【完結確約】ヤンキー、眼鏡男子、VTuber、デブヲタ、酔っぱらい、五人揃って戦隊もの!!コミカルだけど世界救ってます【セイギのミカタ】

T-time

第1話 レッド出動

「いっぺん死んでこいや!!」


 威勢の良い罵声と共に金属製のバットが振り抜かれた。

 それはまるで、パワースラッガーを彷彿ほうふつとさせる、力任せのスイング。

 しかし、完全に芯を捉えたそのバットからは「カキーン」という快音は聞こえず。


 生き物の肉や骨を叩き壊す鈍い音が、その命を奪い去ったことを告げるだけだった。



 ここは住宅街も近い普通の道路。

 脇には「スクールゾーン」の道路標識が立っている。

 いつもであれば近所の学生が、駄菓子屋で買い食いをしながら下校するような時間と場所だ。

 天気だっていい、絶好のお散歩日和。


 そんな平和な天下の往来おうらいに、力無く横たわる躯体くたいは、地球上の生物としては類を見ない形状をしていた。

 えて言うならば、ヌメヌメとした大きなバッタだろうか……口からは緑色の体液を吐き出しているのがなんとも気味が悪い。


「チッ、面倒くせえだったぜ!」


 口の悪いその女性は、赤を基調としたサイバーチックなチアリーダーのような……コンセプトのわからない服を身にまとっている。

 さっきから機嫌の悪そうな発言を繰り返しているが、表情が読み取れない。頭から被る赤いマスクを着けているからだ。


 そして路上に倒れたその異生物は、どうやら怪人と呼ばれる生き物らしい。


「終わった! 帰るぞ」


 怪人出現の通報を受け現場に到着してから、ものの数分で彼女の仕事は終わった。

 彼女が吐いた「面倒くせえ」は強敵だったという意味ではなく、弱いくせに出てくるなというニュアンスが強いようだ。


 怪人さえ出てこなければ、見回りパトロールと称したサボり行為で、三時のおやつでも食べて、居眠りのひとつでも決め込むつもりだったのに、という気持ちが出ているのだろう。


