馬車を襲いましょう
「許可書を提出してください。はい。どうぞ」
絶対こいつら門番に賄賂渡しているよってくらいスムーズに門を通過できた。
良いのか?大盗賊団だぞ?それとも癒着しているんですか?そんなことを密かに思ったが、政治あるあると俺は無理やり納得してしまった。
「まぁ、でもファンタジーあるあるか」
ファンタジーだけでなく、現実でもあるあるだけれど。
「見た目だけならブリテニアスオンラインなんだけどなぁ」
違いはステータスウィンドウが無いところとか、盗賊団に入団できてしまった点か。
本来ならば視界の右下辺りにアイコンが並んでいるはず。今は現実だからないけれど、もしあったら自分のステータスとやらを拝見してみたいものである。
いや、ゲームと違う生身ならクソステータスの可能性のが高い。やっぱりステータス見なくていいや。
「けっきょく功太に会えなかったけどちゃんと勇者出来てるんかな、アイツ」
いささか心配。
一月も外に出られなかったから教会に行くことも出来なかった。行っても多分追い掛け回されるんだけど。
前回はうまく逃げられたけれど、次は逃げれるか分からないし、もし捕まったらとか考えたくもない。
荷台のヘリに思い切り寄り掛かりながら勇者として祭り上げられた親友を思う。
「でもアイツはコミュ力高いから大丈夫か」
ここでも上手くやるだろう。なにせ職業勇者だ。
少なくとも職業盗賊団の俺よりはましだろうさ。
「そろそろ着くぞ。ディラ、お前は逃げ道を塞ぐ役だ。後で模造剣を渡すから、お前は振り回さずにソレを構えて立ってろ。もしくはなんとかして通さないように立ち回れ。足が早いなら得意だろ?いいか?怒られたくなかったら余計なことすんなよ?」
「へーい」
きっとボスに俺が動くと二次災害に繋がると言われているんだろう。
遂にカカシにまで落ちたか。笑う。
でも模造剣を構えて立ってるだけなら怪我もしなさそうだし、気が楽だ。
そう俺は思うことにした。気楽な仕事だ。
辿り着いたところはとある峡谷。
片側は絶壁で、もう片側は崖となっている。遥か下からは水の音が聞こえるから川なようだ。
そんな峡谷はくねくねと蛇行しており、先輩曰く“狩り”にはちょうど良いところなのだそう。
今後の人生で使えない知識がまた一つ増えた。
そんな峡谷の少し開けたところで止まり、先輩の指示で武器やら何やらを下ろす。
腕が痺れた。
痺れを取るために腕を振っていたら、先輩の中でも特にがたいのよい先輩が剣を持ってやってきた。
「ほらよ」と言いながら先輩はその剣を投げて寄越した。
慌てて受け取ったけれど、予想以上に重くて取りこぼしかける。
そんな俺を見て先輩は悪人に似合わない心配そうな顔をした。
「おいおい、そんくらいで体勢崩すなよ。どんだけ筋肉無いんだよ」
「そういう先輩は超ムキムキっすね。ムキムキ先輩」
「ガムキーだ」
ガムキー先輩と言うらしい。
「ボスからの命令でお前はその模造剣振り回しとけ」
「うい」
模造剣を手に入れた。
テッテロテーという謎の効果音が脳内に流れる。
別に某青猫の影響とかではない。
…影響かもしれないけど。
ギリギリ片手で振れるか振れないか。
多分片手だと振った後すっぽ抜けそうな感じなので両手で持つ。
模造剣と言いながらも刃のところも結構しっかりしているし、これ普通の剣じゃないとかと思ったら刃の部分が研がれてなかった。
なるほど、研がれてなければこれは鉄の板である。
「これ斬れないんですか?」
「一応な」
「へー」
どんだけ斬れないんだろうと、試したい欲求がむくむくと沸き上がり、近くに生えている木を見つけた。
あそこの木で試し切りするかと、木に向かってフルスイング。
「斬れねぇっつっても鉄の塊だから、むやみに振り回すんじゃ──」
