四十六話 【賭け】

 武術大会は優勝した。

 だが、最後の戦いがまだだ。

 屋敷の主人【ギラファラ・ガスパ】が残っている。

 ガスパを倒せば囚われの人達を解放出来るだろう。


 まだ傷は完全に再生されていない。

 だが、戦う事をした事がないような体型の相手だ。 負ける事は無い。 ボーナスステージみたいなもんだろう。

 軽くこづいて終わらせるか。


 闘技場コロシアムの中央でガスパが来るまで待つ。

 ガスパは酒を飲みながら、布面積が極小の女性を数人侍らせながら出てくる。

 そして闘技場コロシアム前でのっそのっそと歩いて来た。


「ではガスパ様……」

「うむ」


 無駄にギラギラ、ジャラジャラしている服の懐から金色の天秤を取り出した。


「それでは、お互い賭けの対価を天秤へお出しください」

「賭けの対価?」

 なんの事だ?


「ワシに勝てばなんでも願いを叶える褒美をやるとは言っておったが、それではワシに利益は何も無いであろう。 だから賭けの対価を所望しておるだけじゃ」

「……しかし、俺に賭けに使える物なんて何も無いぞ」

「あるじゃろう、ほれ、あそこの観戦席にいる娘はお前の仲間なんだろう?」

「仲間は賭けの品物じゃない!」

 三人を賭けの品物にするなんてとんでもない!


「ケンジ様、少しよろしいでしょうか?」

 ガスパから少し離れて執事さんに耳打ちされる。


「この賭けは恐らく大会の締めとしてガスパ様が決められた事なんです。 ガスパ様に負けると思いますか?」

 確かに負けないだろう……。 しかし皆んなを賭けの品物とするのは……。


「この賭けに勝てばこの大会も終了しますから……」


 俺は三人を見ると、三人は事前に説明をされていたようで、皆んな納得していた。


「ケンジー! 頼むわよ〜!」

「ケンジさん! 賭け事は良くないですが、今回は目を瞑ります〜!」

「ご主人様! 私の分もやっちゃって下さい!!」


 ……まあ、皆んな納得しているなら……。

 俺は賭けに乗る事にした。


「わかりました。 その賭け乗りましょう」

「では、対価を天秤に」

「ワシは奴隷十人」

 ガスパが宣言すると天秤が傾く。


「俺は……」

 皆んなをチラッと見るとエイルが手を上げている。

「俺はエイルを賭ける」

 その言葉に天秤が反対側に傾いた。


「成程成程、奴隷十人じゃ足らんと言うわけか」

 ガスパはニヤニヤと楽しそうに、後十人追加で天秤の皿が釣り合った。


「更にワシは若い奴隷を五人賭けよう」

「なっ!」

 天秤がまた傾く。


「そんなに賭けるなんて聞いてないぞ!」

 俺はガスパに抗議するも、ガスパは笑ってこう言った。

「おや? 降りるのか? ワシはそれでも構わんが、今降りたとしても、さっきの賭けは無効にはならんぞ」

「無効にならない? 力づくで返してもらうさ」

「おーひょっひょっひょっ! わかっとらん。 何もわかっとらんな! このアーティファクトである【黄金の天秤】の前で賭けを始めた時から契約は絶対となるのだ! もし契約を破ればその者は死ぬ事になるのだぞ」

「ならその天秤ごと壊してやる!」

「やめる事だな。 ほれ、見ろ!」


 ガスパは指差すと、エイルの首に光り輝く輪っかが着いている。


「この天秤を壊せばあの娘は死ぬぞ。 死なせたく無ければワシとの賭けに乗るしか無いぞい」

「くそっ!」

 まんまとやられた……、執事もグルだったか……。


 天秤を釣り合うようにしなければならないようで、俺はレアを賭けた。


「良いぞ良いぞ!」

 天秤はまた傾き、ガスパは更に奴隷を賭けたが皿は傾かない。


「やはり奴らが狙っていただけはあるな。 では残りの奴隷と娼婦を全員じゃ」

 天秤はやっと釣り合った。


「お主の仲間は後一人じゃな」

 ガスパはステーキでも食べるかのようにヨダレをじゅるりと垂らし舐めとった。


「おい! やめ━━」

「ワシは未使用の奴隷を一人賭ける」

 俺の言葉の前にガスパの宣言で天秤はまた傾く。


「何しやがる! ルルアはまだ子供だぞ!」

「だから良いのじゃ! 教えがいがありそうじゃ。 ひょーっひょっひょっ!!」

「外道め……」


 ここで賭けなくてはエイルもレアも天秤の力で殺されてしまうだろう。


「ル……ルルアを賭け……る……」

 天秤は勢いよく傾く。


「良い良い……、ワシは釣り合うまで、未使用の奴隷を賭ける」

 何人の奴隷を賭けたのか、天秤はやっと釣り合った。


「ではこれより最後の死合いを始めます! 両者壁際まで離れて下さい」


 今までに無いルールだ。

 いきなりガスパを攻撃させない為か?

 こんな距離大した事無い。

 俺の一撃で切り刻んでやる!


 お互い壁際まで離れると、試合が開始された。


 俺はガスパめがけて一直線に飛び出した。

 ガスパは何も反応出来ていない。

 天秤を握りしめているだけだ。


 殺ったとった


 俺の剣はガスパの前で何かに阻まれるように止まってしまった。


「なにっ!」

「ひょっひょっ! ワシを斬りたければあやつを倒すしか無いぞい」


 後ろを見ると、地面が人の形を取り出した。

 ストーンゴーレムか!

 石の人形だ。


 俺はストーンゴーレムを無視して何度もガスパに攻撃するが、黄金のバリアのような物で守られている。


「無駄じゃ無駄じゃ」

 ガスパは立ったまま動かない。

 ストーンゴーレムは俺をめがけて攻撃してくる。


 ストーンゴーレムは硬くて攻撃しにくいが、動きは遅い。

 勝てない相手じゃない。

 大会で戦った相手よりも弱く、あっさりと斬り刻み、ストーンゴーレムは崩れ落ちた。

 ストーンゴーレムが崩れると、ガスパを守っている黄金のバリアは消えた。


 俺はもう一度、ガスパめがけて突進し剣を振るった。

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