四十五話 【決勝戦】

 大会も遂に決勝戦。

 三人の手練れを打ち倒し、俺の前に立つのは白く短い髪を編み込んでいる少女。

 獣の耳が付いているので獣人のようだ。

 瞳は金色に輝き、手には鉤爪をはめている。

 見た感じは武道家って奴か?

 ……なんかめっちゃ睨んでない?

 試合開始がかかったが、その少女はゆっくりと歩み寄って来る。


「貴方、何故あの技を使えるのです?」

「あの技?」

「そう……、あくまでとぼけるつもりなんですね……。 わかりました、貴方を倒して聞き出します!」


 鉤爪を振るい攻撃してくるが速さも力強さも無い。

 剣で鉤爪を受け止め簡単に弾く事が出来る。

 あれ? 弱くない?

 俺が戦って来た相手の方が強かったような……?


「やりますね……、このままでは貴方を倒す事は難しそうです。 ならば、少し本気を出させて頂きます!」


 少女は間合いをとると、目を瞑り気合いを込め始めた。

 体から闘気が立ち昇り始めると手足から白と黄色の獣の体毛が生え始めた。

 髪も伸び、頬には三本のアザが浮かぶ。

 手足は獣のように変わる。

 目を見開くと石の床をへこませる力で突進してくる。

 さっきとは比べ物にならない速さだ。


「はやっ!」


 その速さで俺の剣を躱すと、鉤爪で攻撃してくる。


「さあ! 話して頂きましょうか! どうして貴方がお父様の技を使えるのですか!?」


 お父様? って事はこの少女がアームダレスのお姫様!?


「まってくれ! 俺は君を助けに来たんだ!」

「私を助けに? どう言う事ですか?」

「俺はアームダレスの王様に頼まれて君と侍女さんを助けにここまで来たんだ!」


 王様の事を話すと少女の動きが止まった。


「なるほど……、わかりました。 貴方が嘘を言っている事が!」


 更に速さを増して攻撃してくる。


「ちょ、ちょっとまってくれ! 俺は君を傷つけるつもりはないんだ!」

「それが嘘だと言っています! お父様なら私を倒して連れてこいと言います!」


 そんな事聞いてないぞ!


「もし、連れて帰りたいのなら私を倒してみなさい!」


 攻撃の手を休めず、お姫様の動きに石の床が耐えきれず、壊しながら鉤爪で攻撃してくる。

 速過ぎて剣で防ぐのが限界だ。

 どんどん傷を負っていく。

 俺も闘気を纏る。

 とにかく攻撃して、動けなくさせるしか無いって事か。

 鉤爪をどうにかしようと剣を振るうが、お姫様は腕で止めた。


「私の毛並みを甘く見ないで下さい……よっ!」


 防いだ剣を振り払うと、まさかのサマーソルトキックで俺の腹部から胸部まで切り裂かれた。


「私の爪はこの鉤爪より鋭いですよ」


 のけぞって躱したお陰で顔は無事だが、腹の傷が結構深い。 一歩下がっていなかったら腹の中身が出てたかも知れない。


「その傷では戦えないでしょう? もう降参していただけませんか?」

「……悪いが、君達を助けるまで降参するわけにはいかない」

「な……、なにを言ってるんですか!? 私より弱い人に私を助けるなんて出来ませんよ!」

「なら倒すまでだな」


 再生を待つが、再生が遅い? いつもならこの位割と直ぐに再生するはずなんだが……?

 再生も出来ていないが力一杯振るった俺の剣を、お姫様は両手の鉤爪で防ぐ。

 防がれた剣から手を離し、魔闘気を使って腹に一撃当てる。

 が、お姫様も闘気を纏っているせいなのか、あまり効いていないようだ。


「くっ……、やはりお父様の技を…………、どこで学んだのか知りませんが、この位では私は倒せませんよ!」

「そのお父様に教えてもらったんだよ!」


 お姫様は片膝をつくが、鉤爪を床に立て立ち上がる。

 

「嘘をつかないで下さい! お父様がどこの誰かもわからない人に教えるはずはありません!」

「仕方ない!」


 俺は剣を拾い、お姫様に向かって突撃する。

 鉤爪で受け止めるが、俺はタックルを仕掛けて、お姫様に馬乗りとなり、腕を押さえ付ける。


「くっ! このっ! 離しなさい!」

「負けを宣言してくれませんか?」


 押さえ付けたお姫様はバタバタと暴れ、転がりながらも寝業には慣れていないようでマウントを取り、同じように聞く。

 何度か繰り返すと、お姫様は諦め、ちょっと涙目になった。

 その涙に俺の手が緩んだ瞬間、押さえ付けていた手を振りほどき突き飛ばされた。


「よくも……、あんな辱めを……」


 涙目でプルプルと震えている。

 傷をつけずに負けを宣言させる予定が、怒らせただけだったみたいだ。

 

「許しません……、許しません! はああああーー!!」


 お姫様の白い体毛が全て黄色と変わると、俺より少し小さい位の身長だったお姫様は、俺の身長を優に超え体も大きく変わっていく。

 金色の瞳は真っ赤に変わると、獣の雄叫びと共に鋭い眼光を俺に向ける。

 鉤爪はそのサイズに合わなくなったのか、腕から外れ落ちた。


「グルルルル……」


 四肢を床に着け、ゆっくりと俺の周りを回り始め攻撃する隙を狙っているようだ。

 間合いをとると、突如凄まじい跳躍を見せ飛び掛かってくる。


「ガアアアア!」

「うおおおお!」


 さっきまでの攻撃とは全く変わり、虎やライオンが獲物を仕留めるように飛び掛かって来た。

 爪が肉に突き刺さり、鋭く尖った牙で首元に噛み付いてくる。

 噛みつきはなんとか剣で防いでいるが体重差で倒される。

 なんて力だ……。

 力に押され牙が首に突き刺さって行く。

 このままじゃ噛みちぎられる!


 剣を握っている手を片手だけ外し、魔闘気をお姫様の腹に思いっきり叩き込んだ。


「ケンジ!」

「ケンジさん!」

「ご主人様!!」


 俺とお姫様の動きが止まり、闘技場コロシアムが静かになる。


 お姫様の姿が元に戻り俺の上に倒れた。

 ほっ……、息はあるな……。

 お姫様は気絶しているだけのようだ。 あそこで魔闘気を使わなければ首を噛みちぎられていただろうな。

 俺は立ち上がり勝者となる。


「チャンピオンが決まりました! チャンピオンが望むのであれば、屋敷の主人である【ギラファラ・ガスパ】様との対決です! この戦いに勝てばガスパ様よりどんな願いでも叶えて頂けます! どうしますか?」


 この問いに、「もちろん戦います」 と答える。

 勝って侍女さんだけでなく、捕まっている人達全員の解放だ。

 レアの情報により捕まっている女性も少なく無い。


 お姫様をお姫様抱っこして会場を後にする。

 お姫様を自分の控え室に連れてベッドに寝かせておくか。 屋敷の人に連れて行かれると困るからな。

 と控え室に戻ると、アンがいた。


「なんでアンがここに?」

「……ケンジが控え室に来てくれないから……」

「そりゃ決勝戦があったからな」

「……それでその美人な獣人と決勝戦をして来たと?」

「そうだよ」


 お姫様をベッドに寝かせると、アンには「……ケンジのスケベ」 と言われる。

 なんで?


「俺はこれからこの屋敷の主人と戦わないといけない。 だから俺が戻ってくるまでこの人を守ってやってくれないか?」


「……それは命令?」

「お願いだ」

「……お願い……、わかった……、でも必ず戻ってきて……」

「もちろん。 あんな肥えた奴には負けないさ」

「……気をつけて……」


 アンは何か言いたそうだったが、お姫様を頼むと俺は屋敷の主人が待つ会場へと戻って行った。

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