太陽の下で聖女と竜は恋をする
秋犬
序章
2人の少女 ~リーベとティア~
月明かりの下で、2人の少女が不安げに寄り添っていた。
「ねえリーベ。月が綺麗だよ」
「本当ね、ティア」
リーベと呼ばれた少女は、ティアと呼ばれた少女の肩を抱く。
「ティアは怖くないの? 私たち、明日死ぬかもしれないのに」
「ううん、もう何も怖くないんだ。リーベと一緒なら、なんでもいい」
ティアはリーベの体温をそのまま貪るように身を腕に預ける。
「でも、出来れば死にたくないわ。絶対生きて帰らなきゃ」
リーベはティアの頭を撫でる。ティアのオレンジ色の長い髪はひとつに編み込まれ、竜の尾のように垂れていた。このオレンジ色の髪に紫色の瞳を持つ少女が人間ではなく、魔法で姿を変えた竜であることをリーベはよく知っていた。
「そうだね、ボクも生きて帰ったらリーベに言わなきゃいけないことがあるし」
ティアはリーベを見上げる。短く切り揃えられた白金色の髪と紺碧の瞳からは彼女の意志の強さをよく感じることができた。
「そういうことはすぐに言った方がいいわ」
リーベはティアに話をするよう促すと、ティアは黙って下を向いてしまった。
長い沈黙の後、ティアはようやく口を開いた。
「そうかな。じゃあ聞いてもらおうかな、でもその前に……」
ティアはリーベに向き直った。
「ボクはリーベが大好きだ。だからこんな話をしたらどう思われるか心配で……」
「わかっているわ。嫌いになんかならないから、安心して」
リーベはティアの手を握る。その手は白く震えていた。
「それじゃあ、話をするね」
ティアはようやく話し始めた。
「まずはボクのこと。そして、キミがボクを拾ってくれた時の話」
リーベはそれを聞いて、ティアと出会った日のことを思い出した。そして手のひらの上で息も絶えそうであった竜と目の前のティアを重ね、感慨に耽らずにはいられなかった。
月は静かに2人の上にあった。かつて聖女と呼ばれたが罪人として追放、処刑されたリーベ――ルベリア・ルナールと、凶兆の証として忌避され命を絶やすところであった小さな竜のティアの上に朝日が昇るまで、今少しの時間が必要であった。
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