転生した天才作曲家は楽曲提供した美少女達に愛されハーレムを築く。有名になったら責任とってと求婚されてます【改訂版】
ごん丸
前日譚
第0話 路上ライブの少女
作曲家――それは楽曲を創造する人、それを職業とする者の事を指す。
そして、それは俺の前世の職業だ。
俺、小田勇気には前世の記憶が断片的にだがある。
今いる世界とは別の世界の記憶だ。と言っても、今いる世界が剣や魔法のファンタジーという訳ではない。
普通に前世と同じ文明レベルの現代だし、魔法や超常の力なんて物も存在しない。
では何故、前世とは別の世界だと言い切れるのかと言うと。音楽だ。
前世で有名だった作曲家たちが軒並み存在していない。前世で大ヒットだったあの曲も存在しない。俺が好きだった曲が、名曲たちが存在しないのだ。
もちろんそれを歌っていた歌手たちも。
恐らくだけどここは俺が前世で生きた世界とは別のパラレルワールドなのだろう。
俺の記憶が断片的にだが戻ったのが5歳か6歳になる頃だった。
そして現在、転生してから15年が過ぎ、季節は冬の12月。街の雰囲気はクリスマス一色になって、中学三年の俺は二度目の高校受験が迫ってきていて少し憂鬱な気持ちになっている。
そんな憂鬱な気分を晴らすため、クローゼットからコートを取り出し夕方の街にくりだす。
目的は、一人の少女のストリートライブだ。
その少女は週に一度決まった時間に、決まった場所で路上ライブをしている。俺はそれを半年前から聞かせてもらっている。
もちろん、彼女との面識なんてものはない。ただ、彼女の歌声が気に入って通っている。
「どうやら……間に合ったようだな」
俺の視線の先には深めに帽子を被り眼鏡をかけている少女おり、ライブの準備を進めていた。
しばらく待っていると少女はギターを片手に咳ばらいをし、歌い出す。
曲は今は流行りの曲で若者を中心に人気がある。
しかし、彼女は懸命に歌っているがそんな彼女の歌声を聴いても街の人々は足を止める事もなく通り過ぎていく。たまに立ち止まる人もいるがすぐに何処かへ行ってしまう。
――彼女が俺の曲を歌ってくれたならな……。
なんて事を想像して彼女のための曲を作曲して楽譜に書き起こし、沢山の言い訳を自分にしながら、カバンの中に入れてきていた。
『あーやだやだ。凡才作曲家は自分に言い訳ばっかりだな』
不意に前世の記憶が断片的にフラッシュバックする事がある。
これは俺がこの世界に転生してきてから、たまに起こる現象で俺を小馬鹿にする男の言葉が再生される事がほとんどだ。
毎回、人を凡才、才能がないと本当に嫌になる。
「うるさい……。俺に才能がない事くらい俺が一番分かってる」
嫌な記憶を振り払うために首をふる。
きっと今日もいままでのように彼女に楽譜を渡す勇気もなくただ、自分に言い訳して自宅へと帰る。
そう、今日もそうなる筈だった。
突如、酔っぱらったサラリーマンの男性が歌う少女に罵声を浴びせた。
「うるせーんだよっ! 下手くそが!!」
男性はそう叫びながら手に持っていた缶ビールを少女に投げつけた。
そして、その缶ビールは少女の頭に当たってしまう。
「きゃっ――」
彼女は小さな悲鳴を上げて、頭を押さえてうずくまる。
「あはは、当たった当たった!」
サラリーマンの男性は少女の様子に大爆笑し、男性の連れと思われる人達も少女に罵声を浴びせる。
言いたいことを言った彼らは笑いながらそのまま去っていく。
俺はどうするか一瞬だけ悩んだが、すぐに少女の側に駆け寄って声をかける。
「大丈夫?」
俺の声にぱっと顔を上げる少女。
「頭に缶が当たっただろ? ケガしてない?」
「……えっ?」
彼女は俺の顔を呆けた様子で見つめ数秒の時間が流れる。
そして、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「ご、ごめんなさい、私……」
「ううん、ごめん。俺も近くにいたのに何もできなかった」
「そんな事ないです。こうやって心配して声をかけてくれました。それに、やっぱり私は歌手に向いていないようです」
そう言って少女はぎこちなく無理に笑った。
そんな彼女の表情を見たからか、胸が苦しくなる。
だからだろう、柄にもない言葉が口から出たのは。
「……そんな事ないよ」
「えっ?」
「キミの声は芯があって良く通る。それに、とても繊細で美しい声だと思う。だから……俺はキミの歌声がとても好きだよ」
少しだけ愛の告白みたいで、はにかんでしまったが伝えたい事を伝えるチャンスだ。
「実は結構前から聞いていたんだ、キミの歌。……半年前くらいから毎週……それで、俺は作曲が趣味でね、キミに歌って欲しいって思ってずっと前から曲を作ってたんだ。でも勇気が無くて渡せなかった。俺の名前は勇気って言うのに」
そう言って思わず苦笑いを浮かべてしまう。
彼女から視線を外して鞄から持ってきていた楽譜を取り出す。
そして、それを彼女に手渡した。
「これは……」
呆気にとられる少女に、突然こんなの渡されても困るよなと内心思いつつも声をかける。
「うん……俺が作った曲。気に入ってくれたら嬉しい。それで、良かったら歌って欲しい」
彼女は楽譜をパラパラとめくり譜面を確認している。
楽譜を確認し終わった彼女は、ぱっと顔を上げてとてもキラキラと輝いた表情をした。
「ら、来週までには歌えるように練習してきます! だから、来週この時間にもう一度きてくれませんか?!」
俺はそんな少女の言葉に嬉しくなり笑顔で頷いた。
そして、来週に絶対に聞きに来ると約束をしてその日は帰宅した。
そして、約束の日。
「楽しみだな……」
寒さで鼻が痛く、吐く息は白い。それでも俺は彼女を待ち続けた。
その日、俺は彼女を何時間待ち続けたのだろう。ただ、じっと馬鹿みたいに何時間も同じ場所で彼女が現れるのを待ち続けた。
しかし、結局その日彼女が姿を見せる事はなかった。
そして、その次の週も、次の週も、次の週も……俺は彼女を待ち続けた。
彼女は俺が受験を終え、高校の入学式を明後日に控えるに日なっても現れなかった。
そしてその時になって
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