マーリンガン


 迷いの森の周囲を歩いて、『道、道』呟きながら道を探すけど。


「…道?」


 道らしきものが一切見つけられなかった。

 通常の道はおろか、獣道すらない。

 仕方がないので一旦工房に戻る事にした。

 予想外に早く戻ってきたからオッサンに忘れ物か?と訊ねられたが、正直に道が無かったと説明したら「は?」と言われた。


「道がない?」

「見当たりませんで」


 重度の方向音痴かと誤解されたが、仕方がないとオッサン一緒に来てくれた。

 この村の人みんな優しい。


「なんだよ、あるじゃないか」

「なんでじゃ」


 さっきそこに無かったじゃないか。

 見落としたかと思ったけど、多分違う気がする。うん、恐らく無かった。

 ……現在進行形で記憶消えているので自分の記憶に自信が持てないのが辛い。

 オッサンが俺が見落としていただけだと結論付けた。

 一応小屋の場所を確認するまで入り口で待っていてくれるらしい。

 優しい。


「じゃあ気をつけてな」

「はーい」


 オッサンに見送られ、見つけた道をずっと行く。


 すると何故か途中で道がなくなっていた。清々しいほどのぶつ切り。いや、袋小路。

 子供でも出来ることを俺はできない。と。

 悩んだ結果道の端に立った。

 ここで引き返すのも何か負けた気がしたからである。


 どうしようもなかったので、道がないなら道以外をいけばいいじゃないという、迷子まっしぐらな名案が降って沸いた。

 というかもうそれしか選択肢がない。


「……えいや」


 ということで道以外の場所に一歩踏み出した。


「おや早かったな」


 だけなのに、一瞬にして森の入り口に戻された。

 森の入り口に待機していたオッサンが目の前にいるのがその証拠。


「俺この森に嫌われてんのかな?」

「どうした。いきなり」

「道がなくなってた」

「はぁー?」


 んなわけねぇだろ、と言いたげな顔をしたオッサンが、何かを思い出したように「……あ」と変な声を出すと、おもむろに自分のズボンのポケットをまさぐりだした。


「?」


 なんだろうと黙って待っていると、オッサンが何かをポケットから取り出した。


「これ持っとけ」

「何これ」


 細かい細工のアクセサリーだ。

 木と石が融合した面白い宝石が、細い銀の細工の中に閉じ込められている。


「これは村人の証のようなもんだ。いいからこれもって進みな」

「わかった」


 オッサンに渡されたアクセサリーを手に森を進む。

 正直こんなもんで何が変わるのかと、そう思いつつもう一度道をいくと、今度はずっと道が続き。


「マジか」


 ようやく小さな小屋へと辿り着いたのだった。






 早速小屋へと歩を進めていたが、その直前、不思議な視線を感じた気がして足を止めた。

 小屋の方でなく、何故家の周りの森の方向へと視線を向けるが、別段そこに何があるわけでもない。なのになんか視線みたいなの感じる。


「鹿とかかな?」


 森なら鹿の一頭や二頭はいそう。

 でなければウサギだ。じゃなかったら怖い。


「まぁ、いいや。とりあえずはこっちだ」


 先に用事を済ませようと無視することにした。

 看板とかは見当たらない。

 小屋自体は素朴で、木造作りのこじんまりとした感じだった。

 話によると、ここに家主が一人で住んでいるとか。

 扉に付いたドアノッカーで扉を打ち付けながら「こんにちわー」と声を掛けた。

 するとすぐに返事が返ってきた。

 若い男性の声だ。


「開いてるよー」


 入っていいのか。


「じゃあお邪魔しまーす!」


 扉を開けると、お花畑の中にいるような香りに包まれた。

 次いで部屋の中にキラキラのアクセサリーやらなんやらの装飾品が溢れ返っているのを見て、思わずテンションが上がる。


「おおおー!めっちゃキラキラしてるー!」


 そんな部屋の中で、青銀の髪の人がゆったりとした椅子に腰掛けコーヒーを飲んでいた。

 幻想的な人で、一瞬女の人かと思ったんだけど。


「あれ?知らない人だね?でもここに来ることができたってことは村の人間ってことだよね」


 女性のような見た目して声が男だった。

 ギャップ凄い。萌えないけど。

 俺はおばあちゃんの教え通りにお辞儀をして挨拶をする。


「つい最近住み着きました。ディラです」


 大切なのは第一印象、ということで元気よく自己紹介。

 すると、青銀さんは俺を何かを値踏みするように見た。

 瞳が綺麗な緑色で若葉みたいだなと思ってると、指を口許に宛てた青銀さんが「ふーん」とつまらなさそうにする。


「真名隠しか、でも魔術師ではなさそうだね」

「え!?」

「え?」


 真名隠し?なにそれ!?本当の名前じゃないって事!?

 青銀さんの言葉に軽くパニックを起こし、焦りながら質問した。


「あのあのあの、俺の名前はディラではないんですか?」

「え?んん?どういうこと?」


 青銀さんは予想外の反応だったのか頭をこてんと傾けた。

 その反応を見るに、おちょくりとかではなくて、本当の事のようだ。

 思わず天を仰いだ。


「………自分の名前すら忘れるおっちょこちょいでした」

「落ち込まないで、事情はきくからさ」


 一通り事情を説明しつつ、未だに名前すら知らない青銀さんに自己紹介をしてもらった。

 この人の名前はマーリンガン、こんな美少女のような見た目して87歳のおじいさんだった。

 詐欺じゃん。


「つまるところ記憶喪失と」

「頭打ったらしいですからねー」


 うっすらとだけどおでこに傷が残ってしまった場所をさする。

 ここを思い切り強打したらしく、おばあちゃん曰く割れていたとか言っていた。


「ふむ。記憶を治すために少し頭の中を見させてもらうよ。良いかい?」

「どーぞどーぞ」


 とんだ棚ぼたな提案によろしくお願いしますと頭を差し出すと、マーリンガンに遠慮無く鷲掴みされた。

 そんな掴み方ある…?

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