怪談『首無し、ライダー?』と、真相『首無しライダー』
こんな怪談がありました。
『首無し、ライダー?』
首無しライダーって怪談、けっこう前に流行りましたよね。
それに近いものを見た気がするんです。
田んぼの中で首を伸ばす、シラサギの写真を撮っていたんです。ダイサギという種類の、少し大きめな白いサギを見付けたので。
他にも被写体になる鳥が居ないかと腰を伸ばすと、農道に妙な人影が見えたんです。
頭が無い人のように見えたんですよね。
首無しライダーの怪談を思い出しました。
でも、バイクには乗っていなかったんです。
首のない人間が歩いていて、その後ろをバイクがひとりでについて行くように見えました。
そんなはずはないと思い、望遠レンズを覗いたんです。
やはり歩いていたのは首のない、黒いライダースジャケットの男でした。
襟首の中に肌色は見えるのですが、どこにも頭がありません。
その後ろを散歩中の犬みたいに、ゆっくりついて行くバイク。
バイクを押している人の姿も、ハンドルを握る手も見当たりません。
前を歩く男は、時々雑草の茂みに屈み込んだりして、何か探している様子でした。
首が無いのに、どうやって探し物をしているのか。
やっぱり、首を探していたのでしょうか。
しばらくうろうろしてから首無しライダーはバイクに跨り、走り去って行きました。
けっこう大きなバイクでしたが、走行音は聞こえなかったですね。
カメラを向けていたシラサギのすぐそばを走り抜けたんですが、飛び立つこともありませんでしたよ。
見た時はギョッとしましたけどね。
昼間だったし、実際に目の前に現れると、恐怖を感じるべき存在とは思わないものでした。
首無しライダーらしき人物の写真も、撮ってみれば良かったです。
――――という怪談の、真相を聞いてみましょう。
『首無しライダー』
「いや、あの……すいません」
怪談会に集まる幽霊たちが、次の話し手にポカンとした表情を向けている。
黒いライダースジャケットの男性には、頭が無かった。
首の切れ目は、さらっとした肌色の皮膚に見える。
「こんな格好で、すみません」
と、頭のない男性は、ぺこぺことお辞儀する。
話す口も無いが、体から男性の声が聞こえていた。
幽霊たちが怪談会のMC青年カイ君に目を向けると、本尊前のMC席からその姿が消えている。
座布団は空いていたが、
「いやぁ、すみません」
と、本堂奥の暗がりから声が聞こえ、カイ君はフルフェイスヘルメットを抱えて戻って来た。
「お呼びしておくのを忘れていました。こちらはひと足先に、前回の怪談会に参加なさったんですよ」
トコトコと床を歩いて行き、カイ君は頭のない男性にヘルメットを差し出した。
「おぉ!」
ヘルメットを受け取った男性は、すぐに首があるはずの場所へそれを乗せた。
そして顎の下のベルトを外し、男性はヘルメットを取る。
参加霊たちが目を丸くした。
首の無かった男性には、金髪に染めた頭がついていたのだ。
カイ君が渡したヘルメットの中には、男性の頭が入っていたらしい。
「いやぁ、見つかって良かったです」
ヘルメットを小脇に抱え、金髪の男性はぺこぺこと頭を下げた。
本尊前の座布団に戻ったカイ君の笑顔に促され、金髪の男性が話し始める。
ヘルメットでおわかりの通り、自分はバイクに乗っていたんです。
人通りもない、見通しのいい田舎道で。
スピードを出していたのが悪いんですけどね。
凧糸の代わりに、釣り糸を使った凧が引っ掛かっていたみたいで。
クジラやウミガメが飲み込む確率よりも、よっぽど稀な話ですよね。
たまたま風で飛ばされて、木に引っかかっていた釣り糸でスパッとね。
まあ、実際には、もうちょっとグロい感じでしたけど。
雨の後で、水かさが増していた用水路に頭がドボンして……。
体の方もバランスを失って倒れそうなものなのに、そのまましばらく走っちゃってました。
流された頭と離ればなれになって……いやぁ、探しました。
ここって、怪談会なんですよね。
『首無しライダー』なんて怪談そのものが来ちゃった感じで、申し訳ないです。
見た目によらず、腰の低い青年だった。
「釣り糸ですか……ワイヤーみたいな強い釣り糸でないと、マグロみたいな大きな魚は釣れないんでしょうし、そんなのが風に飛ばされて引っかかっていたら危険ですね」
驚きの表情で、カイ君が言った。
「漫画みたいに、本当に首が逝きましたよ」
と、ライダーの青年は片手を首にあてている。
薄い線が首に残っているが、青年の頭は体にしっかりとくっついていた。
青年はヘルメットに視線を向け、
「先に来ていた頭の方が、何か言ってませんでしたか」
と、聞いた。
「いえ。急に飛び上がって視界がグルグルしながら、濁流に落ちたらしいとだけ。流されてしまった頭よりも、ご遺族の元でお葬式をしてもらった体の方が、状況をはっきり飲み込めていたようですね」
カイ君が話すと、なるほどとライダーの青年は頷いている。
「そっか。頭は見付からなかったんでした……」
そう言って自分の頭を掻く青年に、カイ君は、
「間もなく、見付かると思いますよ。霊体の頭と体が出会うのは、不思議と遺体の方と関係しているものらしいです。僕にも、よくわかりませんけど」
と、話した。
「あ、マジすか。そうだと良いな」
「事故の原因となった凧の持ち主に恨みをもってしまっていたら、頭と体は出会えなかったかも知れません。残念ながら、そういう意識の霊はこの怪談会に参加できませんし」
「マジすか……。恨みとかは思い付かなかったっスね。なんか、頭も体も、必死に見付けなくちゃって思ってた気がするんですよ。いつの間にか、ここに引き寄せられてたんですけど」
「では、待ち合わせにも最適なお寺の怪談会ということで」
親指を立ててグッドサインを見せながら、カイ君は笑った。
目を丸くしていたり、ポカンとしたまま、参加霊たちはハフハフと拍手した。
不思議も多い怪談会は続く。
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