怪談『焼き芋』と、真相『嬉し神』
こんな怪談がありました。
『焼き芋』
焼き芋の美味しい季節がやって来ました!
早速、近所のスーパーで焼き芋を買いました。
温かくていい香り。帰り道もご機嫌ですよ。
家に帰って、うがい手洗いを済ませてから。
レンジで少しだけ温め直していただきました。
私はいつも真ん中で半分に折り、焼け具合の美味しそうな方を後に取っておきます。
どちらが美味しそうかと断面を見ると、そこには顔がありました。
(;´・ω・)
芋の繊維の切れ具合で、しょんぼりの顔に見えたのです。
「あ、可愛い」
(*^-^*)
私が写真でも撮ろうかと思っていると、焼き芋しょぼんがニッコリと笑いました。
お芋の繊維でできた顔が、表情を変えたんです。
ビックリしましたが、きっと偶然ですね。
お芋さんの妖精でも入っていたのかしら。
ちょっと、楽しい気持ちになりました。
いつも通り、あっという間に美味しくいただいてしまいました(笑)。
――――という、怪談の真意を聞いてみましょう。
『嬉し神』
「いやぁ、いいお寺ですなぁ」
次の話し手は、物腰のやわらかい笑顔の老人だ。
頭頂部に髪はなく、耳の高さから白髪と白髭が長く伸びている。
仙人を連想する風貌の、小豆色の着物姿をした老人だった。
しわを深く刻み、優しげな笑顔で古寺の本堂を眺めている。
怪談会MCの青年カイ君は、
「ありがとうございます」
と、笑顔を合わせた。
うんうんと頷きながら、老人が話し始める。
私は
嬉しい気持ちを喜びに代えて、相手に届ける役目をもちます。
情けは人の為ならずと申しますが、善行による果報だけではないのです。
縁もゆかりもない相手でも、努力や苦労を見て、それが報われるようにと願いたくなることもあるでしょう。
その願いを、私が届けているのです。
傍観者にでも、間違えて喜びが流れてしまってはいけませんからね。
確かな行き先を見守っております。
ですから安心して良き行い、良き願いをもって欲しいものです。
ゆっくりとした口調で、老人は話し終えた。
「……?」
「……?」
少々難しい話に、参加霊たちは頷くような首を傾げるような表情になっている。
カイ君も目をパチパチさせていたが、
「嬉しい気持ちになれた人から、それをしてくれた人に良い事が返るんですね」
と、聞いてみた。
老人は笑顔で頷きながら、
「ええ、その通りです。ちょっとした声掛けが大きな励みになったとか。頑張っている人を見て、あの人が成功すると良いなとか。何か大変なことがあった人たちに、これ以上の苦労が無いようにと願うようなときにも。私はその願いを、ちょっとした果報として届けているのです」
と、話す。
「なるほど。例えば、どのような果報が届くのですか」
聞かれて、老人はふふふっと笑った。
「それは色々と。性格や心情にもよりますなぁ。最近では、焼き芋を割った時に、芋の繊維で笑った顔を作って見せましたよ」
カイ君も、なるほどと頷きながら、
「焼き芋をふたつに割って、お芋の繊維が笑った表情に見えたら『なにか良い事があるかも』と、楽しい気持ちになりますね」
と、答えた。
「ええ。ちょっとした気持ちの向上だったり、抽選で当たるものとの縁をつないだり。行い相応の返礼を届けます」
「善行も大切ですが、お礼の気持ちをもつことも心掛けたいということですね」
と、カイ君が話をまとめると、参加霊たちはやっと納得したように拍手した。
老人も、楽しげに笑って拍手を重ねている。
有難そうな存在から、有難いであろう話も聞ける怪談会だ。
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