六話 【ピンチ】

 一日が過ぎ、ここから先は魔生獣除けの外灯は無い。

 エイルはテントを畳み鞄にしまう。

「これでよしと、さあ、行きましょう!」

 魔生獣に注意しながら整備されていない道を歩く。

 進むに連れて木々が多くなってくる。

 魔生獣にはまだ会っていない。

 この辺は比較的安全のようだ。


「そろそろ休憩にしましょう」

 朝早く出たが、そろそろ日も高くなり、お昼時ってやつだ。

 エイルのお腹もさっきから[きゅるる〜]と唸っている。


「そうだね。 休憩にしよう」

 休憩時は軽く食べる。

 長めのパンを半分に切り、バターを塗って野菜と干し肉を挟む。 サンドイッチのような物だ。

 ただエイルは色々なバリエーションを作り、リスのように頬を膨らませて頬張って食べている。

 道から少し外れた所で食事を摂っていると、前を獣車じゅうしゃが通り過ぎて行く。

 通り過ぎた獣車は人を運ぶ用の獣車のようで、速度は早い。

 この獣車ならガッドレージからニール村まで一日半位で着くらしい。

 やはり獣車に乗るべきだったのでは?


 食事も済ませたので休憩終了。

 先に進む事にした。

 木々も少なくなり、道幅が広くなってくる。


 すると、ずっと前の方から人の叫び声が響き渡る。


「なんだ!」

「ケンジも聞こえた? もしかしたらさっきの獣車が魔生獣に襲われてるのかも!?」

「急いで向かおう!」

「はい!」

 俺とエイルは声が聞こえた方に走る。


「あれか!」

 獣車が魔生獣に囲まれている。


「く、くるなー!」

 獣車を運転していた人が魔生獣と対峙している。


「エイル! 先に行く!」

 俺は走る速度を上げ、剣を持って切り込んだ。


「なんだこいつら」

 キノコに手足が生えている魔生獣が四匹程、獣車を囲んでいたのだ。

 このキノコ共の動きは遅い。

 俺一人でも対処出来そうだ。

 獣車を背に襲いかかってくるキノコを切り倒す。


「なんだ、弱いじゃ無いか」

 あっさりと一匹を倒すと、二匹、三匹と倒す。

「残り一匹!」

 最後のキノコに剣を突き刺すと、キノコの頭がボフンと破裂し、胞子が飛び散る。


「ケンジ! 息止めて!」

 エイルが布で口を抑えながら叫ぶが、目の前で胞子を飛ばされ吸い込んでしまった。


 やばい……、意識が……。

 目の前がボヤけ始め、まぶたが重くなってくる……。

 エイルが走ってくると、鞄から何か瓶を取り出してる……。


「ケンジ! これを飲んでください!」

 瓶を口に押し込まれると、何かの苦い液体が口の中に……。


「ふう〜、これでとりあえず安心ですね」

 エイルに支えられ、獣車にもたれかかる。


「もう大丈夫ですよ」

 エイルが獣車を運転していた人に声をかけるが、運転手はまだ怯えている。

「い、いや、まだ……」

 言葉が終わらない内に、エイルの足元に植物のつるが絡み付く。

 この蔓が獣車の車輪に絡みついて動けなくなっていたようだ。


「きゃあああ!!」

 獣車で死角になっている場所から花弁に尖った牙の様な物を持ち、蔓でエイルをたぐり寄せる魔生獣。


 エイルは俺に薬を飲ませる為に武器を装備していない。

 そのまま植物の魔生獣に引き寄せられて行く。


「くっ!」

 鞄からなんとか短剣ダガーを取り出し、蔓を切ろうとするが、体勢が悪く上手くいかない。

 短剣ダガーを地面に突き刺し、引き寄せられるのをなんとか止めるが、植物の魔生獣が近寄って来る。


「こうなったら小型爆弾コロボムで!」

 片手で鞄に手を伸ばすが、花弁が急に伸びて大きく開きエイルを襲う!



