二十一話 【ヴァルスケン帝都へ】

 レアを追いかけ、エルメリオン王国とヴァルスケン帝国の国境にあるデューク砦までやって来た。


「ここからヴァルスケン帝都までどの位かかるんだ?」

「ここかられふか? モグ……、山を下って半日程ですね。 ……そこから二日位でしょうか……ゴクン……」

「食べるか喋るかどちらかにしような」

「だって、お腹減って減って……、あ、すいませ〜ん!」

 店員さんを呼んでるけど、まだ食べるのかよ! 


 俺達は砦で小休憩を挟み、食堂で食事をとっている。


「食べ終わったら出発するからな」

「わかりました。 それじゃ、持ち帰り用も買って行きましょう」

「そ、そうだな……」


 持ち帰り用を待っていると、兵士の声が聞こえてくる。


「やっぱりわからないらしい……」

「でもあのサイズの魔生獣なんて聞いた事ないぜ」

「あの爪は帝国に持って行って調べるんだろ?」

「そうらしいが……、ま、俺達には関係無いけどな」

 ……何か気になるな。


「あのすいません」

「なんだ?」

 俺は気になったので、兵士に話を聞いた。


 なんでも橋の下で見た事のない鳥の様な爪が見つかったらしい。

 爪は帝国側が引き上げ帝都へ搬送予定らしい。


「エイル、その爪って……」

「そうですね。 もしかして……」

「「サラマンダーの爪!!」」

 お互い声がハモッた。

 その爪がサラマンダーの物だったらシャッテが帝国に入ったのは間違いないだろう。

 そしてレアもいるはずだ。

 俺達は急いで帝都への許可証を取って砦を抜け橋を歩く。


「結構高いな」

「あれ? ケンジって高い所苦手ですか?」

「そんな事は無いけど」

 それなりに幅がある橋なので、端に寄らなければ気にはならないが、実際橋の端から下を見ると足がすくむ高さだ。


「この橋は由緒ある橋なんですよ」

「由緒ある?」

「はい。 帝国との戦争はこの場所で終結したって言われているそうです」

「なんでこんな場所で? そう言うのって普通は城だったり宮殿だったりでやるもんじゃないか?」

「もちろん表向きはエルメリオン城で行われましたが、その前にこの橋で条約が交わされたらしいです。 この橋は唯一、どちらの国にも入らない中立だからだそうですけどね」

「エイル詳しいな」

「さっき兵士さんに自慢されました」

 知ってたわけじゃ無いのか……。


 橋を渡りきり、ヴァルスケン帝国側の砦に到着する。

 許可証を見せ砦に入る。

 エルメリオン王国側の砦の作りとは違うもんなんだな。


「よし、ここからヴァルスケン帝国だな」

「はい。 もしかしたら獣車が出ているかも知れません」

 そうか、こっちは何かあったわけじゃ無いからな。

 砦の外には二台の獣車が止まっている。


「丁度いい。 乗せてもらうか」

「う〜ん……、あれ獣車の中でも高いタイプですよ」

 高い? 確かに獣車の魔生獣がエルメリオン王国では見ない足が早そうな獣車だ。

 俺が眺めていると、兵士が話しかけてきた。


「おや? 君たちは帝都に行きたいのか?」

「ええ、そうなんです」

「そうか、ならもうすぐ竜車りゅうしゃが出ちまうから急いだ方が良い」

 竜車りゅうしゃって言うのか。 確かに竜っぽいけど。


「二台あるのにどちらも出発してしまうのですか?」

「ああ、一台は川から引き上げた爪を運ぶ為だからな」

 そう言えばヴァルスケン帝国で調べるって話しだったな。

「エイル、早く行こう」

「レアのためですからね」

 ……竜車は確かに高かった……。

 エルメリオン王国の獣車の三倍位の値段だ。

 ヴァルスケン帝都に着いたら仕事しないとな……。


 竜車のスピードは確かに早い。

 これなら帝都まで直ぐに着くだろう。


「エイル、前にヴァルスケン帝国は魔導技工士が多いって言ってたが、魔導技工士ってこの魔導法術機ガルファーを作る人が沢山いるのか?」

 俺は刀身が折れている剣を取り出した。

「そうですね。 魔導法術機ガルファーだけで無く、一般的な家庭用の物も作りますし、古代のアーティファクトにも詳しい方もいます」

 なるほど、それならこの剣も直せる人もいるかも知れないな。 それにシャッテも帝国に来たって事はサラマンダーの足を治すためかも知れない。


「この竜車なら一日程度で着くと思いますけど、レア大丈夫ですかね?」

「レアなら心配無いさ。 あんなに強いんだから」

「そう……ですよね」

 竜車に揺られながら、山を下ると前を走っていた竜車が突然道を外れて、脇道に入って行く。

 そして俺達が乗っていた竜車も急に止まる。


「なんだ? どうしたんだ?」

「すいません、前に人が……」

 窓から外を見ると、黒尽くめのローブを頭までかぶった人が数人竜車を取り囲んでいる。

 俺は急いで竜車から降りると、黒尽くめの人が話し出す。


「ここから先には行かせない」

「ここで死んでもらう」

 黒尽くめの全員が懐から短剣ダガーを取り出すと襲いかかって来た。


 俺は貰った長剣ロングソードで応戦を始める。

「なんだお前達は!?」

「言う必要は無い!」

 間合いではこちらが有利だが、素早い攻撃で数人で襲われると防戦一方となる。


「ケンジ!」

「エイル! そこから出るなよ!」

「いえ! 私も戦います!」

 エイルも戦いに参加するが、相手が手練れだ。


「ぐわっ!」

 竜車を運転していた御者の人がやられた。

 黒尽くめの奴らは俺とエイルを相手にしながら竜車も壊し始めている。

 そして多勢に無勢、これ以上はもたない……。

 一か八か……。


「エイル! こっちに!」

 エイルを呼び、手を握って引き寄せると同時に竜車に繋がれている竜に飛び乗り、手綱を握る。

「行くぞ!」

「え!?」

 荷台に繋がれているロープを切り、竜を走らせる。

 勿論、乗るなんて初めてだが良く調教されている為に、暴れたりはしない。

 黒尽くめの奴らは途中まで追いかけてきたが流石に竜の足には追いつかない為、諦めたのか撒くことが出来た。


 竜の操縦は出来ないが、竜はどうやら帝都に向かって走っているようだ。

 何かあったら帝都に戻るように調教しているのだろう。

 俺達は竜に身を任せ、ヴァルスケン帝都に到着する事が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る