他の女の子たちは8~9点の高得点だっただけに、この点数は痛手かもしれない。

 そして、テレビから司会者のコメントが流れる。


『有沢さんの資料を見る限り歌も少し苦手みたいですね』


 そのコメントの直後に有沢雪乃はお辞儀をして逃げるように舞台袖に捌けていく。


『それではこれで、全員の審査が終了しました。と言っても、この番組は今回だけでは終わりません。なんと二ヵ月後にもう一度、今度はオリジナル楽曲で歌声をもう一度披露していただきます』


 司会者のその発言に会場は大いに盛り上がる。


『しかし! 残念ですが今日、一人の脱落者が出ます。審査の合計点数が最下位の候補者は今日で脱落となります!! それでは、第6位から見ていきましょう』


 そして、ボードに8人中6位の子の名前がボードに表示される。

 当然それは俺が応援している有沢雪乃の名前ではなかった。


 次々に少女の名前が表示され、順位が発表されるたびに喜びの声が上がっていく。

 そして次は第一位の少女の発表だ。


『それでは、今回のオーディションで暫定一位になったのは!!』


 ドラムロールが鳴り出す。


『エントリーナンバー3番の赤羽ないかさんです! 彼女は大手プロダクションのアイドル候補生だけあって流石の成績です』


 会場が大いに盛り上がる。

 この、赤羽ないかと言う少女は確かにルックスも歌のセンスも悪くないと思う。流石に大手プロダクションのアイドル候補生というだけのことはある。


『赤羽ないかさん今の心境をお願いします』


『はい、まだ油断はできませんが暫定一位と言う結果に嬉しく思います、この場を借りて応援してくださる関係者の方々、そして視聴者の方々にも感謝を。ありがとうございます』


 赤羽ないかと言う少女はキラキラした笑顔を浮かべながら綺麗なお辞儀をした。


『さて、1位から6位までの発表が終了し残るは7位と8位になります。二人のアイドル候補生のうち一人は脱落となります! ドキドキの展開です!』


 画面に有沢雪乃ともう一人の少女が映る。

 有沢雪乃は突然、画面に自分が映ったからかアワアワとしている。


『さぁ、エントリーナンバー5番小沢あかりさんと、エントリーナンバー8番有沢雪乃さん。どっちが脱落するのか! 同時に7位と8位を表示していきましょう!』


 ドラムロールが流れる中、再び数秒だけ画面に有沢雪乃の姿が映る。

 彼女は両手を胸の前で組みながら目をギュッと瞑っている。体がブルブルと震えている気もするが大丈夫だろうか。

 俺も祈るような気持ちでそれを見守る。


 そして、ついにその瞬間はやって来た。

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