無事復活できました
「うーん。落ちたときに打ったね。痛そうな打ち方。上から降ってきた人に弾かれてだから勢い凄いし」
どんな打ち方したんだろう。
「おっと、その前に結構ショックなことあったみたいだよ?お友達かなー?絶望のような顔してるね。二人とも」
何があった。
「…君盗賊団だったの?へー、意外だなー。刺青痛そう」
まじか。俺悪者だったの?てか、刺青とは?
次から次に出てくる衝撃的な言葉にディラは心の中での突っ込みが止まらない。
その内マーリンガンが「はて?」と言いたげな顔をし始めた。
「んん?これは、どういうことかな?」
マーリンガンが目を開けてディラを見る。
「聞きたい?」
「聞かせてくださいよ」
今さら何を言われてももう驚かないぞ。
そんな気持ちで次の言葉を待ってると予想外の言葉が降ってきた。
「君別の世界から来たっぽいよ。勇者召喚の巻き添えで」
「へぇ、別の世界から。そうなんすかー」
あまりにも予想外過ぎる言葉に嘘っぽく聞こえてしまった。
本当だとしてもどういう反応したらいいか分からない。
しかしマーリンガンは思った反応と違ったようで、おや?と不思議そうにする。
「思ったよりも反応薄いね」
「実感ないんですもん」
無いものは客観的にしか感じられない。
マーリンガンは残念そうな顔をしているが、あえてリアクションしてやる義理もない。
「こんなもんかな。どうするかい?君、結構ショックなことあったらしいけど思い出す?」
「拒否したらどうなるんですか?」
「多分もう思い出せないよ。毒が回ってそれでおかしくなっているみたいだから」
「えええー」
どうしよう。別に今のままでもとりわけ不自由してないけど。
でもせっかくだしな。
貰えるものは貰っておこう精神に天秤が傾く。
「治してください」
「わかった。じゃあ力を抜いて」
言われた通りに力を抜くと、頭の中のノイズが取り除かれていく。
ああ、なるほど。
すべてのピースが填まったように、すべて納得した。
「俺は小野寺朝陽か。なんで盗賊団の時の名前は覚えているんだよ。短期間だったのに」
「怒られまくってたからじゃない?記憶って恐怖体験の時のが強く刻まれるっていうし」
「なるほど、一理ある」
どうりで思い出すときに怒鳴り声ぎみで名前呼ばれてたんだな。納得納得。
得るものは得た。
思わぬ収穫でホクホクとした俺はよいしょと立ち上がった。
何か目的を見失っている気がしないでもないけど、まあいいかと思うほどに。
「じゃあ、お会計かな。記憶再生の」
有料だった。
まぁ、そうか。無料なわけがない。
でも有益だったのには変わらないからお支払をして帰りましょうかとポケットをまさぐり、その途中で重要なことに気が付いた。
「…あ、待ってください…」
「ん?」
しまった。もっと早くに気が付くべきだった。
つい癖で出掛ける際ポケットに入れている財布を取り出そうとして、この世界に来るときに鞄に入れっぱなしだったことを思い出した。
なお、その鞄は持ってこられていない。
「ごめんなさい俺今一文無しなんです」
するとマーリンガンは、覗いた俺の記憶を思い出したようで、「うわ、そうだった」と驚いていた。
「じゃあどうしよう。……あ!」
考えている最中、マーリンガンが案を思い付いたように声を上げ、俺に向かってにんまりと笑う。
その顔が何故か怖くてやや引いた。
「君、向こうで内職で硝子玉と針金でアクセサリー作ってたよね」
「そこまで記憶見たんですか。完全趣味でしたけどやってましたよ」
推しに合う色で合わせたりと、針金細工とか結構上手いと自負している。
「実はボク少しスランプ気味でね、良ければ手伝ってくれないかい?それでお金はチャラという感じでさ」
言いながらマーリンガンが部屋に飾られている数々の装飾品を示した。
それで察した。
それなら出来るし願ったり叶ったりである。
というよりも、はじめからそれを目的で来たんだったと頷いた。
「元々そのつもりだったんで良いですよ」
「よし、決まりだね。じゃあ明日の朝から来てくれないか?はい、これ持ってれば辿り着けるから」
マーリンガンに工房のオッサンに渡されたのと違うデザインの物を渡された。
鳥みたいな綺麗なアクセサリーだ。
「了解であります」
こうして棚ぼた的に記憶が甦らせることができ、さらには職場まで手に入れたのであった。
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