第3話 迅邪会/ジンジャー
園芸部のドアがノックされ中からの返事を待たずにドアが開く。
「失礼しますっ!ご報告がありまして」
「カモメ。いつも言ってるでしょ?急いでる時でも必ず返事を待ってから開けなさいって」
「すみません、アシュラさん。しかし、今回は大事な報告がありまして……本校内に何者かが侵入しようとしています。この緊急事態速急にお伝えしなければいけないと思ったんです」
「みたいね。知ってる」
「え、そうだったんですか?」
「だってここからも見えるもの」
「あ、そうでしたか……。唯一、園芸部の部室からは学園の敷地内は全て一望できるんですもんね」
「うん。それに、さっきあっちの方からご丁寧に私達に声までかけてきたからね、そりゃあ分かるわよ」
「声?まさか、既に直接接触されたんですか!?」
「違う、違う。私達は声を聞いただけ。文字通りにね」
「でも、どうやって?姿は見えても流石にあそこから声までは届きませんよ」
「それがさ、正直私達も驚いたよ。でも、納得もした。やっぱりここは異世界で、異世界には魔法が存在するんだなぁって現実を突きつけられた気がして」
カモメが一年と話しているあの時。
園芸部には異変が起きていた。
正確に説明するなら部員だけに。
「なんやコレ…」
「ねぇ、ねぇ。こんな感じになってるのって私だけ!?ねぇ、どうなの?ねぇ!?」
「落ち着きなさいよ、エンジェル。大丈夫よ、一人じゃない。多分私も同じだから…」
「……変な感じ。色々なところから音が聴こえる」
「サシミも同じみたいね。…もしかして、エプロンさんも同じだったりします?」
「大正解。……なんかもう、頭がガンガンすんな…」
「はい…。なんなんでしょうコレ?ここにいる全員が同じ目に遭ってるなんて、変ですよ」
「変やけど、仕方ないやろ。現に頭も変になりそうな事が実際起きてるんやから」
「アレ?」
「…なに。どうしたのエンジェル?」
「なんか聞こえてこない?頭も痛く無くなってきたし…」
「はぁ。なにも聞こえないし、頭も痛いままだけど!?」
「ほら、聞こえるじゃん!男の声!」
「男?男なんて部室にいるわけないでしょうが!?こんな時にふざけないでよ!!」
「だって、本当だもん!!」
「……アシュラ。私も聞こえるよ」
「ほら!私だけじゃないじゃん!!だよね、やっぱり聞こえるよね?」
「……うん」
「…アシュラ、エンジェル。2人には何が聞こえてるん?」
「ん〜〜。バルキュリア王国が何かって言ってるかな?後は分からない」
「……私も同じ。所々部分的で理解出来ない」
「どうなってるんですか?これ。…あれ?」
「どうしたん?まさか、アシュラもか?」
「はい。頭が痛く無くなって来たと思ったら男の声が聞こえてきます。…ちょっと待ってください。なんか分かってきてる気が。えーっと、バルキュリア王国、大地の騎士団?とかって言ってますよ」
「…バルキュリアってこの国の名前やろ。その国の騎士団が何の用?」
「分かりません。なんか言ってる気もするんですけど、やっぱり部分的でよく分からないんです」
「でも、なんか徐々に聞きやすくなってない?」
「……うん。さっきより分かるかも」
「あ!私もようやく聴こえてきたで。でも、なんか変な感じやなぁ。耳からじゃなくて頭から他人の声が聞こえてるって」
「ええ。新感覚過ぎてきっと体が追いついてないんですよ。あ、だから頭も痛くなったんじゃ?」
園芸部全員の頭の中にハッキリと男の声が聞こえる。
「聞こえるか。我の名はカイゼル。バルキュリア王国、七騎士団の1つ。ダイチノ騎士団、副団長である!聞こえているのなら返事をしろ!城の中にいるのは分かっている。返事をしないか!」
「返事って言われても……ねぇ?」
「……うん」
「私達じゃ返事のしようがあらへんからなぁ」
「ねぇ、もしかしてこれってさ」
「エンジェル?」
「聞こえているのだろう?早くしないか!この森にこんな大きな城で住んでいるのだから念話魔法ぐらい使えるのだろう?でなければ説明がつかん。強者なら強者らしく早く返事をしないか!この無法者が!」
「やっぱり魔法だーーーーッ!!魔法だよ!やっぱり魔法って実在するんだよ!ほら、魔法だ!マ・ホ・ウ!」
そして、時は戻る
「って、エンジェルが初めての魔法に興奮してたのをようやくさっき落ち着かせたばっかりなのよ。お陰で話が進まなくて大変だったんだから。でもほら、騒ぐだけ騒いで満足したから寝てるでしょう?ほんと、子どもみたいよね」
「……でもちょっとかわいいよ」
「まぁね…そういえばカモメには聞こえなかったの?頭とか痛くならなかった?」
「いえ、全く。その時は一年と一緒にいましたけどその子達もそんな様子ありませんでしたよ」
「そう。…エプロンさん」
「魔法の対象になってたのはどうやら私達だけだったみたいやな」
「でも、なんで?」
エンジェルが会話に割り込んでくる。
「それは私達がこの学校の中で1番強いからじゃないの?私達がここの頂点なんだからさ」
「……相手の話からもそれはありえるかも。あっちも強い人と話したそうだったし。きっと、代表に会いたいんだよ」
「だとしても、アイツらとは初対面なのに。どうやって私達の事を判別したのよ?」
「さあ?」
「……分からない」
「分からないのは仕方ないやん。それこそ考えても沼にハマるだけや。同じ様なことをこの前自分でも言ってたやんか。そんな無駄なことを考えるより外を見てみ」
全員が一斉に窓を覗く。
「ようやくウチの代表がお目覚めみたいや。きっと面白い事になるで」
「いつの間に…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます