第45話 こちらから出向く
「あ、あれっ……」
ほんのさっき見たばかりだというのに、消えてしまっていた。柊一さんを起こそうとしている時にいなくなってしまったのだ。でも、見間違いなどではないことは確かだ。
「あの、寝ぼけたとかじゃないんです……! トイレに起きて帰ってきて、なんか話し声が小さく聞こえた気がして外を見てみたら、人がずらっと並んでこっちを見ていて……!」
「井上さん、落ち着いてください」
ややパニックになりながら言う私を、暁人さんは優しく止めると、同時に足元にいた柊一さんの頭を軽く叩いた。
「起きろ! 相変わらず目覚めが悪いな」
呆れた暁人さんがそういうと、柊一さんが小さく唸った。なるほど、中々起きなかったのは、ただ単に起きるのが苦手だったからだったらしい。そういえば、初めて会った時私の部屋で寝た時も、起きてすぐはぼーっとしていたっけ。
「うう……ん」
「井上さんがあれだけ必死に起こしてたのに、お前は何をやってるんだ馬鹿」
「ええ? なに? なんか言った?」
あくびをしながら柊一さんがそう言った。暁人さんはため息をつきながらその質問を無視し、私に向き直る。
「もう一度流れを聞かせてもらえますか」
「は、はい」
私はトイレに目が覚めて帰ってきたところで、話し声のようなものに気付いて外を見たら、人影を発見したことを丁寧に説明した。暁人さんは腕を組んでじっと聞いてくれている。柊一さんも頭がさえてきたのか、胡坐をかいた状態で静かに耳を傾けていた。
話し終えたところで、暁人さんが小さく頷く。
「なるほど……この家をまるで見張るように見ていた、ということですね……何人いたか具体的に人数は分かりますか?」
「あ、ごめんなさい、数えるまでは出来てなくて……でも、被害者の方は七名でしたよね? それぐらいだったと思うんです! しまった、数えられてたらよかったな……」
「いえ、驚いたでしょうし仕方ないですよ。状況的に考えても、やはりこの家に集まっている霊だと考えるのが無難でしょう」
「暗くて顔は全く見えなかったんですけど……間違いなく全員この家を見つめていました。その光景が本当に怖くて不気味で、私」
寒気を覚えて腕をさすった。それに気づいた暁人さんが、私の毛布を手に取って肩にかけてくれる。その紳士的な優しさに寒気が吹っ飛びそうだった。なんて親切なんだろう。
柊一さんが申し訳なさそうに言う。
「僕、中々起きなくてごめんね? 起きるの苦手でさ……すぐに起きて外を見てたら、僕も見れたかもしれないのになあ」
「い、いえ、仕方ないですよ。夜中に起こしてすみません」
「また遥さん一人に怖い思いさせちゃった。本当にごめんね。でも、こうなるとやっぱりこの家に集まる理由が知りたいもんだなあ。これだけの数がいるのになかなか僕の前には現れてくれないしね」
肩をすくめて彼は言った。確かに、私の前でばかり現れてる。やっぱり引き寄せやすいという説は間違ってないのかも……いや、今は考えるのをやめておこう。
暁人さんはため息をついた。
「外に出て見てみるか?」
「そうだね、一度見に行こうか。遥さん大丈夫?」
「あ、お二人が付いててくれるなら……」
「外は冷えてますから、温かくしていきましょう」
そうして三人で外へ出て確認するも、そこにはひっそりとした道路があるだけで、変な物は何一つ見つけられなかった。
戻った私たちは結局寝るしかなく、また布団に潜り込み、すっかり冴えてしまった目を無理やり閉じて、再度眠りについた。
朝が来る。
寝不足の体を何とか起こして支度すると、三石さんが簡単な朝食を準備してくれていたので、ありがたく頂いた。昨日倒れてしまったことで、弥生さんが特に心配してくれていたが、何とか笑顔を返しておいた。
夜中に人影を見てしまったことは、まだ伏せている。もう少し分かったことが増えたら、報告しようと暁人さんに提案され、私も柊一さんも同意したからだ。
朝食を取り終え、再び三人で部屋に戻った直後、柊一さんと暁人さんは話し出した。
「やっぱり、残る袴田さんの家に探りを入れに行こう」
通る声で暁人さんが言った。私と柊一さんは頷く。
「朝日野家と松本家には何も起こってないようだけど、もしかしたら袴田家は違うかもしれない。そしたら、この家との共通点が見つかる可能性もある。霊たちへの対応を考える上で、疑問点はなしにしておきたい」
「賛成だね」
「でも、どうやって探るんでしょうか……? 昨日松本さんはたまたま来てくれたけど、こっちから出向くってことですよね?」
私が不思議に思い尋ねるも、二人は特に困ってる様子はなかった。涼しい表情をして暁人さんが言う。
「そうです。不自然にならない理由を作りましょう。とりあえず、必要な物を購入してきます」
「必要なもの?」
「暁人、いってらっしゃーい」
二人は何も言わなくても通じ合っているらしい。さすが息がぴったりと言える。私はただついていくしか出来ないので、黙って事の成り行きを見守ることにした。
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