第20話
給仕の男性の問いかけにキャンディスは首を捻る。
「今からアルチュールと一緒に食事をするつもりでわざわざ連れてきたのよ!」
「それはつまり……食べている姿を見せつけるということではないのでしょう?」
「──はぁ!?」
キャンディスが驚いて声を荒げると、給仕の男性もシェフも肩を揺らす。
辺りを見回すと、皆が当然のようにキャンディスがそうすると思っていたというような視線を感じていた。
そういえばキャンディスはこういった嫌がらせを好んでやっていたことを思い出す。
『わたくしのやりたいことを察して動きなさいよっ!』
これもキャンディスの口癖の一つだ。
しかし牢の中で散々嫌がらせを受けた記憶を持つ今のキャンディスにとっては、自分のやってきたことを思い出すとゾッとしてしまう。
つまり給仕たちはキャンディスの贅沢をアルチュールに見せつけようとしていると解釈して動いたようだ。
だからアルチュールの前に皿も食器も用意されなかった。
ジャンヌが怒りを堪えていた理由もわかったところで、キャンディスは料理人や給仕たちを集めるように言った。
全員、集まったことを確認したキャンディスはゆっくりと口を開いた。
「わたくし、もう子供じみたわがままはやめにいたしますわ!」
「「「!?」」」
「これからは出されたものを食べるし、過度に料理を用意する必要はないわ!」
キャンディスの言葉に持っていたトレイや布が音を立ててパタパタと落ちていく。
「今までアルチュールにもひどいことをしてきたけれど、これからは仲良くしてあげなくもないと思っていますの!」
キャンディスの言葉に皆が顎が外れてしまいそうなほどに愕然としていたが、キャンディス自身はふんぞり返って得意げであった。
それはアルチュールのためではなく自分の未来のために必要な行動なのだ。
キャンディスが好き嫌いをしないと宣言したこともそうだが、アルチュールと仲良くすると言ったことが信じられないのだろう。
キャンディスは改めて給仕の男性にアルチュールの食器を用意するように頼むと、呆然としていた給仕は急いでアルチュールの前にナイフやフォークを並べていく。
これで死刑への道が遠のいたと安心していたキャンディスが料理を食べようとした時だった。
「キ、キャンディス皇女様、料理が冷めたので作り直します!」
シェフが慌てながらそう言った。
しかしキャンディスは小さく首を横に振る。
「大丈夫よ。このままでいいわ」
「そんなっ、皇女さまぁ」
「ですが皇女様……!」
シェフたちは後々、冷めた料理を出したと後々キャンディスに責められてしまうと思ったのだろう。
張り詰めた糸が切れたかのように、コック帽を取って震えている姿を見ていると少しは申し訳ない気持ちになってくる。
それに今まで野菜を一切、口にすることはなかったキャンディスがサラダを手に取ったことに驚いているようだ。
今までは彩りのためだけにサラダは置かれていただけ。
キャンディスはいつもは絶対に手をつけない野菜のサラダにチラリと視線を送る。
(確か婚約者のジョルジュにはよく、この葉っぱを食べた方が体にいいと言われたけど本当なのかしら……)
バランスよく食べるジョルジュと違い、キャンディスは肉と甘いものしか食べなかった。
ルイーズもバランスのいい食事をとったほうがいいとキャンディスに意見してきたことがあったことを思い出す。
(バランス、バランスってこれは下々の者たちが食べてお腹を満たすものでしょう?わたくしはこんなもの食べなくても……っ!)
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