第16話 乃呼斬奏/ノコギリソウ

バルキュリア王国 広場 オジョウ処刑予定場所


 処刑予定時刻10分前。


 広場の真ん中には処刑台が用意されそこにオジョウは枷をつけられ座らされている。


 オジョウの姿は所々傷つき、着ていたドレスが乱れたりもしているが表情はとても堂々としている。 


 まさにその姿は助けを待つ王女そのものの様だ。


「タイムリミットまで残り10分。いや、9分57秒。さて、お前の仲間は助けに来てくれるかな?」


 オジョウの側にはダイチノ騎士団団長バイラスが。この処刑の責任者として普段余り姿を表さないこの男が民主の前に顔を出した。


「……来ますわよ。あの方は。必ず」

「どうしてそう言いきれる?仲間を信じてるからか?」


「あの方はそういうお方ですから。……それに信じてるのは仲間だからではありませんわ。あ、もちろん仲間ではありますがそれが理由ではないって意味ですわ」

「仲間以外に信じる理由があるのか。お前を救いに死を覚悟で来る理由が他にあるわけないだろ?」


「いーや、あるに決まってるではありませんか。だって私達は仲間以前にダチなんですから。信じられなきゃそれはダチではありませんから。私は最後まで皆さんと自分を信じ抜きますわ」

「ダチねぇ……子供だな。見た目も幼いが内心までも子供だ。お前達の世界じゃそんな甘ったればっかなのか?」


「……寂しいお方ですわね」

「何?……」


「そんな風ににしか考えられないなんて本当に悲しいと言ってるんですわ。世界が変わってもそういうところはどこも同じなんですわね」

「だから何が言いたいんだ?」


「別に。説明しても分かってなんかいただけませんから。ただ、心底かわいそうな人だなぁって思っただけですわ」

「……かわいそう?この俺が?……ハハハッ!」


「嫌な笑いかたですわね……気味が悪い」

「確かに俺には仲間もいなければ友と呼べる奴もいない。お前のいうとおり側から見たら俺は寂しい人間かもな。でもな、そんなもの必要ないんだよ!!人間ってのはなそもそも裏切る生き物なんだよ!……何が信じてるだ?何が信じ抜くだ!笑わせるな!信じた方が負ける。信じた方が裏切られる。この世界信じた方が損をする。そういう世界なんだよ!」


「ですからなんなんでしょう?」


「は?」


「話を聞くところ貴方も色々あったのでしょう。その気持ちが私にも分からないわけではありません。私自身も思うところはありますから。ただしかし最後まで信じられなかったのは貴方自身でしょう?貴方は信じるべきものを間違えた。ただそれだけの話ですわ」

「キサマっ!!喋らせておけば……今自分のおかれてる状態が分かってるのか!?俺の気分次第ですぐさま処刑を始める事だって出来るんだぞ!」


「怒らないでくださる?そういうところですわ。そんな態度だから貴方は信じたら裏切られる、そんな戯言を信じてしまったんですわ。その事実にすら気付かずね。貴方自身もそうやって信じ続ける事で生きられないんですわ。だから貴方も私とやってる事は変わらないんですのよ。ちょっと不服ですけどね…」


「一緒にするなぁっ!!」


「当然、一緒ではありませんからご安心を。やってる事は変わらなくても信じてるものは違うのです。貴方さっき仰いましたわよね?信じた方が負けるって。私はその逆ですわ。いかなる時でも信じなきゃ勝てるものも勝てないと思ってますから。だから貴方は負けるんですよ。自分が信じてる通りにね」


 時刻を確認するバイラス。


「だったら試してみようじゃないか」


 咳払いをする。


「予定を早め只今より処刑を始める!」


 バイラスは声を上げ兵士、処刑を見に来た観衆に宣言する。


 観衆達は待ってましたとばかり声を上げて盛り上がる。


「黙っていればもう少し長く生きてられてたんだ。自分の生き様を後悔しろ。そして証明してやるよ。俺は何ひとつ信じてないって。俺は間違ってないってな!地獄で悔い改めるがいい!」

「…………!」


 バイラスは部下に命令を下しオジョウの処刑を始めさせる。


 が、その時。


「信じ続けた甲斐がありましたわ……」


 オジョウのその一言が処刑を止めさせる。


「まだ言ってるのか…」

「言いますわよ。だって貴方のものより私の方が先に証明されたんですもの」


「?」


「感じませんか?この気配。私には分かりますわ。こんな事が出来るのは私はあの方しか知りませんわ!」


 すると広場の奥の方から騒ぎ声が聞こえてくる。


「なんだ?何の騒ぎだ?何が起こってる?カイゼル!お前、副団長だろう。何が起こってるか説明しろ」

「それが、分かりません……」


「分からない?何でだ!?だったら他の兵士にでも聞いて説明させろ!」

「そんなのしても無駄にきまってるじゃないですか!お忘れですか?団長の命令で動ける兵士達は皆この広場に集まっています。誰もこの事態を事前に知り得る事なんか出来ないんですよ!」