「間一髪!」

 ヒュっと風を切る音がすると、花弁は宙に飛び、植物の魔生獣は動きを止めた。


「二人共大丈夫だったかい?」

「マドルさん!」

 魔生獣を倒したのはマドルさんの矢だった。

「おや? ケンジ君は【ポイズンノース】の胞子にやられたのか?」

「ええ、でも解毒ポーション飲ませましたから、大丈夫だと思います」

「それなら心配はいらないね」


 俺は意識がはっきりしてきてマドルさんに気がついた。


「マドル……さん……?」

「おや? ケンジ君もう気がついたのかい?」

「ケンジ大丈夫?」

「ああ……、それよりエイルは平気か?」

「私はマドルさんが助けてくれたから」

 良かった……。


「ありがとうございます」

 獣車の運転手さんは助けてくれたお礼にと獣車に乗せてくれた。

 どうやらニール村まで手紙を運んでいたようだ。


「ケンジ君も無茶するねえ、あのキノコの魔生獣【ポイズンノース】の胞子には毒があるんだよ。 普通なら接近しては戦わない。 これから覚えて行くことだね」

「あの植物の魔生獣は?」

「あれは【カニバルプランツ】だね。 遠距離から蔓を伸ばし、獲物を絡め取り、引き寄せて捕食する魔生獣さ」

 マドルさんは軽く話すが、かなり怖いぞ。

 魔生獣を甘くみていたツケか……。


「でもケンジ君の毒の回復が随分早いね。 【ポイズンノース】の毒をあんなに近くで吸ったら一日は寝込むんだけどね」

 そうなのか? もしかして俺が人造人間だから毒の効きが悪いのかもしれない。

「あ、えーと、それは私のポーションが良く効いたからですよ!」

 エイルは俺の前に出てワタワタとマドルさんに説明をしている。

 そうか、俺が人造人間ってバレないようにしてるのか。

 でも逆に怪しいぞ。


「ま、いいさ。 さて、僕の仕事は終わったからそろそろガッドレージに戻ろうかな」

「仕事?」

「そう言えばなんであそこに?」

 俺もエイルも不思議に思っていた。

 まさか心配で着いてきた……なんて事は無さそうだし。


「僕は討伐の依頼を受けてね。 最近【カニバルプランツ】が増えているって事で討伐していたら、君達を発見したってわけさ」


 成程……、ん? まてよ……?


「あの、もしかして、俺達が戦う所を初めから見てました?」

「ん? 何故だい?」

「俺が【ポイズンノース】から毒を受けていた事を知っていたようだし、エイルを助けたタイミングが良過ぎませんか?」

「……はっはっは……、バレたか。 ケンジ君良く気がついたね。 その洞察力は【ガル】にとって大事だよ」

「え! マドルさん私が襲われてるの見てたんですか!?」

「ま、君達がどう戦うのか、どう運転手や獣車を守るのかを見たかったからね」

「ひっど〜い! 私死にそうだったんですけど!!」

「これも勉強さ。 それじゃ、ニール村での依頼頑張ってね」

 マドルさんは獣車からヒラリと飛び降りると、手を振って見送ってくれる。


「まったくもう……」

 エイルは頬を膨らませている。

「まあ、俺の勉強不足が原因だから、マドルさんには助けてもらったんだし」

「そうですけど……、もう少し良い助け方あったんじゃ無いですかね?」

「恐らく、ギリギリまで手を出さないつもりだったんだと思う。 せっかく二人いるんだし、これからは連携をとっていこう」

「そうですね。 次はマドルさんの助けなんて要らない所を見せましょう!」

「そのいきだ」


 獣車でニール村までは後半日程。

 今回のような事にならない様に気合を入れていかないとな。


 獣車の中で食事を済ませる。

 エイルは運転手にも食事を分けていた。

 食いしん坊だけどこう言う所がエイルのいい所だよな。


 獣車の中で一眠りすると、翌朝にはニール村へ到着した。

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