オヤシロ様に匿われてます。~あやかし神社で囲むほっこりあったか日常ごはん~
野田藤
プロローグ
……寒い。冷たい。痛い。疲れた。
「この俺に逆らうのか!そんな教育はしてないっ!」
夫のヒステリックな叫びと共に割れる皿や倒れる椅子、机。
床には作っておいた晩御飯だったもの達。
今では無惨にも夫に踏まれてぐちゃぐちゃになっている、食べられなかった、ごはん。
夫はなおも叫び続けているが、私にはそれが遠くの出来事としてしか感じられなくて。
心身共に、限界だった。
投げ散らかされた皿の破片が顔に当たって血が滴った。それを見て夫は怯んだが、破壊行為は辞めない。多分、自分を大きく見せたいだけのパフォーマンスだ。
……こんなひとじゃなかったのに、どうして?
「もう、お前の顔なんか見たくない!離婚だ!さっさと俺の家から出ていけ!」
そう言われて、腕を乱暴に掴まれ外へと投げ出される。
せめて靴くらいは履かせて欲しかった。
どうしてこんなことになってしまったの?
――それは私が口ごたえしたから。
どうしてこんなことになってしまったの?
――それは私が何も出来ないから。
どうしてこんなことになってしまったの?
――それは私が……何もかも悪いから。
どうして、どうして、どうして……――。
✱✱✱✱✱✱✱
「オヤシロ様ぁ、外ににんげん、居るのよ」
「オヤシロ様、にんげん、倒れてるゾ」
オヤシロ様と呼ばれた白髪の男は、着流しの前を胸元が見える程に乱しており、雨が降るのに不思議と濡れてない縁側に寝転びながら手持ち無沙汰にぼんやり煙管をくゆらせ、声をかけてきた歳の頃5歳ほどの双子にめんどくさそうに視線をやる。
「はぁ?バカ言うな、こんな辺鄙なとこに人間なんぞ来るわけねぇだろ」
「でも、居るの」
「おう、居るゾ」
あしらうようにオヤシロ様が言うも、食い下がる双子。少し考える仕草を見せると、煙管から吸った煙を面倒臭そうに、しかしこれみよがしに溜息をつくように吐き出した。そしてゆらりと立ち上がると部屋を出る。
歩く度に軋む廊下は耳障りでしかない。
オマケに外は雨。
憂鬱さにゲンナリしていれば、神社の境内に倒れている人影を見つける。
「チッ……面倒臭そうな匂いがするぜ……ったく、なんで俺が……」
文句を言いながらも倒れている人間をひょいっと軽々と抱える。
想像していた重さよりずっと軽い体重と、雨に濡れている事で冷たくなった身体に眉を寄せ、再び深く溜息をつくと、いつの間にか発生していた霧の中に姿を消したのであった。
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