第8話 緋頑薔涙/ヒガンバナ

 

「「え!?」」


 2人を襲う事に失敗した男はまさかの出来事にとても動じている。


 こんな事態に周りは騒然。


 街には悲鳴や騒ぎ声が響き渡っている。


「大丈夫?2人とも怪我してないよね?」

「うん…なんなのよアイツ?」

「…ええ。カカシさんのお陰で助かりましたわ。ありがとうございます」


「いいよ。別に気にしないで」

「でもなんでこんな目に?あ、もしかして私達がお金を持ってない事に気づいたからではありません!?だから、私達を殺そうと…」

「だからあれは冗談だったんだってば!」


「そんな事言うからきっと、冗談が本当になっちゃったんですわ!」

「私のせいじゃないでしょ?!」

「でも、それしか考えられませんわ!」


 2人の痴話喧嘩に割り込むカカシ。


「いーや!それは違うと思うよ。だってあの人ずっと前から私達のことをつけてたみたいだし」

「そうなの?」

「そうなのですか?私ったら全く気付きませんでしたわ……」

「ほら、私のせいじゃないじゃん」


 男が合図を鳴らすと至る所から一斉に男と同じような風貌の奴らが大勢現れる。


「わっ!てかこんなに沢山出てきちゃって……一体どうなってんのよ!?」

「この方達は何が目的なんでしょう…」


「さぁ?分からないけど私達に用があるのは確かなんじゃない?」

「用ってなんなんですの?私達とこの人たちとは知り合いでもありませんし、目をつけられるような事は何ひとつしてませんわ!」

「そんなの知らないよ!でも、物騒な事は考えてそうだよ、この人達。じゃなきゃあんな剣とか物騒な物を持って襲ってこないでしょ!」


「そりゃそうだ!で、どうすんのよ私達。とても逃してもらえるとは思えないけど」

「そんなの簡単だよ!逃げ道がないなら自分で作ればイイだけじゃん!」


 そう言うとカカシは男達の元へ突っ込んでいく。


「ちょっ!カカシ!」

「カカシさん!?」


 突っ込んで行ったカカシは男達を楽々と倒していく。


 次々と男達がカカシを倒そうと挑んでいくが全く相手にならない。


「……やっぱあの子強いわ。流石、全戦全敗の女。あの人以外が相手だったら無敵ね」

「本当ですわ。戦う相手にこだわりさえなければ園芸部入りも夢じゃないでしょうに。本当にもったいない才能ですわね」


「…でも正直カカシが一緒で助かったわ。いなかったら今頃どうなってるか…」

「ええ。だけど、私達も一緒に手伝わなくてよろしいんですの?」


「手伝いって…私達が行っても足手まといになるだけでしょ。私達2人とも喧嘩するの下手なんだから。それなのにいきなり刃物持った相手に実践なんて自ら死にに行くようなものじゃない。忘れたの?」

「そうでしたわね……」


「いいのよ。こういうのは得意な奴に任せておいた方が上手くいくに決まってるんだから。だから私達はカカシの応援よ!カカシ、いっけーーッ!」

「ええ!そうですわね!カカシさん、思い切っりやっちゃってくださいましっ!!」


「2人とも、勝手なんだから…。だけどこれだけ応援されて期待に応えなきゃ、私じゃなーーいッ!!」


 ノリに乗ったカカシは襲ってきた男達を1人残し楽々と倒しきる。


「最後はアンタだけだよ!観念しなッ!」


「ヨシっ!流石カカシ!」

「本当凄いですわっ!!カカシさん!」


「ぐぅっ……」


 その時だった。


 どこからともなく男の声が聞こえてくる。


「やるじゃないか!」


「「「え?」」」


 声が聞こえて辺りを見渡すが何も変化は見受けられない。


「カモメさん、なんか仰いました?」

「いやいや、私じゃないから。どう考えたって男の声だったでしょ?」

「でもそこにいるアイツは何も喋ってないよ。私ずっと見てたから間違いない」

「じゃあ誰が?」


 再び男の声が聞こえる。


「噂どおりお前達はただの転移者じゃないらしいな。せっかくこの世界に来たんだ。ただ俺達に殺されるんじゃ味がないからなぁ。でもお前達は甘すぎる。こんなんじゃ戦いを舐めていると言われても仕方ないな」


「なんなのコイツ……姿も現さず好き勝手言っちゃってさ!」

「そうですわ。用があるなら男らしく姿を見せたらいかが!」


「カカシひとまずそこにいるソイツをやっつけちゃったら?コイツ、周りの奴を全て倒さないと姿を現さないつもりかも」

「そんな、ゲームじゃないんですから…」

「…だね。だけど、どうせ戦わなきゃ行けないなら敵は少ない方がいい」


 そう言うとカカシは残されたら男を簡単に気絶させる。


 パチパチパチパチパチ


「転移者にしては流れがよく分かってるじゃないか。いいだろう。でも甘すぎるぞ。何故殺さない?お前は勝負に勝ったというのに。だが、気に入った。お望み通り見せてやるよ、俺の姿!!」


