彼女に振られたあと「困ったときはいつでも相談にのるよ」と送ったらめっちゃ連絡が来た

荒三水

第1話

 天野直希(あまのなおき)は自らを陰キャと言って憚らない。

 

 ただ一般的に言われる陰キャ像と異なるのは、恋人……いわゆる彼女と定義するような相手がいたことだ。


 けれど振られた。付き合い始めてから一ヶ月ともたなかった。

 高校一年の終わり間際のことだった。


「あ、あの、その……か、彼女ってなると、思ってたのと違ったっていうか、あ! ち、違くはないけど、なんていうかその……」


 学校からの帰り道、急に別れを告げられた。そのときの彼女のセリフをそのまま書き記すと、こんな感じだ。

 噛みまくりのどもりまくりで、なにが言いたいのかよくわからなかった。


「と、と、友達みたいな感じに! い、一回、も、戻ったほうがいいかなって!」


 要約すると、やっぱりこの人思ってたのと違うから別れたい、ということを彼女なりにオブラートに包んで言ったのだろう。

 友達に戻りたい、的なニュアンスもあった。しかし友達だった期間なんてないに等しい。 


(う〜ん、これはどうしたもんかね……)

 

 突然のことに直希はリアクションに困った。

 

 恋人ができたこともなければ、もちろん振られた経験もない。悔しいとか悲しいという感情はなく、ただただ困惑していた。


 付き合っているといっても、彼女とはたまに一緒に下校する、ぐらいのことしかしていない。寄り道もせず、途中で別れる。


 もしやなにか気に障ることをしてしまったか、と疑ったが、思い当たるフシはない。むしろ何もしなかったのがよくなかったか。


 彼女の真意はどうあれ別れたい、という意思があるのに違いはない。彼氏彼女の関係を解消したいと。


 告白してきたのは彼女で、別れを切り出したのも彼女だ。

 最初からなにもしていないに等しい直希には、反対するようなことを言う権利はないと思った。

  

「あ、はい。わかりました」

   

 困惑しつつもその場はそれだけ返して、帰路についた。

 しかし帰宅後、


(いや、さすがにこれで終わりはまずいよな……?)

 

 いくら勝手がわからないとはいえこの応対はどうかと思い、ネットで調べてみることにした。

 するとどうやら振られたあとの対応としては、「別れたけど困ったことがあれば相談にのる、お互い頑張ろう」というスタンスが主流らしい。

 そこで、 


『困ったことがあったら相談とか全然のるから。これからもお互い頑張ろう』


 というふうに彼女にメッセージを送った。

 こうして直希は彼女のいる陰キャからただの陰キャに逆戻りした。名実ともに陰キャの烙印を押されたともいえる。 


 そしてこれまでどおりの、いや今まで以上に陰キャな日常がもどってくるのだと思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る