第51話 発見

「あ! えーと、そらちゃんお大事にね!」


 私はそらちゃんに手を振ると、何が何だか分からないまま慌ててその背中を追う。


 そのまま柊一さんたちは三石さんの家に戻っていった。リビングにいた三石夫妻に声を掛けることもなく、すごい速さで二階へ上っていく。二人とも足が速い、私は全く追いつけない。運動神経の問題は勿論、足の長さもまるで違うのだ。三石さんたちも、ただならぬ様子に驚き、私の後を追ってくる。


 二階につくと、二人は寝室や子供部屋をバタバタ出入りしている。一体何が起こったのかまるで分らない私は、三石さんと共にただその光景を眺めていた。


「柊一、こっち!」


「あった?」


 暁人さんが子供部屋から声を出した。私たちが使わせてもらっているのとはまた別の部屋だ。覗き込んでみると、二人はクローゼットの前にいた。私が髪の長い女性と会った場所だ。


「あ、あの柊一さん? 暁人さん? どうしたんですか」


 ようやく声を掛ける。クローゼットの中をじっと眺めている柊一さんが答えた。


「遥さんも気づいてたけど、この家には不思議な感覚があるでしょ?」


「はい、二人も原因はよく分からないって言ってましたね」


「ここに何かあるかもしれない、と思って」


 長い指を伸ばし、ゆっくり天井を指した。そっちに目を向けてみると、白い天井の一部が他とは少し違うことに気が付いた。五、六十センチほどの正方形で枠のようなものが見える。


 見覚えがある。実家にも確か天井に、あんな感じの枠があった。


「あれって、確か点検口ですよね?」


「そう、天井点検口だよ。床下にも点検口はあるけど、こっちは屋根裏が見えるようになってるんだ。確か設置は義務じゃなかったはずだけど、住宅会社はちゃんと設置してるところが多いよ」


「へえ……確かに実家にもあります。でも、めったに開けないですよね? 多分うちの家族は誰も見たことないと思います。あそこが何か?」


「そう、普通に暮らしてて、しかも新築を購入したての状況じゃあんなところ見る人の方が少ない。だからこそ、何か置くならここかなって思ったんだ」


「何か……?」


 首を傾げていると、暁人さんが点検口に手を伸ばし開けた。奥には闇しか見えない。柊一さんは三石さんを振り返り声を掛ける。


「ちょっとここを開けさせてください。踏み台になりそうなものはありませんか?」


「あ、開けるのは構いませんが……踏み台かあ。あ、リビングから椅子を持ってくれば」


「あー手間ですね。いいや、暁人踏み台になって。僕が中を見る」


「え。俺が踏み台かよ……」


 暁人さんは悲しそうに眉尻を下げたが、しぶしぶ背中を丸めて小さくなった。文句を言いながらちゃんと踏み台になるところが彼らしい。柊一さんは私を振り返り、優しく微笑んだ。


「遥さんは少し待っててくれる?」


「は、はい……」


 まず二人がなぜここを見ようとしたのか、何があるのかという質問をしたいのは山々だったが、私は素直に頷いた。そして、柊一さんは暁人さんの背中に躊躇なく足を掛け、ひょいっと体を浮かせた。


「暁人、もうちょっと高く」


「それが人を踏み台にしてる人間の言い方か!」


「届かないよ」


「よい、しょっと!」


 ついに柊一さんが、枠内に顔を突っ込んだ。ポケットに入っていたスマホを取り出し、ライトをつけて中を照らす。その様子を、私と三石夫妻は静かに見守っていた。一体何があるというんだろう、あんな場所に。


 しばらくして柊一さんが無言で飛び降りた。その表情を見て、何かあったんだと悟る。彼は口を固く結び、どこか怒りを感じるほどのオーラを背負っていた。


 背中を痛そうにした暁人さんが体を起こし、さすりながら柊一さんに声を掛ける。


「その様子じゃ、あったんだな」


「……だねえ」


 静かに柊一さんが答える。短いその言葉からも、尋常ではない様子を感じた。弥生さんがたまらず尋ねる。


「な、なにがあったんですか!?」


 二人がゆっくりこちらを見る。暁人さんは不憫そうに三石さんたちに告げた。


「霊を成仏させたとしても、俺はこの家は住み続けたくないですね」


「え……」


「とりあえず、片付けます」


 決意の声で、暁人さんが言った。





 







 



 


 

 

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