貴方

ヤミーバッファロー

1

死にたくなった。真夜中。深夜2時46分。良い子は寝る時間。大好きなイラストを書くのに集中していたら、こんな時間になってしまった。

大きくあくびをする。冷蔵庫からミシミシと機械音が聞こえて少し怖さを感じた。スマホの画面を覗き込み触れると「未読」のその文字は変わらなくて喉がきゅっとなった。正体不明の熱は喉に詰まり、私の涙腺を刺激するのだった。原因は自分でも分かっている。でも、自覚したくない。だから、分からない。矛盾を抱えながら椅子にもたれかかると、思わず力が抜けため息をしてしまった。机の上には、お気に入りの万年筆とクリーム色の紙。少し色あせた紙が私の絵をより引きたてた。理想のスタイルで、フリルのついた可愛いドレスを着た黒髪の少女がそこにはいた。もう存在しないことなんて分かっている。でも少しだけ幻覚を見させて欲しいの。

私は万年筆を握った。



肩より少し短く艶のある黒髪を持つ貴方は微笑んでいた。私は覚えている。周りとは違うお人形さんのような素敵な洋服を着ている貴方のことを。あの日、私が声をかけると微笑んでくれた。「この洋服可愛いね。お人形さんみたいで好き。」という私に、「この洋服はねロリータファッションっていうの。海外のお嬢様みたいでしょ!」とにこにこしながら話してくれた。



私の視界に映るのは、紙の上に描かれた貴方。

私は貴方と話したいの。また聞かせて欲しいの。



私服登校が認められている、私の高校。「制服」というみんなと同じものを身につけることに嫌気が差した私はお世辞にも人気の無い、この高校を選んだ。人気が無いのは、不良が多かったり頭の善し悪しではなく、立地の不便さと見た目の悪い廃れた校舎が原因だった。

初登校の日。教室で貴方を見た時。つい心がはずんで気がついたら話しかけていた。


その日から貴方は学校に来ていない。最初は心配と不安で貴方が頭の中から離れなかったが、今は1ヶ月が経ち少し余裕が生まれているのが憎い。

だからこそ、時々思う。



また貴方に会いたい。



この気持ちを誰かに相談しても、たった1度会った人の話でしょ?と言われてしまうのかもしれない。

だからこそなんだ。たった1度しか会っていないのだ。その1度の数分の会話が、私をここまで苦しめる。


でも実は予想は当たっているのかもしれない。貴方が学校に来なくなって1週間程経ったある日のこと。貴方の机が無くなっていることに気づいてしまった。

それに加え貴方のロッカーから靴入れまで、すべて名前が無くなっていた。


せめて名前を聞いておけばよかった。人間って怖い生き物で、記憶がどんどん鈍くなる。貴方の声はもう分からないし、貴方の発した言葉の一言一句も正確に覚えていない。曖昧な記憶を辿っているのだ。

生きているのかも何があったのかも分からない私は絶望だった。




「既読通知 1件」


スマホが通知音と共に振動した。慌てて画面を見ると、「連絡ありがとうございます。ロリータファッションにご興味があるんですね。初心者さんですと、おすすめのブランドは…」

このメッセージの送り主は、見知らぬロリータファッションを着こなす人。インターネットで見つけ、すぐさま連絡をした。理由は、貴方に似ているとかではなく、ただロリータファッションを着ていた人だったから。髪は長く金髪、でも貴方と同じくロリータファッションを愛している人だった。



貴方に、またいつか会いたい。その一心で私はロリータファッションを調べていた。


死にたい。これは少しの逃げと勇気。不安を抱きながらも、貴方を探している。

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貴方 ヤミーバッファロー @fyame_

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