怪談『名月』と、真相『風流霊』
こんな怪談がありました。
『名月』
十五夜の出来事です。
その日、今夜は十五夜だと、ニュースで耳にしていたんです。
でも、わざわざ団子とススキを用意するわけでもなくて。
「あぁ、今夜は中秋の名月かぁ、晴れるといいなぁ」
くらいに思っていたんです。
住宅地の小さいアパート暮らしなんですが、道を挟んだ向かい側の一軒家が建て替えをするため、
僕の部屋は1階なんですが、目の前の家が更地になっているおかげで、窓から夜空がよく見えます。
ちょうど上がってきたばかりの月が、とても大きく見えました。
「おー、中秋の名月だ」
なんて、独り言を呟きましたよ。
部屋が明るいと見えにくいので、電気をパチッと消してみたんです。
窓から月を見るつもりでしたが、屋内の異変にギョッとしました。
暗くなった部屋の中に、何人もの人影が現れたんです。
月明かりに浮かび上がる、影のような人たちって言った方が良いのかな。
人の形をした黒い存在が、散らかった部屋の中で立っていたり座っていたり。
みんな窓に向かって、月を見上げていることはわかったんです。
驚いて部屋の電気をつけたら、影のような人たちは姿を消しました。
見間違いようのない状況というか。
別に怖いという感覚はありませんでした。
でも、窓に顔を向けていた人たちが振り向いたら、どんな表情をしていたのか……考えると不気味に思えてきたんです。
近所に住んでいる友だちに電話して、十五夜の月がよく見えるから来てよって。
お酒も買ってあるしって言って、うちに呼んでしまいました。
いつもビールは買い置きしてあるんですけどね。
すぐに友だちが来てくれたので、部屋は明るいままビールを飲んで世間話などしていました。
ふと気付いたふりをして、電気を消した方がよく見えるかなーなんて、部屋を暗くしたんです。
その時は、月もだいぶ高い位置に昇っていて、影のような人たちの姿も見えませんでした。
驚きはしましたが、怖さを感じなかったことも不思議です。
あの時は、僕の部屋が絶好のお月見スポットだったのかも知れませんね。
来年には目の前の家も新築で出来上がると思うので、なにかが集まることもないかなと思っています。
あの人たちは、ご近所に存在する幽霊だったのでしょうか。
――と、いう『怪談』になっている幽霊たちのお話を聞いてみましょう。
『風流霊』
「時々、風流な人が居るんですよねぇ」
左右に座る友人ふたりと一緒に、怪談会へ参加している男性が言った。
僕たちは、月を観る集団です。
竹藪から見上げる、笹の葉を透かした月なんていうのも風情がありますよ。
時には、人様の家に上がり込みましてね。
一番のタイミングで見られる場所から、お月見をするんです。
我々の目は光の干渉を受けません。
部屋が明るくても、月明かりはキレイに見えるんです。
でも生きている人は、部屋の中が明るいと夜空の月は見えにくいですよね。
時々、わざわざ部屋の明かりを消して、夜空を見上げる人が居ましてね。
同じものを美しいと感じる同志なのです。
ところが我々はなぜか、暗闇の中では姿が見えてしまうようなんです。
月の光の魔力かも知れません。
今夜は3人で参加させていただきましたが、僕らは大勢集まることもあるので。
月夜には妙な幽霊が現れるなどと、同志たちが月そのものを怖がるようになってしまわなければいいのですけどね。
3人の真ん中に座る男性が話し終えると、両側の男性たちも大きく頷いた。
怪談会MCの青年カイ君は、
「月の光の魔力ですか。不思議ですね」
と、言って拍手した。
他の参加霊たちもハフハフと拍手する。
3人のひとりが、
「いつも、月光を浴びているからかも知れません」
と、言う。
頷きながらカイ君は、
「なるほど。生きていても幽霊になっても月は変わらず美しいですが、月の光の影響は、生前と少し違ってくるのかも知れませんね」
と、話した。
「空気が冷えている季節も、月がすっきり見えてきれいだ」
怪談会の会場、古寺の本堂奥の窓から、優しい月明かりが射し込んでいた。
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