第24話 これしか出来ることがなかった

 しばらく沈黙が流れたあと、暁人さんが言った。


「俺たちは、これしか出来る仕事がなかったんです」


「え? これしか?」


「見える俺たちは異端でしたから。大人になった今でこそ、普通に生活できていますが、これまでの人生、まともじゃなかった。そんな俺たちに仕事を紹介してくれた恩人がいます。この仕事を始めて、ようやく真っ当な人間になれたんです」


 ぼんやりとした言い方に、疑問がたくさん浮かんだ。具体的にどんな人生だったんだろう、恩人ってどんな人だったんだろう。でも、きっと踏み込んでほしくないのだと感づいて、私はそれ以上訊かなかった。


 二人とも凄く優しくてかっこよくて、でもきっと私には分からない苦悩がある。そこに踏み込むほど、まだ自分は親しくない。


 またしばらく沈黙が流れた後、私は意を決して暁人さんに言った。


「あの……私がいると気を遣わせるかと思うんですが……よかったら、今後もお手伝いさせてもらえませんか」


 私が言うと、暁人さんは分かりやすく目を見開いた。予想外の言葉だったようだ。


 怖くてたまらなかったけど、西雄さんの霊が眠った時は凄く嬉しかったし、素敵なお仕事だと思った。そして何より、柊一さんが辛い目に遭うのを放ってはおけない。


 私に出来ることがあれば、手伝いたいと思う。


「……いいんですか!? あんな思いをさせたので、断られるとばかり……!」


「二人は凄く気遣ってくれて優しかったですし、西雄さんのことは感動したし、何より柊一さんを手助けしたいと思って……」


「信じられない……! ありがとうございます!」


 彼が嬉しそうに笑ったのを見て、つい胸が鳴った。どちらかというとキリっとして真面目な暁人さん、笑うと子供っぽくなるんだなあ。こりゃ凄い。


 暁人さんって優しくて気遣いも出来るし頼りになるし、本当に素敵すぎる。何気に女から一番モテるのってこういう人だよね。


 そんな余計な感情はさておき、私は頭を下げた。


「私の出番は最後しかないし、ていうか悪霊がいなかったらむしろ何もすることがないから申し訳ないんですが、今後もよろしくお願いします」


「こちらこそ! もちろん悪霊がいなかった場合も、きっちり謝礼はお支払いしますので! こんなにいい人が近くにいたなんて、信じられません。本当にありがとうございます! あいつは……能天気そうに見えて、色々自分で抱え込むし、不安定で危なっかしいやつなんです。これで少しでも苦痛を軽減させられたら」


 嬉しそうに言う暁人さんを見て、ああ、本当に大事に思っているんだなと感じた。少しの時間でも、彼らの間に凄い絆があることはわかる。


 かなり変わったお仕事だけど、出来ることは頑張ってみよう。そして、とてもいい人だと分かったこの二人を、もう少し支えられたら。






 暁人さんにアパートまで送ってもらい、彼は柊一さんと共に隣の部屋へ、そして私は自分の部屋へと戻った。


 自室へ着くと、お風呂に入る気力もなくすぐに床に倒れこんだ。夕飯は早かったからお腹が空いてるし、喉も乾いたし、お風呂にも入りたい。でも、動きたくない。


 そういえば、浄化の手伝いをした後は、こっちも疲労がやってくるんだったか、と今更思い出す。多分、いろんな場面を見てアドレナリンが出まくり、興奮状態にあったんだろう。


 一人になった途端、眠気が凄い。


 せめてメイクだけは落としたい、と思いつつも、体は鉛のように重く、ちっとも私の言うことを聞いてくれなかった。そして悲しいことに、お風呂にも入らず着替えもせず、私はそのまま寝入ってしまったのだ。




 


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