「クソっ……この出来損ない達が!!」


 騒ぎの声はどんどん大きくなってきて次第にその声が人の声ではないことが分かる。


「この声、まさかモンスター?何故だ?何故、モンスターがこの街に侵入しているんだ!?おいっ、ゲンマノモリに通ずる門は封じてある筈だよな?」

「はい。奴らが通って来るであろう部分を除いては」


「まさかそこからか?」

「いえ、その可能性はないかと。常に門の外には手練れの兵士や冒険者達が門を守っていますし、今までに野生のモンスター達がスタンピードなどの暴走が起きた時でも門が破られ侵入された記録はありません。ですからこんな事はあり得ないんですよ!」

「だが、この声はどう考えてもモンスターだろ!どうなってんだ!!とにかく迎撃準備だ!急げ!こんな騒ぎ王にでも知られてみろ。俺やお前だけじゃない。ダイチノ騎士団そのものの存在が危うくなるぞ。…なんとかしろーー!」


 そして遂にモンスターの姿が目視できる距離までやって来る。


「おい、アレ!マジかよ……よりにもよってなんでこんな大型モンスターが街にやって来てるんだ!」

「しかも多数。特に先頭2体は推定Sランク以上の強敵と見られます!」


 兵士達が騒ぎだす。


「グワァーーーーッ!」


 モンスターの声が広場中に響き、処刑を見に来た観衆達がその場を離れようと慌てだすがパニックなって逃げ出すことが出来ない。


「ん?……あの2頭の背中に乗ってるのって、人間か?!しかも、先頭に乗ってるのはアイツか!!でもどうやって!?なぜモンスターがアイツらの指示に従っている!?」

「おいっ!カイゼル説明しろ!アイツらはなんなんだ!!」


「あの先頭に乗っている女見えますか?アイツが例の転移者、キリュウハルカです!」

「アイツが……。フンッ。やっぱりモンスターなんじゃないか。奴は転移者なんかじゃない。そうじゃなきゃモンスターを従えられる理由がないからな。奴らもとうとう正体を現したって訳だ!きっとこの女も正体は……」


「ちょっと失礼じゃなくって!嫁入り前の女性をモンスターだと疑うなんて冒涜ですわよ!それに私だってまだ誰とも経験のない処女なんですからね。…って変な事言わせないでくださいましっ!!この変態!」

「最後のはお前が勝手に言い出したんだろうがっ!!誰もそんな事聞いてないんだよ!お前達は正気か……くそッ!今日は散々だな!」


 モンスター達は広場に着き歩みを止める。


 そしてモンスターの背から2人の女が降りてくる。


 1人の女が首に身につけているネックレスが揺れてその姿を目立たせる。


「なんとか間に合ったみたいやなぁ……」


「約束の時間まで残り5分。ギリギリね。もうちょっと早く着くつもりだったんだけど」


「仕方ないやろ。私も遙もこの街の事をよくは知らんわけやし迷っても仕方ない。この世界の紅生姜達だって分からんのやから無理もないって。でもええやん。オジョウはまだ生きてて、時間にも間に合ったんやからさ」

「ッ……まあ、そういう事にしておきますか。1番の目的は果たせそうだしね」

「そういうこっちゃ!」


 周り兵士達は騒動の中なんとか体制を整え臨戦体制に入る。勿論、バイラス達も。


「お前ら、よく来たなぁっ!……まさかこんな無茶苦茶な方法で仲間を助けに来るとはな!仲間を人質に取られて、自分達の正体を隠すのも面倒になったか。」


「はぁ?」

「遥。コイツ何言ってるん?」

「さあね。馬鹿なんじゃないかしら?」


「まだ転移者のフリをするつもりか。この化け物達がッ!!多数のモンスター達を率いて街を侵略に来てそれでも尚隠し通せるとでも思っているのか!!」


「ほら、言うわんこっちゃない。やっぱり間違われたやんかー。遥、どうするつもりなん?」

「どうするも何も、誤解したいなら勝手にさせとけばいいでしょ?さっきもそういう話をしたばっかでしょ。沙莉、私達がやる事は何も変わらないわよ。ダチを助けて仇を討つ。この子達も一緒にね!」


「そうやったな。紅生姜達はもう仲間や。それでどう思われようが関係あらへん!私達がこの喧嘩を勝つ!そういう事やな!」

「だからさっきからそう言ってるでしょ。……オジョウ!!」


 遥の大きな声は広場の奥の処刑台まで響く。


「部長……貴方って方は本当に無茶苦茶ですわね……でも部長らしいですわ」

「ちょっと待ってな。すぐに助けてあげる。……返事!!」


「んっ……ハイッ!!私、待ってますわ!」


 それに応える様にオジョウも大きな声で返事をする。


「フッ。元気でなにより」


 遥とエプロンは互いに顔を見合わせ、何かを感じ取ったかの様に頷く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る