木に刺さった。抜けない。
何でやねん。刺さらないゆうたやろが。
と心の中で突っ込みを入れながら必死に引っ張ってみるがびくともしない。
「──ねえって言ってんだろ!!あーあーあー、もうどけお前。しっしっ!あそこで作戦でも聞いとけ!」
「へーい」
ガムキー輩に追い出されてしまった。
仕方ない。自分の力じゃ抜けなかったんだと、ガムキー先輩の指示通り作戦会議しているらしい所へとやって来た。
入団して意外と思ったのは、盗賊団でもミーティングをすること。
本当に意外だった。なんにも考えずに突撃するのかと思ってたよ。
よっこいしょと俺が空いている所にしゃがみこむと、先輩方が微妙に隙間を広げてくれた。
悪人のくせして気遣いの塊。
「来たか新入り。…お前武器どうした。まだ貰ってないのか?」
「試し切りしたら木から抜けなくなったので、今ムキムキ先輩に抜いてもらってます」
正直に話したら先輩方が一斉に呆れ返った。
「お前本当にどうしようもないアホだな」
「つーか、よくそんなんで生き残ってられたもんだ」
「環境に感謝しろよ」
まさか盗賊団の皆さんに『環境に感謝しろよ』なんて言葉が出てくるとは。
「確かにめっちゃ平和でした」
「お前みたいなのたくさんいそうだもんな。どんなカモだらけのところだよ」
「ははっ、ちげーねえ」
鴨というよりいるのは鳩でしたがね。平和の鳩。
ああ、違うカモか。鴨ネギの方か。
「着いてきな、ディラ」
作戦会議も終わり、ぞろぞろ皆で移動していく。
そろそろこの怖い顔には慣れたけてきたけど、やっぱり囲まれたら威圧感やばい。
着いた場所は更に危ない所だった。
片方は崖で、もう片方は川の流れている谷なのは変わらないが、異様に道幅が狭くなっているし道自体も小石があちこちに転がっていて、いかにも落石注意と看板が必要な道だ。
見上げると今にも落ちそうな石がある。雨とか振ったら余裕で落ちてきそう。
「この道はゆっくりカーブしてて先が見にくい。そこで俺たちがこの道の上から石や矢を降らして馬車を停止させる」
そんな超危険な道のど真ん中で指差し確認のように教えてくる。
「で、前は矢とか石で馬車がスムーズに動けなくなっているから、後ろからソンゴ達が武器持って脅しに掛かる。
簡単なのはこれで済むが、護衛を雇っていれば、護衛がソンゴ達を引き留めている間に依頼人を前方に逃がすだろう。そこでお前の登場だ」
なんとなく分かったぞ。
良かった。変な役割押し付けられて失敗でもしたら大変なことになるところだったけど、少し安心した。
「一般人が、馬車襲われてパニックになっているところに、お前みたいなヒョロヒョロでもカーブ先で剣を持って立っていろ?怖さで立ち止まるだろ?」
「そうですね」
実際自分がやられたら止まっちゃうだろう。
「そうして引き留めてる間に上の俺たちが合流して金巻き上げて終了って訳だ。
なーに、抵抗しなきゃ命は取らない。優しいねえ」
ゲラゲラゲラゲラと笑う皆さん。
うーん。感覚が違う。
でも殴られたくないから笑っちゃう。
その時、鳥みたいな鋭い音が鳴り響いた。
「何の音?何かの鳴き声?」
「合図のタカ笛だ。仕事に掛かるぞ」
「ほら、ディラ。もう木に向かって振るんじゃないぞ」
「あ、ありがとうございます」
ガムキー先輩が抜いてくれた模造剣を持ってきてくれた。
めっちゃいい人だな。
というかこの職場いい人ばっかりだ。
今度は頑張れるかもしれないと、俺は剣を素振りしたらガムキー先輩に拳骨を落とされた。
そんな俺を放って置いて、みんなできる職人のように配置についていく。
「さーて、俺も行きますか」
気は乗らないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます