鑑賞会(エロ会)

 ある日、バカの魔窟に先輩がやってきた。

 彼女は手にあんまり日中に持っていてはいけないパッケージを携えている。

 「ねぇ、Jに説教してやって」

 Jというのは、バカの蠱毒の中でもかなり有力視されている大バカである。

 深夜、酒によって粗末な芋を取り出して叫ぶ、自らを嘆く、そのまま酔い潰れるという迷惑極まりないバカであった。

 今度あんなことをしでかしたら、男性用美容外科の前に捨てようと私たち別のバカ一同は決意していたものだ。

 しかし、この大バカ、どういうわけか先輩とつきあっていた。

 そして、この先輩、すなわち、今、部屋で私たちに場違いなパッケージを手渡そうとしている人は、美人であったのだ。

 

 「あいつ、こんなの持っていたのよ!」

 そう言って先輩は机の上にピンクのパッケージを置く。

 うん、まぁ、それは怒りますよね。

 「みんな、これ、わたしより綺麗だと思う?」

 えっ? そういう怒りですか。

 バカたちは困惑する。

 どのような答えを選んでも、というか答えたら、それだけでセクハラになりそうであるし、怒られそうでもある。巻き添えは食いたくない。

 こわばった笑みを浮かべながらパッケージを受け取ったバカたちは、夜、Jを呼び出した。

 説教会場は私のアパートである。

 当時住んでいた部屋は八畳であったが、半分は机と本棚で塞がれている。

 わずか四畳に河原の石の裏に集まる虫のごとくひっついた私をふくむ三名のバカはJを待つ。


 何事か知らずに暢気な顔であらわれたバカにすっとパッケージを差し出す。

 Jの顔が青ざめる。

 「どこでこれを?」

 このバカは、隠していたつもりだったらしい。


 バカの一人が訥々とつとつと話しはじめる。

 「学究の徒として苦言を呈したい。ここで学ぶ以前にも同様の経験はいかほどもあるはずだ。それをどうして改善できないのか。過ちて改めざる是を過ちと謂う」

 話題はピンクのパッケージである。

 「君は我々の小さなコミュニティに脅威をもたらした。あの時、答え方によっては、我々は追放の憂き目にあっていたかもしれないのだ」

 別のバカがぼそっと続ける。

 話題はピンクのパッケージである。

 「これから、この作品についての談話分析をおこない、その後、君の購入理由について、聞き取り調査をおこなうことになっている」

 バカの三人目が厳かに締めくくる。

 話題はピンクのパッケージである。


 具体的な「談話分析」や「聞き取り」については、あまりにもひどいために省略する。

 ただ、小さな部屋で男四名(うち一名正座)がしかめっ面でピンクのパッケージの中身を鑑賞し、「分析」と「聞き取り」をおこなう姿は地獄絵図であっただろうことだけを記して、この稿は終わる。

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