第50話 何かに気づいた二人
調査のことは別として、そらちゃんをこのまま放っておくわけにはいかない私たちは、みんなで袴田さんのお宅を目指した。暁人さんは自転車を引き、私は痛そうなそらちゃんの体を支え、柊一さんは手提げかばんを持っていた。
そういえば、三石さんたちから聞いていた袴田さん家の家族構成は、小学生の女の子が二人いるということだった。そのうちの一人がこの子なのだろう。
家の前にたどり着き、暁人さんがインターホンに手を伸ばしたところで、ようやく泣き声が収まってきたそらちゃんが小さな声で言う。
「今は家には誰もいない。お母さんさっき出かけたから」
「え……そうなんだ。お父さんもお母さんも? きょうだいは?」
「今日はお姉ちゃんのバレエの日だから、お父さんが送りに行ってて……お母さんはさっきまでいたけど、少し出かけてくるからって」
そして、そらちゃんは柊一さんが持っていたカバンを受け取り鍵を取り出した。私たちと話した後、袴田さんは出かけてしまったようだ。
私は暁人さんと柊一さんの顔を見る。二人とも、少し困った顔をしていた。あれだけ家に入るのを嫌がられていた手前、家族の人が留守中にお邪魔するのはさすがに忍びない。あとで訴えるとか言われても困るし、親がいないのに家に上がるのはやはりよくない。
ただ、玄関に一歩足を踏み入れるぐらいは……ダメだろうか? それだけでも、柊一さんと暁人さんは何かがわかるかもしれない。
「えっとそらちゃん、自転車はどこに置いておこうか?」
「あ、そこに……」
「置いておくね」
自転車を玄関先に置いた暁人さんは、鍵を開けるそらちゃんを見守っている。私はごくりと唾を大きく呑み込んだ。さっき柊一さんがふざけて言っていた言葉を思い出したのだ。よっぽど見られたくないものがある、例えば死体とか……さすがにありえないと思うが、何か恐ろしい物が本当にあったらどうしよう。緊張してきてしまった。
扉が開き、中に入ろうとしたそらちゃんがよろめいたので、私は慌ててまた体を支えた。そしてそのまま、足を踏み入れてしまう。
その途端、爽やかな空気を感じた。
あれっと不思議に思うほどの清々しさだった。温かで、心地よさを感じるほどの素敵なオーラだった。三石さんの家のような、ピリッとした緊張感はまるで感じない。拍子抜けしてしまうほど、この家は禍々しい物は一切なかったのだ。
そらちゃんが玄関にどさりと座り込む音がしてはっとする。私は笑顔で彼女に声を掛けた。
「もう大丈夫かな? これ以上中には入れないから、私たちは帰るね」
「あの……ありがとうございました……」
「ちゃんとお礼が言えて偉いね。怪我はしみると思うけどちゃんと水で洗った方がいいよ。お母さんが帰っていたら手当してもらってね」
そう言って帰ろうかと振り向いたとき、唖然としている二人の様子に気が付いた。
柊一さんと暁人さんは、家の中を見ながら驚いたように目を丸くして立ち尽くしていた。恐ろしい霊が現れてもいつも平然としていた彼らが、こんな表情を見るのを初めて見た。
とはいえ、私には何も見えない。凄い悪霊だとかは勿論、むしろとても温かなお家に感じたほどなので、二人が一体何に驚いているのか見当もつかなかった。
「柊一さん? 暁人さん? どうしましたか」
恐る恐る話しかけてみると、ようやく二人が口を開いた。家の中を呆然と見つめながら、淡々と会話をする。
「どう思う、暁人」
「まあ……普通に考えればおかしなことじゃない」
「そうだね。でも今までのことを考えるとちょっと気になるよね」
「明らかに隠そうとしてたからな」
「それも必死に。無関係を装ってる」
「もし、他のも同じだったら?」
「……」
「……もしかして三石さんの家は……逆なんじゃないか?」
柊一さんが息を呑んだ。そして暁人さんを見て強く頷く。
「調べてみよう」
「見つからない場所だ、普段はあまり見ないようなところ」
「下?」
「下はだめだ、最近は収納になってたりする」
「じゃあ上だ」
分からないまま話が進んでいく。そして二人ともそらちゃんには少し微笑み、優しく声を掛けたあと、玄関から飛び出していった。
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