最悪の再会

 重い剣でも肩に乗せてしまえば重くないなと思いながら言われた場所へと到着すると、そこには既にガムキー先輩が待機していた。


「ガムキー先輩もいるんですか」


 てっきり一人かと思った、ムキムキ先輩ことガムキー先輩も一緒だった。


「お前一人に任せてたら二次災害出るかも知れないだろーが」

「先輩方の新人思いに俺涙出そうです」


 圧倒的な信頼度0に泣きそうになったけれど、色々やらかしているから否定はできない。


 また違う音が響く。

 先ほどのものよりもずいぶん高く聞こえたのは気のせいだろうか。


「あれもしかして獲物接近の合図ですか?」

「なんだ、それを理解できる頭はあんだな」

「おかげさまで」


 さすがにこれすらも理解出来なかったら高校生になれてないと思う。

 といってもガムキー先輩に言っても理解されないだろうけれど。


「あれは距離毎に配置している。500mと、今のは50mだな。それ、そろそろ始まるぞ」


 馬のいななきと共に轟音が鳴り響く。

 それと共に怒声や悲鳴も聞こえてきた。

 たったそれだけで俺はようやく人を襲っているのだと嫌でも理解でき、緊張する。


「こりゃー、俺たちの出番かもな。構えろディラ!」

「へーい」


 といってもまずは自分の命が優先順位。ごめんなさいと謝りながら先輩の指示通りに構えた。

 しかし構えはしたが、だいたいガムキー先輩一人で終わりそうだな。

 適当に振り回しているか。早速サボる気満々だった所へ足音が近付いてきた。

 多いな。これ二人でいけるか?そう思ったけれど、ガムキー先輩の丸太のような腕を見て思う。

 一人で平気かもしれない。俺は応援でもしてよう。

 場所から逃げてきた人達の前へとガムキー先輩が飛び出した。


「止まりやがれ!!」


 ガムキー先輩が剣を振り回し威圧する。

 その瞬間、俺はあるものを見てしまった。

 今もっとも見たくなかったものだ。


「朝陽?」


 勇者姿の功太だった。

 多分、勇者姿をなのだろう。

 環境が最低劣悪な盗賊団しか比較対象がないけれど、それでも功太の成りは勇者といわれてすぐに腑に落ちるものだったから。

 そんな勇者功太の目に自分はどう写っているんだろうな。

 功太が俺、小野寺朝陽と確証が持てたらしく、さっきよりも大きな声で名前を呼ぶ。


「こう「勇者様お下がりください!!」


 いや、呼ぼうとした。

 その最中に功太の前方に仲間らしき二人が飛び出してきて言葉を遮った。

 一人は恐らくソルジャーで、ガムキー先輩に負けないくらいの大男。

 もう一人の女性はなんだ?武器がわからん。

 その大男の方が背中の剣を抜き、視線をガムキー先輩へと向ける。


「うるあああ!!」


 あ、と思う間もなく大男は大剣を振りかざし、ガムキー先輩へと襲い掛かった。

 ガツンと剣同士がぶつかって火花を上げる光景をアワアワとしながら見ていると、再び功太が声を掛けてくる。


「朝陽お前も来てたのか!!よか「下がれ盗賊風情が!!」

「ルカ!?」


 ルカと呼ばれた女の腕から何かが放たれた。

 放たれた、というのは分かったけれど、あまりにも早くて避けることすら出来ずに、勢い良く突き刺さった。


「う”っ!?」


 初めは衝撃だけだったのだが、じわじわと嫌な痛みが広がっていく。

 なんなんだと見てみれば、クナイのような短剣が三本突き刺さっていた。

 左肩と右上腕と右太股から激痛が広がって脂汗が滲み出てくる。

 なんだこの人。アサシンか何か?

 とするなら…。と、考えたくもない可能性が浮上してきた。

 ぐわんと回転バット直後の様な目眩に襲われる。


「うわ、やっぱり…」


 酷い目眩が始まった。

 毒が塗られていたのか、さっきまで回転バットレベルだったものが今では酷い船酔いレベルへと悪化していた。

 これヤバイんじゃない?


 変に息が上がっていく俺に向かって大男と剣の打ち合いをしているガムキー先輩が叫んだ。

 剣はかなり刃溢れしており、今にも折られそうだ。


「ディラ走れ!!逃げるんだ!!くそっ、勇者が乗っているなんて情報無かったぞ!!」


 すみません。

 先輩、無理ですこれ。

 もはや立っているのがやっとで、一歩でも動けば倒れて失神しそうな感じ。


「ルカ!!僕の友達に何するんだ!!」

「友達?でもあの人盗賊ですよ??見てくださいあの剣で私たちを襲う気ですよ??見たじゃないですか!護衛の方が無惨に切り殺されたのですよ!!」

「でも、あいつは…」


 そこでようやく功太が俺の剣に気付いたらしい。

 違うぞ功太。これ、模造剣なんだ。

 だけどあまりにも気持ち悪くて立っているのがやっとで弁解できない。


「本当なのか?朝陽…」


 ちがうちがうちがうちがうちがうちがう。

 首を横に振って俺はまだなにもしていないと意思表示をしようとした時、向こうの方で馬車が突然爆発し、たくさんの悲鳴が上がった。


「退けえええええ!!!」

「ぬおおおおお!!?」


 それが隙になったらしい。

 遂に剣が折られたガムキー先輩が体当たりによって俺の方へと吹っ飛んできた。なんでこっち!?


「うわあああ!!!!」

「げっふぅ!?」


 当然俺のような貧相がガムキー先輩のようなムキムキを受け止められるはずもなく。

 二人仲良く崖を落下し、下の川へとダイブした。



 その時の衝撃で意識が飛んだんだけど、なんとなく功太が俺のこと大声で呼んでた気がする、…いや、気のせいだったかな?

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