 「ふわっ」とあくびを噛み殺し、バットにへばりつく緑色の血が服につかないように気を付けながら、その場を去ろうとする。


「待ってください」


 それを追尾するドローンが、喋り掛けながら追いかけてきた。

 遠隔操作型のもので、彼女の行動の一部始終を録画している。


「っせーな、あれ片しとけよ」


「心配しなくても処理係がもう向かってます」


 彼女の外回りは終わり。

 今日はもう怪人の出現も無いだろうと判断されたのか、帰還命令が出ていた。


 なのに彼女はまだ帰ることなく、辺りをうろうろしている。

 どうやら水場を探していたようで、近くにあった公園を見つけると、小走りにそこへたち寄った。


 まだ少し肌寒い日は続くが、日が差すとほっこり体が暖まる。そこに冷たい風が吹くと体の表面の熱だけをスッと奪い去ってゆく。何とも気持ちがよい時期だ。

 鉄棒で逆上がりをする子供、ベンチで休憩するサラリーマン、子供を連れて談笑するママ友。

 長閑のどかな光景がそこには広がっていた。


 今しがたそこの路地で生き物が殺されたとは思えない。

 怪人出現の警報は鳴った筈だが……彼らには危機感というものが完全に失われているようだ。


 かといってそれを責めるでもなく、赤い仮面の彼女も、その光景を当たり前のように受け取っている。


 公園の水呑場を見つけると、先ほどから不自然な持ち方をしているバットを洗い始めた。

 怪人の体液らしいものが付着して、そのままケースに納めるには気が引けたのだろう。


「くそっ粘っこいなぁこれ」


 懸命に擦るが簡単には落ちない。むしろ怪人を発見して駆除するよりも、彼女にとっては骨の折れる仕事になっていた。


「あ、レッドだ!」


 言葉の聞こえた方に振り向くと、小学生低学年の男の子が、鼻水を垂たしながら走ってくる。


「おお、なんだおめぇウチのファンか?」


「ううん、僕じゃないよ、父ちゃんがレッドのファンなんだよねー」


「いやおめぇ、そこは本人前にしてファンって言っとけよ」


 鼻を垂らした小学生は屈託無く笑いながら、彼女に触れるほどに近づいてきた。 

 レッドも鼻垂れ小僧を嫌がりはせず、ベルトに付属のポーチからハンカチを取り出すと、少年の鼻を拭いてあげた。

 少年はそれにお礼を言うと「えへへ」と照れ臭そうに笑う。


 全身真っ赤で仮面を被った「レッド」に対して、少年は当たり前の存在として接している。

 きっとこれがこの街の普通なのだなと認識できる光景だ。


 レッドは自分のバットをしっかりと洗い、空中に向かって一振ひとふりして、水滴をある程度落とした。

 最後にハンカチで拭こうとしたが、これはさっき少年の鼻を拭いたのだと思い返し、諦めてそのままバットケースに戻す。


 そして本部からの帰還要請に応えるため、立ち上がると、一部始終を物珍しそうに見ていた少年に別れを告げる。


「で、お前の父ちゃんはウチの何処が好きだって?」


「パンチラするとこ!」


 満面の笑みで答える少年に対して、額にピキピキと青筋が立つ。


「……お前の親父シバくから呼んでこいや」


 表情は読めないが、ドスの効いた声で子供に詰め寄ろうとすると、ドローンが間に割って入った。


「レッド、一般人に危害を加えるのはまずいですよ。それに、確かにあなたの人気はパンチラが牽引してると言っても過言ではありません」


 ドローンは落ち着いた声でレッドをたしなめるが、怒りの矛先が変わっただけだ。


「おめ、聞き捨てなんねーだろオイッ! 元々なんなんだこのコスチュームはよぉ、ミニスカートで怪人と戦わせるなんて頭イカれてんじゃねーのか?」


 ドローンのカメラ部分に向かって、メンチを切る。胸ぐらがあれば掴んでいるところだろうか。


「それは仕方ないです、公募で決まったものですから、恨むなら福岡在住のペンネームパンチラ大好きオジサンさん42歳に言ってください」


 ドローンだからと言うわけではないが、機械的にそれに対応する。


「結局おっさんかよ!」



 ──奇っ怪な格好をしてバットを振り回すこの女性は木月きづきあかね


 その口調からは想像しにくいが、国家公務員であることをここで明記しておく──



 2042年、唐突にこの地に初の怪人が出現する。

 ……いや、怪人というにはいささかスケールが違う。

 20階建てのビルを越えるほどの背丈に、長い尻尾。4本の腕に、3つの目。

 言うなれば「怪獣」だろうか。


 それは三日三晩、当時の自衛隊と大立ち回りを繰り広げた後、近海へと沈んだ。


 この非現実的な出来事が作り話であれば、どれだけいいかと人々は思った。

 しかしテレビは連日この事件を取り上げ、沢山の動画がネットに溢れ、否応なしにそれが現実の出来事であると認識させられた。


 それ以上に10万人とも言われる被害者を出していた事で、冗談では済まされない事態になっていたというのも大きい。


 政府もこの災害級の事態に、不足なく対処できたかを追求され続けていた。


 だが問題はこれで終わりではない。

 自衛隊によって倒されたと思われていた怪獣は生きていたのだ。


 数ヵ月後、その怪獣は人間の言葉を使い、悪の組織『エーデルヴァイス』を結成するという意思表明をしたことで、これが一過性のものではないという事実が、さらに日本を恐怖のドン底へ叩き落とすことになる。



 しかし、それとほぼ同時に、政府から対策が発表される。


 『戦隊ヒーローを対応させる』という、これもまた荒唐無稽なものだった。


 monster against special transforce

 怪人対策特別変身部隊──

 通称MASTマスト


 はじめは懐疑的な意見もあったものの、成果を出すと、住民はだんだんとその制度に慣れていった。



 この物語は、そんな狂った世界で戦う、戦隊ヒーロー達の物語である。

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