 建物の影から、鎧を纏ったガッチリとした屈強な強面の男が現れる。


 男の姿を見た瞬間、カカシが構える。


 さっきまで余裕そうな表情を見せていたカカシだったが今は違うようだ。


「……2人とも下がってて。コイツ、見た目と口だけじゃないかも」

「マジで!?あの人より強かったりする?しないわよね!?」


「それはないと思うけど、実際戦わないとそれは分からないってば」

「でもあの体にあの鎧。相当なパワーの持ち主に違いありませんわよ」


「でも顔面は無防備。きっとカッコ良さを意識して1番大事な箇所を守ってないのよ。それに鎧の重さでまともに動けるわけがない。こんな間抜けな奴、パワーでは敵わなくてもカカシならなんとか出来るでしょ?」

「やるべき事はやるけどさ。なーんか嫌な予感がするんだよね……」

「そんな不吉な事言わないでよ。ちょっと心配になっちゃうでしょ?…オジョウもなんか言ってやってよ!」


 カモメが振り向いた先には何故かオジョウの姿は無い。


「あれ、どこ行ったの?」

「チッ、…当たっちゃったよ。嫌な予感!」


 何かに気づいたカカシの表情はどんどん険しくなっていく。


「なに?どういう事?」

「ほら、あっち見てって!結構ヤバい状態だから……」

「ん?」


 言われて男の方を見てみると、何故かそこにはぐったりとしたオジョウの姿が。


「ウソ!…どうなってんのよ!!いつの間に!ってなんでオジョウがあっちにいんのよ!」

「……そんなの分からないけどしいて言うなら」


「しいて言うなら?」

「ここが異世界だからなんでもアリって事!」

「なんでもはなしでしょ!なんでもはさ!」


 明らかに動揺しているカモメを見て男は喋り出す。


「そこの小娘。安心していいぞ。この女は気絶しているだけ。まだ死んではいないしまだ殺しもしない」


「……私達のやり方はあれだけ甘いって言ったのに殺さなくていいわけ?」

「この女にはまだ利用価値があるからな。殺してしまってはもったいない」


「そ。…カモメ。オジョウの事は私に任せてこの事を早くウチの奴らに知らせに行って」

「いや、カカシをおいて、そんなの出来るわけ…」


「いいから早く!大丈夫だって。カモメが言ったんでしょ?私ならなんとか出来るって。だから信じてよ」

「……分かった。分かったよ。めちゃくちゃなる早で知らせてくるから!それでいいんでしょ!?」


「うん。お願い」


「おいおい話を勝手に終わらせるなって。俺にはまだまだやり取りしなきゃいけないことがあるんだからよ」


 「いーや、コレで終わりよ。評価してもらうのは嬉しいと思うけどアンタが言うようなそんな価値はお断り。…オジョウは返してもらうよ」

「焦るな。お前にもお前に見合った価値なりの役目があるんだからよ」

「だから、そんなのお断りって言ってるでしょうが!!」


 カカシは勢いよく男に向かって飛び出していく。


 カカシが放った男の頭部を狙った蹴りは当たりはしたがダメージらしいものは全く与えられていない。


 絶えずカカシは感覚を空けずに次々と攻撃を加えていく。


 カカシに託されたカモメは全速力で走り出す。


 が、目の前には男が道を塞いでいる。


 カモメは警戒しながらも強引に突破しようとするが、男に剣を突き出され足を止めてしまう。


「ちょっとッ!!退いてってば!!」


「悪いな。こっちにも事情があるんだ……お前にはまだ逃げて貰っちゃ困るんだ。だからここで黙って見ていてくれ。頼む」


「まだ?……。ってあれ?アンタ…見たことあるような?え〜っと、あ、そうだ!昨日いきなりウチに乗り込んで来て結局部長にボコボコされた奴でしょ!!……それなのにまだ懲りてないわけ?いい加減にしてよ。こっちが何したって言うのよ!」

「言ったろ。こっちにも事情があるんだよ。お前の気持ちは察するがこっちも人生がかかってるんだ。……恨むなら後にしてくれ」


「どういう意味?」

「…………」


 カモメが逃げられずに足止めをされている事に気づいたカカシ。


「カモメ!!」


「どうする仲間を助けに行くか?それとも、これだけやっても無駄だと分かっているのにまだ俺と戦うか?」


 この時点で既にカカシの体はボロボロになっている。


 当然、拳や足では奴が着ている鎧に傷などはつけられない。


 かといってガラ空きの頭部を集中的に攻撃し続けても奴の表情はこれっぽっちも変わらない。間髪空けずに攻撃し続けたカカシは体力的にも精神的にも限界が近づいていてもおかしくはない。


「…………チッ!」


 仕方なくカカシは奴との決着を諦め、残された体力を全力で振り絞りカモメを助けに走り出す。


「いい判断だ。……だからこそ、させるわけにはいかない。お前には1番大事な役目を全うして貰わなければ困るからなぁ」


 カカシとカモメとの距離は残りわずか。


 目の前にカカシの歩みを邪魔する物は何もない。


 このまま行けば数秒もあればカモメを助ける事も出来るだろう。


 そう本能的に思った瞬間であった。


 瞬きをしたその一瞬。


 何もなかった目の前に何故かあの男がいる。


 あり得ない。


 さっきまでは誰もいなかった筈なのに。


 武器を構えた男はニヤリと笑う。


「お疲れさん」

「ッ!…マじ、かよ……」


「!!!」

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