第3話 謎の女【3】
《side 芹》
今日は、朝からついていない……。
会社の最寄り駅では、チャージ不足で改札が開かず恥ずかしい思いをした。まあ、これは私の不注意だ。
会社についてエレベーターに乗ると定員オーバーでブザーがなり、みんなの視線が自分へ向けられた。まあ、これも無理して乗ろうとしたから仕方がない。
そして何より最悪だったのが、休憩時間にコンビニへ行った帰りに、エントランスで大胆に転けてしまった。転けただけでも恥ずかしいのに、最悪なことに新城堂の社長様の前だった……。
しかも社長からは気を引くためにわざと転けたと疑われる始末。極力目立たないように生活をしているのに本当に最悪だ。誰が好きで社長に近づくのよ。勘弁してほしい……。
何か言われる前に謝罪し立ち去った。きっと、私が誰かはバレていないだろう。オフィスに戻り一息つくが落ち着かない。
私は、残業はしない主義だ。なんとしても、時間内に仕事を終わらせる。定時後は、自分の好きなことを存分に楽しみたいのだ。朝からついていなかったが、仕事は残業せずに終われた。いつもどおり定時の合図と共に席を立つ。
「お疲れ様でした〜」
誰にも文句を言われない完璧な仕事をしたはずだ。いつもどおりロッカーへ寄り、制服から私服に着替えプライベートモードに変身する。化粧を直しコンタクトを装着するのだ。
普通は反対だと言われるが、会社ではひっそりと過ごすのが私の方針。ややこしい女子の付き合いは好まない。
そして大事なのが厚底の靴だ。身長が低いと人の印象に残りやすい。靴だけで少し印象が変わる。あとは私服と化粧で私だと気づく人はいなくなる。今日もバッチリ変身してロッカーを出た。
エレベーターで一階へ降りると、何やらいつもと違いざわついている。今日の私はついていないのだ。これ以上は何もないことを祈りたい。
そして、ざわつきの原因がすぐにわかった。
なぜかエントランス脇のベンチに、私が昼に目の前で転けて恥を晒してしまった新城社長が、眼光鋭く座っているではないか。
まさか、お昼のことにお怒りで待ち伏せされてる⁈
いや、いくら俺様な社長といえどあれくらいのことで待ち伏せをしてまで文句は言わないだろう。
ただ、関わるなと私の第六感が告げている。
自分でいうのもなんだが、普段の姿からは想像できないイケてる女に変身出来ているはずだ。コソコソしていると余計に目立ってしまう。ここは堂々と通り抜けよう。他の社員の帰宅の波に乗りなんなくエントランスを抜け出せた。
気のせいかもしれないが、とにかく気をつけよう。社長となんて絶対関わりたくない。今日もよく働いたし、さあ自分の時間を楽しむぞ。
無事に解放された私は足取り軽く会社から遠ざかる――。
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