二十話 【旅の仲間】
ルルアに救われたレアは朝早くにルルアの家から帝都ヴァルスケンに向けて歩き出す。
小さく俊敏な体を生かして魔生獣に合わないように向かう。
ただこの小さい体では帝都までの距離がかなりある。
「魔生獣に出会って時間を食うよりはマシですね」
ただひたすらに走っている……が……。
それ程離れていない距離で、叫び声が聞こえる。
「何かしら?」
今は厄介ごとには首を突っ込みたくは無いレアだが、流石に叫び声が聞こえてしまっては気になって仕方がない。
声の方へ向かっていると、聞いた事のある声が聞こえる。
「えいえいえーい!」
まだ幼さがあるその声は……。
「ルルア!!」
ルルアが魔生獣に襲われていた。
レアは素早く大きな猫に変身し、蟻のような魔生獣に飛びかかる。
牙で魔生獣の首に噛みつき、噛みちぎった頭を大きな猫パンチで吹っ飛ばした。
「レアさん!!」
ルルアが走ってレアに勢いよく抱きついてくる。
「大丈夫でしたか?」
「うん、レアさんありがとう」
「それにしてもルルアはなんでこんな所に……?」
「えへへ、レアさんを追っかけて来ちゃった」
ルルアは作業する時の格好で、少し大きなリュックを背負っているだけだ。
「そんな軽装備で追いかけて来たって……、まったくもう……仕方ない子ですね」
「だって帝都に行くんでしょ? お爺ちゃんもそこにいるから、丁度良いかなって思って……」
「私が来なかったら危なかったですよ」
「それなら大丈夫。 見て」
ルルアは大きなリュックをレアに見せる。
「このリュックは私の発明なんだ。 これがあれば魔生獣なんてへっちゃらよ」
ふふ~んと胸を張っているけど……。
「駄目ですよ。 この辺は魔生獣が沢山います。 危ないから帰りましょう」
「え、でも今から帰っていたら帝都に着く頃には日も暮れちゃうよ」
「仕方ありません。 ルルアが危険に巻き込まれる方が困ります」
「レアさん……、ありがとうございます。 でも私も帝都にお爺ちゃん迎えに行くって予定を立てましたし、レアさんが一緒なら大丈夫ですよ」
ルルアはグッとポーズをしている。
「ですが……」
レアがどうやって帰そうかと考えている時、茂みが揺れた。
「何かいる……」
「あ! レアさん! この【ガルムアント】は死ぬと体から仲間を呼ぶ臭いを出すんです!」
ルルアが言うのと同時に一匹のガルムアントが現れた。
「一匹なら私が……」
レアが臨戦態勢をとる。
だが、茂みから次々にガルムアントが現れ始めた。
「…………」
「レアさ~ん」
「逃げます!」
レアはルルアを咥えて背中に乗せ走る。
その後ろをガルムアントが大群でせまって来ていた。
「ルルア、しっかり捕まっていて下さい」
「うん!」
ルルアのリュックから大きなマジックハンドが出てくると、レアとルルアの体に巻き付いた。
「これなら……、行きますよ」
レアは更に速度を上げて走り、ガルムアントの群れをぶっちぎった。
「ふー……、ルルア大丈夫でしたか?」
「あはは……、ちょっと、目が回りまひた……」
ルルアは目をぐるぐるさせている。
勢いよく走りすぎましたね……。
「家の方からはだいぶ離れてしまいました。 もうこのまま帝都に向かいましょう」
「うん……、おねがひしまふぅ~……」
まだ目が回っているようだ。
「少し休憩したらゆっくり向かいます。 また魔生獣が出ると危険ですから、ルルアは私の背中に乗っていて下さいね」
「わかりまひた……」
レアとルルアは帝都ヴァルスケンを目指して歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ケンジはシャッテが向かった方向わかってるよね?」
「ああ、東に飛んで行ったようだ」
「東か……、もしかして【帝都ヴァルスケン】かも知れないです」
「帝都ヴァルスケン?」
「はい。
「物騒な国だな」
「今は皇帝が代わって落ち着いてますよ」
「それなら安心か」
用心に越したことは無いけどな。
レアが連れ去られたあの後、気を失っているエイル、重症のホンガンさんを病院に運び、皇子をマドルさんが城へ警護しながら送り、ロイさんの指揮の元、魔導獣の大群を騎士団で食い止めたそうだ。 さすがだな。
それでも南地区は戦地となったため、だいぶボロボロになってしまった。
ホンガンさんは腹に穴が開いている怪我だったのに命に別状は無いそうだ。
ホンガンさんタフだな……。
このくらいじゃ無いと騎士団の副団長はやっていられないのかも知れない。
エイルも病院で手当を受けて割と直ぐに動けるようになった。
そして城へ呼ばれ、王と皇子、騎士団長ロイ、
勿論俺が人造人間と言うのは秘密だが、何故レアが攫われたのかは理由がわからない。
ただ、俺達はレアを取り戻す為にシャッテの後を追う事になる。
帝国に入ったと思われるシャッテを追うので、装備をガル本部から折れた代わりの剣を受け取り、王都で準備を済ませ、国境を越えられるようにしてもらい、今は山道を登っている。
「……結構ありますね……」
ハァハァと息を切らしながら山道を登るエイル。
「国境にある砦に着いたら少し休憩しよう」
「いえ、大丈夫です。 早くレアを見つけないと……」
エイルはどう見てもキツそうな顔をしているが、それでもレアを助けたい一心なんだろう。
「無理はしない方がいい。 帝国方面に向かった事以外はわからないんだから。 無理をして助け出す時に力を発揮出来なかったら困るからな」
「……そうですね、砦に着いたら少し休憩しましょう」
国境にある【デューク砦】は山の中腹にある。
砦は谷を橋で繋いでおり、王国と帝国の行き来はここからじゃ無いとかなり険しい崖となっているので、普通は国境から通る事になる。
この砦で許可証を受け取らないと密入国になってしまうから、まあ普通の人ならここを通るだろう。
「…………やっと見えました……ね……」
エイルの手を引っ張ってなんとかデューク砦に辿り着いた。
王都を出る前に「助けに行くなら、体力をつけて行かないとですね! 途中でお腹空いても困りますし」 との事で、出発前にたらふく食べて来たからこうなったんだろうな……。
いつもなら獣車が出てるけど、王都が襲われたゴタゴタで獣車が出ていなかった。
たから徒歩で来た。
「やっと砦に到着だ。 エイル?」
後ろを振り向くと、エイルはうつ伏せで倒れている。
「エイル!?」
「た、大丈夫です……、ちょっとお腹が空い……いえ! 大丈夫です! 休憩してるだけです!」
「そ、そうか……」
エイルがうつ伏せで倒れている側でしゃがんで待つ。
「あ、ぁの……、手を貸してもらって良いですか?」
エイルはまるで瀕死の状態の様に手を伸ばして来た。
「……どうぞ……」
手を差し出すと、両手でがっしりと掴み、全体重をかけて起き上がって来た。
「お、お待たせしました……、い、行きましょう……」
エイルに肩を貸して、砦へと進む。
この後、山を下るけど大丈夫なのか?
心配だけが頭をよぎった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます