ここらで一息入れましょう

 すると、ドルチェットが話に加わってきた。


「うちにも居たぞ。お抱えドワーフ」

「そうなの?」

「ああ、これとかドワーフのお手製だしな」


 そう言ってドルチェットは背負っている自分の大剣を親指で示した。


「つーか、人間界で出回っている武具の半分はドワーフ製じゃね?」


 ドルチェットの言葉に俺は心底驚いた。まさかそんなに市場がでかいとは思わなかったからだ。


「思ったよりも身近にいるんだな、ドワーフ」


 同じ物作り職人としてドワーフに親近感が沸いた俺であった。

 というか、先ほどグラーイをガン見していた馬車の預かり屋ももしかしてドワーフだったのだろうか。そう思いながら、門を振り返った。





 宿を取った。

 女部屋と男部屋の二つだ。

 部屋に入ると見慣れた寝具が並んでいて、思わず俺は駆け寄った。


「ベッド久々だなー。寝れるかな」


 それにクレイは呆れた顔をする。


「揺れる馬車で寝れるんだ。大丈夫だろ」

「そりゃそうか」


 それでは飯屋を探しに行こうかという流れになった時、バタンと扉が空いて男部屋にドルチェットとアスティベラードがやってきた。後ろには申し訳なさそうなノクターンが着いてきている。

 なんだろうとドルチェット達を見ると、嬉しそうな顔でドルチェットとアスティベラードが話し出す。


「よお!聞いたか!?ここの近くに風呂屋あるってさ!」

「しかも大浴場と聞いたぞ!」


 二人の言葉に後ろでノクターンが珍しく多めに頷いている。

 何事かと思ったら風呂かとディラが思わずクレイに視線を向ければ、女性人から『ご飯の前に風呂に行かせろ』と強い圧が掛かってきた。


 確かに馬車生活でも飛行船生活でもお風呂には入れなかった。俺の持っている魔道具の水源筒のお陰で水には苦労せず、髪の毛も流せたし布で体も拭けはしたけど、それはそれこれはこれ。

 やはりきちんと暖かい水、いやお湯でしっかり流したいものだ。

 さっぱりした後に食べるご飯はさぞ美味しいだろう。


「俺も風呂屋行きたい」


 俺もとアスティベラードの意見に便乗すると、クレイが「分かった」と快く承諾した。


「先に風呂屋にいこう。食べるもんはそれからだ!」





 久しぶりにさっぱりした気持ちになった。

 そのうちマーリンガンにシャワーだかお湯だかを出せる魔道具の作り方を教えて貰っても良いかもしれない。

 火照る体を冷ますために空いている長椅子にクレイと二人で並んで座っていると、足音が近付いてきた。

 

「クレイさん!ディラさん!こんなのありましたよ!」

 

 一足先にお風呂を上がっていたジルハが、手にコップを持ってやってきた。

 鉄のコップだ。それが三つ。

 

「何それ」と俺が訊き、「高かったんじゃないか?」とクレイが言えばジルハは、いえいえと否定した。

 

「実はそれほどでもなかったです。彼処の屋台で売ってました。それよりも見てくださいよこれ、氷入ってるんですよ。しかも結構な量」

 

 見せられたコップには氷がこんもり。

 それを見て俺とクレイは驚きに声を上げた。

 何の変哲もない氷だが、二人が驚いたのには訳がある。実はこの世界では氷を手に入れるのは大変なのだ。氷室があれば手に入るけれど、それ意外だと魔法使いや魔道具が作るので割高になっている。だからこんなに氷が入れられたお水は本当に久しぶりだった。

 

「はいどうぞ」

 

 差し出されたコップを「ありがとう」と御礼を言いながら受け取った。

 カラカラと氷を揺らして音を楽しむ。相変わらずこの世界は気温は低いけれど、お風呂上がりは冷たいものをがぶ飲みしたいものだ。

 三人同じタイミングでコップを傾けた。

 口から喉へと冷たい水が滑り落ちていく。

 何の味もしない水の筈なのに、冷たいだけでとても美味しく感じた。

 

「あー~~、うっまー!!」

 

 俺が思わずそう感想を漏らすと、後ろから声が降ってきた。

 

「何を美味しそうに飲んどるのだ」

「あ、アスティベラード」

 

 いつの間にか風呂から上がってきていた女性組三人が長椅子の後ろにやって来ていた。

 ドルチェットがスタスタと素早くジルハの元へと近付いて、コップを持つ手を掴む。そしてそのまま水の取り合いに発展した。

 

「自分にも一口のーまーせーろーよー!」

「自分で買ってよー!」

 

 子供の喧嘩のような二人に「こらこらそこ二人喧嘩しない」とクレイが仲裁に入った。なんだか兄弟みたいだなと思いながら、コップの中の小さな氷を口に含んで噛み砕く。

 その後無事アスティベラード達もお水を買って美味しく飲んでいた。

 

 氷を作れる魔道具が作れるかマーリンガンに訊いてみるとしよう。

 

 

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