第4話

 しばらくすると香り高い紅茶が運ばれてきて、そのあと豪華な三段のティースタンドが!

 私のお財布大丈夫かしら!?


 目の前にやって来てしまったらもう開き直って美味しく頂こう。

 マナー大丈夫かしら。


「ふふ、表情がクルクル変わってて面白いね」

 ずっと観察してるのやめてほしい。


「あと、ここは僕が来たくて強引に付き合ってもらったんだから支払いは僕ね」

 キラキラなイスト卿がソフトに言ってくれて内心ホッとしちゃう小市民な私。

 イスト卿ほどは持ってないけど、それなりのお給料頂いてるけど。


「でも奢っていただく仲では・・・」

「こんな個室に誘ってワリカン?僕が恥ずかしいじゃないかい?」

 それはそうかも・・・。

「・・・お言葉に甘えます」

「そう、美しい人に甘えられて嬉しくない男なんていないんだから」


 美しい人って・・・普通の表情で何言っちゃうんだろう。


 イスト卿がサンドイッチに手をつけたので私もそろりと食べる。

 鳥のボイルに香ばしいナッツとドレッシング。自分じゃ作らないサンドイッチの味付けが楽しい。


「美味しい?」

「ふぁい・・・」


 スコーンにはバラのジャムが。

 

 飾りに添えられてるミニバラも心を華やかにしてくれる。


「魔導書を見てる時と同じ顔するんだね」

 ぐっぅ!そんなの見られてたの。


「幸せそうなのって見てるだけでこっちも心がふわっとするよね」

 それは人によるんでは?

 余裕がない時はイラつくかもだし、相手が嫌いな人だと何も思わないかも・・・。


 ん?


「ヴィネア嬢、彼のことだいぶ噂になってたけど別れたんだよね?」

 唐突に真顔になったイスト卿がぶっ込んできた。

 綺麗な空間で話したいことじゃないんですけど。

「・・・まぁ、普通に無理ですから」

 モロで見ちゃうとお付き合い続行はあり得ない。


「僕もね、親が決めた婚約者がいたんだけど、マァム夫人がまぁまぁ!って言った先に浮気相手といたんだよー、ヴィネア嬢とおんなじでびっくりしたよねぇ」

「まぁ」

 私もまぁまぁ言っちゃうことが!


「私も昔、親の決めた婚約者がいたんですがお相手がより爵位のある令嬢に見染められたとかで解消になって、王宮に仕えることにしてもう独身で良いかなと思っていたら、フレドがどうしてもってグイグイ来たので根負けしたんです。でも結局浮気されちゃったので・・・」

 自分でグイグイ来るような行動力がある男は他にもグイグイ行くんだわ・・・。

 元婚約者はお金に弱かったみたいだけど。


「ヴィネア嬢は押しに弱いんだ」

「え?」


 穏やかで優しい、胡散臭いばかりの笑顔だったイスト卿が一瞬猛禽類のような鋭い目をした気がする。


「良いこと聞いたなぁ」

「なんですか・・・」


 イスト卿の不可思議な視線は無視して、最後にクッキーとフィナンシェを頂く。


「ふふ、これもどうぞ」


 自分の分を差し出してくる。嬉しいけど太っちゃう。断らない私のバカ。


「慌てると仕損じるからゆっくりいくよ」

「何がです?」

「何かなぁ」


 最後はハーブティーを頼んでくれて、カモミールの香りにホッとする。


「君といるとなんか穏やかな自分でいられる」

「そうですか?」

 イスト卿はいつも穏やかな気がするのだけど。


 お店を出て、すぐに馬車が寄せてきて中にエスコートされる。

 由緒正しい貴族はこうなのよね。

 元婚約者は若かったし、私になんの感情も無かったから扱いが適当だった。

 フレドは騎士で忙しく、会う時はほとんど王宮の使用人棟内で、外で会う時は待ち合わせて、エスコートなんて必要ない場面だったし、気取ったお店にも行かないから。


 

 馬車から降りるとものすごい目線を集めてしまった。無駄に煌びやかで人気のある人だと言うことを思えば手前で降ろしてもらうべきだった!


 出勤退勤、休憩とさまざまな人が行き交う中、興味津々な視線とざわめきに包まれる。


「あれ?なんかいっぱい見られるねぇ」

 それは貴方が目立っているから!!

 とても居た堪れないんですが。


「ヴィネア嬢、今日は付き合ってくれてありがとう。またね」

 人に見られることに慣れてるから全く気にならないんだろうイスト卿は笑顔で馬車に乗り込んで去っていった。


 またねって何ーーーー!?


 手にはイスト卿から「お友達とどうぞ」ってお土産まで残されている。

 どこまでもスマートで私はしばしポカーンとしていた。


 仲間が気を遣ってくれた休日なのに思いもよらぬな一日になってしまった。


 レニーから借りた衣装は洗濯屋に預けて、ぼんやりしていたら、レニーが仕事を終えて戻ってきた。


「アミリ!さすがね!!おしゃれさせた甲斐があったもんだわ」

「レニー?」


 興奮したレニーがガバッと抱きついてきた。

 そういえば〈新しい出会い〉がどうとか押し切られて衣装を借りたんだった。


「モテるのは知っていたけど、宰相府の麗人とだなんて」

「モテる?」

 二回も婚約がダメになったのに。

 あ、フレドとは面倒だったから口約束だけど。


「アミリってば、最初の婚約がダメージ大き過ぎたのよね。美人で賢くて優しいって評判なのに声をかけられても笑ってスルーなんだもの」

 そんなことあったかしら?

「そんなこと言われたことないわよ」

「本人に向かって美人だ素敵だって言うのはハードル高すぎよ」

 それもそうね。

「アミリを見て頬を染めたり挙動不振になってる人いたでしょ?」

 熱いのかとかお手洗いに行きたいのかと思った人のことかしら?

「アミリってば、フレドがいたからなの!?鈍すぎない!?」


 侍女として働き始めて必死だった時は恋だの愛だの考える気力なかったし、なんとかなったと思ったらフレドにグイグイ来られたから深く考えたことがないかも?


「フレドって見せかけ爽やかだったのよね。あんなバカな浮気するなんてねー?」

 レニーは私が付き合い始めた頃、フレドのことは「マシかな」って辛口だった。ナンパっぽいのが気に入らなかったみたいだけど、私が良いなら仕方ないねって言ってた。


「確かに明るくてちょっとバカだったのが良いかなって・・・」

 大バカだったわけだけど。

「だから次はお堅い文官。最高なお相手よね!」

 今日のイスト卿との話を聞いてなぜかレニーが盛り上がっちゃってる。


 イスト卿もわりと軟派だったみたいだけど・・・。


「アミリ!!イスト伯爵はね、近寄ってくる女には氷の微笑で撃退する人なのよ。それが一緒の馬車に乗って帰ってくるなんて!!もうお付き合いしていると同義!!」


 えええぇぇぇ!


「号外が出るわよぉ~♡」

 なんで!?


 どう言うことなのか混乱してるとテーブルに置いていた箱を見つけたレニーがまた騒ぎ出す。


「これって、カフェ・ルシアンのスィーツ!?」

「ええ、お友達とどうぞって・・・」


 目が怖いわ。レニー。


「あはは!最高ね。私絶対イスト伯爵の応援をするわ!!」


 嘘ー。これってレニーのことを知っていて賄賂的な物だったのかしら!?






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